──闇が訪れるとともに、死の匂いが漂い始めた。
シオン・ヴェルナーは「ならず者の楽園」の一角、屋敷のバルコニーに腰掛けていた。
遠くに見える朽ち果てたビル群、道端に並ぶ酒瓶と焚き火。
楽園と呼ばれるこの場所も、決して安泰ではない。
「そろそろか」
シオンは手にしたグラスを回しながら、静かに呟いた。
──次の瞬間。
轟音が夜を裂いた。
爆発。続く銃声。叫び声。
「来たか」
シオンはグラスをテーブルに置き、ゆっくりと立ち上がった。
組織の”処理部隊”が動いたのだ。
黒い戦闘服に身を包んだ兵士たちが、瓦礫の街へと雪崩れ込む。
ナノセラミック製の装甲を纏い、規律正しく動くその姿は、まさに統括組織の冷徹さを象徴していた。
「一匹残らず処理しろ」
隊長が無機質な声で命じる。兵士たちは次々と銃を構え、住人たちを射撃していく。
「くそっ、逃げろ!」
「くそったれ組織め……!」
ギフターたちも応戦するが、戦いは一方的だった。
統括組織の兵士は、強いGiftこそ持たないものの、最新技術の装備と訓練された連携で圧倒する。
楽園は、地獄へと変わろうとしていた。
「騒がしい夜だな!」
その混乱の中、ひとりの男が悠然と歩く。
黒いロングコートを揺らしながら、どこか優雅な足取りで戦場に降り立つシオン・ヴェルナー。
「組織の兵士諸君、ご苦労なことだ」
彼は微笑みながら、手を軽くかざした。
「奈落の鎖」──発動。
闇の中から、漆黒の鎖が音もなく現れた。
「っ!?」
次の瞬間、兵士の一人が悲鳴を上げる。
「ぐあっ!」
気づいた時には遅かった。彼の足元に鎖が絡みつき、一瞬のうちに空へと引き上げられる。
ドンッ──!
鈍い音とともに、兵士の身体が地面に叩きつけられた。意識を失うまでに、彼は自分が何をされたのか理解できなかった。
「ふむ、一人」
シオンは指を鳴らす。
瞬間、鎖がしなやかに宙を舞い、別の兵士の腕を絡め取った。
「二人」
シオンが軽く手首をひねると、その兵士はあっという間に宙を舞い、瓦礫に叩きつけられた。
「やれやれ、静かにできないのか?」
シオンはまるで退屈そうに呟いた。
「この男……!」
統括組織の兵士たちが銃口を向ける。
「撃てッ!」
瞬間、鎖が弾丸よりも速く動いた。
カンッ──!
銃弾が鎖に弾かれ、宙に散る。
「悪いな、そう簡単には死ねなくてね」
シオンは悠然と歩きながら、次々と兵士たちを無力化していく。
まるで舞うような戦いぶり。
ならず者たちは呆然とした表情で、その光景を見ていた。
「おい、あの男……!」
「すげぇ……」
ならず者の中には、これまでシオンをただの”逃亡者”だと思っていた者もいた。
だが、今の彼はどう見ても──
「戦場の王」 だった。
戦況は一変した。
シオンが動いたことで、ならず者たちも勢いを取り戻す。
「今だ、反撃しろ!」
「このクソ組織め、ここで終わらせてやる!」
統括組織の兵士たちは次々と倒れ、残った者たちは撤退を余儀なくされた。
シオンは最後の一人の首元に鎖を絡め、軽く引いた。
「伝えておけ」
「楽園は、簡単には落ちないとな」
バキン──!
兵士が意識を失い、沈黙が訪れる。
勝利の余韻の中、シオンはバルコニーへと戻り、再びワイングラスを手に取った。
「やれやれ……楽園は、維持するのも大変だな」
夜風が戦場の熱を冷ますように吹き抜ける。
──襲撃は退けた。だが、これは序章にすぎない。
シオンはグラスを傾けながら、静かに微笑んだ。
「次はどんな手を打ってくる?」
夜は、まだ終わらない。
作者から
「シオンは夏油的な…?」
コメント
1件
今回も神ってましたぁぁぁぁ!!!!! うわぁ何か面倒くさそうなのが動き出したぞぉぉ... ...と思ったら流石シオンたん、圧倒的強さで無力化していくぅ!!(?) 神作になる予感しかしねえこれ((毎回神作です 次回もめっっっっさ楽しみいいいいいいいいいいぃ!!!