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ことおと
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桜が散る。
春が、終わる。夏が、始まる。
次の季節を迎える準備が、ゆっくりゆっくり始まっていく。たった一瞬咲いて散る、その儚さが嫌いだった。
懐かしい校舎の桜の木の下、俺とmf裙は立っていた。
君が笑う。花が咲くように、笑う。
「tt、どこに埋めたか覚えてる?」
「覚えてないなぁ……桜の木の下、やったっけ?」
俺たちは今日、10年前に埋めたタイムカプセルを掘り起こしにきた。
中学生の頃よりもすっかり大人びたmf裙は、相変わらず笑顔がかわいくて、前よりずっと綺麗になっていた。
あの日、10年前の今日。
俺は、なにを書いたんだったっけ。mf裙の家で2人で手紙を書いて、箱に入れて埋めたことだけよく覚えている。
どこからか、楽しそうな学生の声がする。
目を閉じれば、毎日が楽しかったあの頃に戻れるような、そんな気がした。そっと、瞼を閉じる。
『「ttっ!」』
君の声が、聞こえた。
・・・・・・・・・
「手紙、何書こうかなぁ…」
mf裙が、尖らせた唇にペンを当てる。
思考するときのその癖さえ絵になる。便箋を2枚広げて、2人で机に向かう。
俺からの提案で、mf裙が引っ越す前にタイムカプセルを埋めることにしたのだ。
……伝える勇気がない、この気持ちを。それから未来の自分への激励を、手紙に託すことにした。
すらすら書いた俺とは違って、mf裙はかなり熟考していた。珍しくなかなか進まないペンを見つめていると、mf裙は勢いよく立ち上がった。
「あ〜っ!一旦休憩にしよ!飲み物とってくるから!」
mf裙が一階に降りて、俺は部屋にひとりになった。何度も入ったことがあるこの部屋だけど、引っ越しを控えてすっかり殺風景になっている。
「なーんか、寂しいな……」
ぽつりと溢した本音が、部屋に染み込んでいった。
「tt〜!両手塞がってるから開けて〜」
「お、おうっ!」
「オレンジジュースとリンゴジュース、どっちがいい?」
「リンゴジュース!」
mf裙はジュースと数枚のクッキーをテーブルに乗せてお盆を横に置く。そうして2人揃って手を合わせる。
「あ、このクッキー美味い。おばさんの?」
「そうそう。小麦粉消費のためにね笑」
喋ってゆっくりしながらジュースを飲む。
ちらりと横目で見ると、mf裙の便箋はまだ真っ白だった。
「何書くか、決まらんの?」
「そうなんだよねぇ…。ttは?何書いたの?」
mf裙が好きだってこと、なんて言えない。
氷がグラスの中で揺れて、カラン、と音を立てた。
「未来の俺に応援!がんばれよーって」
誤魔化しながらも笑顔で答えた俺に、君は眩しそうに目を細めた。
「いいね、ttらしくてさ。俺は…全然、未来のこととか想像できなくて。」
暗い声で語る君は、どこか怯えているような、すくんでいるようなそんな気がして。思わず肩を掴んで声をかけた。
「…ッ、未来なんちゅーもんはな、想像できなくて当たり前やねん!俺だってわからんから、頑張れやって応援しただけやもん!」
「……ふふっ!ttってば、どうしたの?笑」
「……mf裙が、悲しそうやったから」
きょとんとしてから、声をあげて笑う君に、こっちのほうが恥ずかしくなって思わず口を尖らせる。拗ねたような声色になってしまったが、これはこれで俺の本心だ。
「……悲しそう、かぁ」
君が目を伏せる。その表情は読み取れない。
「…俺、心細いのかも。ずっと一緒だったttと離れて、なかなか会えなくなって。どうなっちゃうのかわかんないのが。すごく……怖い」
君の溢した本音は、どうしようもないほど弱気で。どうしようもないほど、いじらしかった。
今度は、そっと頭を撫でる。
「心細くなったら、いつでも電話してええで。てか電話してや。俺も、mf裙と離れるの怖いもん」
俺がニコッと笑うと、mf裙は眉を下げて、困ったように笑った。
