目を覚ますと、薄気味悪い部屋の椅子に縛り付けられていた。 人間の血肉が弾け飛んでいて、嫌な匂いがする。
遺体はないようだが一体ここはどこなんだ
そう考えているとドアの奥からコツ、コツと階段の降りる音が響いて、なんとなく背筋がゾクゾクと震えた。 音が止まったかと思えばドアのキーっと開く音に体を跳ねさせ、ドアの隙間から感じる冷たい風に顔を青ざめて冷や汗を流しながら鋭い目つきで睨みつける。
強風が吹くとどこかで見たことがあるようなコートをドアからちらっと顔を覗かせる。
いや、見慣れているコートだ
毎日飽きずに俺に構ってろくに仕事もしねえ、 そのくせ頭と顔面は妙に優れたものを付けている。
「手前…なんのつもりだ自殺願望」
「バレちゃった?あぁーあ、もっと怖がる君を見たかったのだけれど……」
にっこりと笑っているが目の奥が笑っておらず、昔を思い出す。
人の心なんてもってのほか、俺へのイタズラのためなら命だって惜しまない。
嗚呼、そうか
これもどうせイタズラなんだろう。
「ま、今は自由にしていてくれたまえ。 ちょっとした用事を思い出してねぇ…」
俺に手を振ってドアを閉める。
今あいつはいない。なら重力操作でこの縄をぶっ壊せるのでは?そう思い、異能を使ってみるものの、何も反応しなかった。
『異能無効化』
その言葉が真っ先に頭によぎる。
でも触れた対象でないと反応しないはずだ。 いや……最近裏社会で異能を消す麻酔銃があると噂が回っていた。 というか俺はどうやってここに運ばれたんだ。次々と思考を巡らせてここに来る前の記憶を探る。
「確か、夜通しの任務を片付けて…帰っているとうなじに注射を刺されたような痛みがーー」
理解した瞬間すべてを諦めたように大きなため息をつく。嫌がらせとは言えど、これはさすがにやりすぎなのではないか?
まぁ、あの馬鹿のことだ
どうせ「あとは君がやってね〜」とか言って責任から逃れるつもりだろう。 心底腹立たしい。
帰ってきたら1発殴り込んでやる…とその前に、これを外さなければ意味がない。 こんな縄、いつもならば魔法でも使ったかのような手さばきで解ける。 だが何もかもギチギチに縛られていて手も足も出ぬ状況。
いや、ちぎれるにはちぎれるが何故かここは空気が薄く、力が弱まっているようだ。
「あんっのクソ青鯖が……っ!ここまでよんでたってのかよ…」
イタズラ坊主にあの優れた頭脳を持っていれば間違いなく落とし穴に真っ逆さま。 数年、上辺だけの相棒という立場を保ってきたことを褒めて頂きたいと思ってはいるが…今の相棒も苦労しているのだろう。
川に流されている太宰を追いかけながら叱る姿を見て昔のことを思い出していた。 何度も何度もほったらかそうとしたが、その度に首領から叱られ、助けざるを得なかったあの状況とよく似ていて「まだ変わってねぇのかあいつ…」と顔を引き摺ったのを鮮明に覚えている。
ガチャとドアの開く音がすると同時にびっくりして椅子と一緒に後ろへ倒れ込んでしまった。頭がジンジン痛む一方、頭を抱えて周りの音も入らぬほど、俺を悩ませていた原因のクソ野郎が大笑いをしている。
「笑ってる暇あるんなら助けやがれ!!こんちくしょう!!! 」
「酷いなぁ、きみのために頑張って早めに帰って来たんだよ?」
呆れた表情で血にまみれている右手に持っていたボロボロの姿の遺体を俺に見せつける
「望んでね…ぇ、それ………っっ」
「私はその顔を望んでいたよ」
にんまりと優しい笑顔を浮かべて遺体を地面に引きずる。その遺体は最近仲良くしてもらっている部下だった。 俺の真ん前に近づくと顎を指でクイッとあげ、唇を寄せ付ける。
心の奥底からどす黒い怒りが湧いきた。
「ンでこんなことしたんだ」
「そんな怖い顔しないでくれたまえ…。 君の青ざめている顔、綺麗な君の顔面を壊すのが妙に私の心を揺さぶってねぇ。 どうだい?大好きな部下の死体を見て……何も出来ずに見ているだけしか出来ない無能さを感じた気分は。」
「 役ただずの駄犬は私の事だけを見ていればいいのさ」
「は?」
なんとも間抜けな声が出てしまう。
嫌がらせという行為を軽々と超えている狂気さで背筋が凍るのを感じる。
嗚呼、こいつからはもう逃げれないんだ
そう確信した。
運命ではない、運命では片付けられないほどの恐怖を植え付けられ、つい涙が出てしまう。
「その顔、傑作だよ…。ちゅうや」
狂っている
好きでもねぇやつにこんな執着するなんて……いや、それは俺も同じか
気づけば1種の共依存が出来ていたのだ。
嫌いよりも、好きよりも、段違いに重い何かを2人はお互いにぶつけ合っていた。
「どうしたんだい?何か言ってみなよ、 私の可愛い相棒の弱虫くん」
「俺のこと、嫌いじゃねぇんだろ。いや、好きと言ったところか?」
涙を出しながら、ニヤリと笑って自分自身にも言える言葉を口に出す。 “好き”なんて感情、気付かないふりをしていた。 よりによって長年嫌いあっていた犬猿の仲の元相棒だったから尚更だ。
「こんな状況でそんなことを言うか……私が君のことを好き?ないない」
嫌味ったらしく笑い、俺の耳元に口を近づける。
「勘違いはやめてよね…ちゅーや」
目に黒のハートが浮かんでいそうな甘ったるい声で俺の名前を呼ぶ。
ー
勘違いはやめてよね、終
◆アトガキ◆
前回の甘々(非公開にさせて頂きました🙏🏻)とは違っているので考察などはあまりできませんが…楽しんで貰えたならば幸いです。
いえ、『考察ができない』ということに関して特に抵抗は無いのですが私自身、考え事をするのが趣味でして……。笑
今回も今回とて、長々とした話を1話で完結してしまいましたね。 なんにせよ、ぶっ通しで書かなければ私のやる気はすぐに引きこもってしまうので(言い訳) ですが、下書きのものを間違えて投稿した時は焦り散らかしてやる気が伏せてしまいました
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