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愁斗side
楓「ほんとに、いいの?泊まって」
楓弥が玄関で少し不安そうに笑う。
愁「いいに決まってるだろ。むしろ嬉しい」
俺も笑い返した。
その笑顔が、今日やっと見られた
“いつもの楓弥”の笑顔だった。
楓弥はスマホを取り出して、
短くメッセージを打った。
「今日、友達の家に泊まるね」
それだけ。
画面を見つめる横顔が、
ほんの少しだけ震えていた。
愁「……大丈夫?」
楓「うん。既読ついたけど、何も返ってこないから」
愁「なら、今日はゆっくりしよう」
その夜、俺たちは「恋人」として、初めての時間を過ごした。
俺たちは、台所に立った。
料理なんてまともにしたことなかったけど、
楓弥がエプロンをつけた瞬間、
なんかそれだけで部屋が
明るくなった気がした。
楓「これどうやって切るんだっけ?」
愁「いや、俺に聞く?!」
楓「え、愁斗くんもわかんないの?」
愁「うるさいな、Google先生呼ぶぞ」
俺が火の番をしている間に、
楓弥は「味見!」と言ってつまみ食いをし、二人で他愛もないことで笑い合った。
楓「……なんか、久しぶりにこういうのした」
愁「こういうの?」
楓「誰かとご飯食べて、笑って、しょうもない話して。
最近、全部怖くて、まともに笑えてなかったから」
楓弥の声が少しだけ小さくなる。
俺は言葉を選んでから、
愁「ここでは、何も怖くないよ」
って言った。
楓弥はうつむきながら、小さくうなずいた。
食事の後は、
リビングのソファでお菓子を食べながら、
最近見た映画や、
昔のBUDDiiSのレッスンの話をした。
少し疲れたら、
ゲーム機のコントローラーを握って、
他愛もないことで大笑いする。
こんなにも楓弥が
心からリラックスして笑っている顔を
見るのは、本当に久しぶりな気がした。
最近の楓弥は、
いつもどこか張り詰めていたから。
気づけば、時間はもう夜中をまわってた。
楓弥があくびをする。
楓「眠い……」
愁「寝室使えよ。ベッド一個しかないけど」
楓「じゃあ……一緒に寝てもいい?」
愁「……いいよ」
電気を落とすと、部屋が静かになった。
布団の中、隣で楓弥の呼吸が
ゆっくり整っていく。
楓「ねぇ、愁斗くん」
愁「ん?」
楓「今日はありがと。
なんか、久しぶりに“普通”の時間過ごせた気がする」
愁「普通がいちばんいいよ。
笑ってるお前がいちばん楓弥っぽい」
俺は彼の髪を優しく撫でた。
そのまま二人で、
しばらく無言で夜の帳を見つめていた。
静寂を破ったのは、楓弥の、
震えるような声だった。
楓「…明日、帰りたくない」
その一言に、彼のすべての不安と、
彼が過ごしている地獄のような日常が
凝縮されている気がした。
俺は言葉ではなく、行動で返した。
彼の顔に手を添え、ゆっくりと唇を重ねる。
愁「チュッ……」
楓「ん…」
優しく、長く、決して楓弥を
焦らせないように、愛情を込めて。
愁「ねぇ、もうちょっと付き合って」
そう言って、
俺は彼のTシャツの裾に手をかけた。
彼は一瞬躊躇したが、ゆっくりと頷き、
目を閉じた。
Tシャツを脱がせ、彼の裸の体を見た。
夜の照明の下でも、
その痛々しさは隠せない。
脇腹、二の腕、太もも…新しい青いアザも、少し黄色みがかった古いアザも、
はっきりと確認できた。
愁「…本当に、ひどいな」
俺は自分の不甲斐なさ、
そして楓弥を傷つけたあいつへの
憎しみを噛み締めた。
俺は、彼の傷跡一つ一つに、
償いをするように優しく
唇を落としていった。
二の腕のアザに、そっと。
脇腹の広範囲な青い斑点に、何度も。
腰の辺りの、テーブルにぶつかった痕に、
深く。
愁「チュッ…チュッ…チュッ…」
楓「ん…っ」
楓弥は、苦痛ではなく、
安堵のため息のような声を漏らした。
その瞳は潤んでいる。
楓「…愁斗の、キス…あったかい」
彼がそう呟いた瞬間、
俺の決意はさらに強固になった。
俺は、楓弥の傷を隠すようなメイクを落とし、その痛みを消し去るような愛を、
これからずっと与え続ける。
この秘密の夜が、彼にとって本当の安息の地となるように。
𝐹𝑖𝑛.
コメント
2件
最高でした😭😭