「しょうがないなぁ、ttは……ありがとう」
その顔が今まで見たことがない、可愛い顔で。胸がいきなり高鳴った。慌てて喉を潤そうとジュースを手に取る。
「あー!なんか暑いな!?ジュースほんまにありがとう!!」
ストローから勢いよくジュースを飲む。
何故かわからないが、mf裙がこちらを凝視していた。
「tt……それッ……俺の、ジュース…ッ!////」
mf裙の顔が林檎みたいに真っ赤に染まった。
思わず咳き込む。 きっと、俺も同じぐらい…いや、それ以上に真っ赤になっているだろう。
「ご、ごめッ…/////」
「ぃやッ、いい、けど…//////」
お互い顔を赤くして、目を逸らし合う。
これっていわゆる、間接キス…よな…!?真っ赤な顔のまま、シャーペンを手に取る。
勢いのまま、ほぼ埋まっていた手紙に、一文付け足した。
・・・・・・・・・
『このヘタレ!これを読んだんやったら今すぐ告れ!!』
掘り起こされた手紙の最後には、そう殴り書きされていた。
全てを思い出した俺は、顔を真っ赤にして空を見上げた。
「なに、簡単に言ってくれてんねん……こちとら片思い歴10年やぞ…」
俺のぼやきが青空に溶けて落ちる。
「tt、なんて書いてた?」
君が楽しそうに聞く。その笑顔は、相変わらずびっくりするぐらい可愛かった。
「mf裙。真剣に聞いてくれ」
「うん、どうしたの?」
「俺、mf裙のこと……ずっと、好きやった」
言った。言ってしまった。もう今更無かったことにはできない。したくない。
まっすぐに、mf裙の目を見つめる。
「好きや、mf裙。俺と、付き合ってくれ。」
君の返事が知りたくて、でも、知るのが怖くて。それでも、君には真摯でありたい。君は震える唇を開いた。
「俺も、好き」
たった5文字。その5文字を理解するのに、数秒かけた。理解するのと同時に、嬉しさが湧き出てくる。頬が熱い。涙が伝う。
言葉よりも先に、体が動いていた。
その細い体を、力いっぱい抱きしめる。
「好きやった、ずっと……ッ、言うの、怖かった……ッ!」
「うん、ありがと、tt……」
抱きしめ返すその腕が愛おしかった。
俺がずっと泣いていると、mf裙のほうから、キスをされた。そっと触れた唇の柔らかさが、頭から離れなかった。
「mf裙……俺、ファーストキスやった…」
俺の言葉にmf裙は一瞬目を丸くして、それから悪戯っぽく笑った。
「俺もだから、ちょうどいいね?ふふっ!」
そういう問題じゃない、とは、言えなかった。初恋が実って、大好きな人と恋人になって。それから、キスをした。今までで一番幸せだった。
「なぁ、mf裙……大好き」
「っふふ、知ってる!俺も、大好き!」
目を合わせて、笑い合う。今度はどちらからともなく、唇を合わせた。
桜が散る。俺たちの恋を実らせて。
だけど、また来年も桜は咲く。冬から夏へ、バトンを渡すために。
「tt!早く帰ろ!」
君が、笑う。実のところ、そんな難しいことは考えなくてもいいのかもしれない。
帰ったらまた2人でタイムカプセルを書こう。書き出しの文はもう決まっている。
拝啓、誰よりも側にいたい君へ。君が笑ってさえいれば、俺は幸せだ。
コメント
4件
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! やばい!やばい!尊すぎて打つ手が止まらん!!! 二人ともめっちゃ可愛い!!!! 関節キッス?????いや最高ですよ!!! いや~両方思いか~尊いって! 最高すぎました!美味しかったです!(え~打った時間およそ1分※マジでした)
うわあ、青春の甘酸っぱさがじんわり来た…!10年越しの片思い、タイムカプセル、間接キスのハプニングからの最後の告白とキス、全部があの頃の自分を思い出させるような切なくて温かい話だった。二人ともヘタレで不器用だけど、互いを想う気持ちがひしひし伝わってきて、読んでるこっちまで顔がニヤけちゃったわ。だって30代の私にはもう戻れないキラキラした時間が詰まってて、胸がぎゅっとなる。ラストの抱きしめ合うシーン、最高だった。続きも絶対読む🔥