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Episode 60「市場の日」
リサの誕生日が近付いていた。
ここ数日。
リサは朝からずっと機嫌が良かった。
「もうすぐ誕生日なんだよ!」
今日も朝から元気な声が響く。
「そうですね」
アデルが苦笑する。
「楽しみですか?」
「当たり前じゃん!」
リサは胸を張った。
「だって誕生日だもん!」
その様子を見て、アデルは小さく笑う。
少し離れた場所では、黒瀬達がその様子を見ていた。
「もうすぐリサちゃんの誕生日ですね」
黒瀬が言う。
「ですね〜」
水瀬が頷いた。
「せっかくですし、お祝いしたいですよね」
奈央も微笑む。
三上が腕を組んだ。
「誕生日会でもやるか」
「良いですね〜」
「賛成です」
黒瀬も頷く。
あっさり決まった。
その後、アデルにも話を通す事になった。
「――という訳で、リサちゃんの誕生日会をしようと思うんですが」
黒瀬が説明する。
アデルは少し驚いた後、嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
「リサも喜ぶと思います」
「プレゼントも買わないとな」
三上が言う。
すると、アデルが少しだけ迷ったような顔をした。
「あの……」
皆が見る。
「実は皆さんに相談があるんですが」
少しして。
アデルの話を聞き終えた後。
皆の表情が柔らかくなる。
「良いですね〜」
水瀬が笑った。
「リサちゃんも喜ぶと思いますよ」
奈央も頷く。
「可能だと思います」
「ただ、少し時間が掛かるかもしれません」
「数日待っていただく事になると思いますが、それでも大丈夫ですか?」
アデルは安心したように笑った。
「はい」
「ありがとうございます」
その日の昼。
近くで市場が開かれるらしい。
「じゃあ、その市場でプレゼント探すか」
三上が言った。
異論は無かった。
森の奥での狩り以降。
黒瀬達は時折、狩りや護衛の手伝いをしていた。
報酬は決して多くない。
それでも。
誕生日プレゼントを買うくらいの余裕は出来ていた。
市場へ向かう道。
リサはアデルと留守番だった。
「絶対何か隠してる!」
出発前。
リサはそう言っていた。
「気のせいですよ」
アデルは笑って誤魔化した。
リサは最後まで納得していない様子だった。
―――――
市場は賑わっていた。
露店が並び。
人が行き交う。
食べ物の匂い。
呼び込みの声。
村とは違う活気があった。
「おお〜」
水瀬が目を輝かせる。
「凄いですね〜」
「迷子になるなよ」
三上が言う。
「子供じゃないですよ」
「どうだかな」
奈央が少し笑った。
しばらく歩いた後。
黒瀬が店の前で足を止める。
「これはどうでしょう」
そう言って持っていたのは笛だった。
だが普通の笛ではない。
妙に派手だった。
羽が付いている。
色とりどりの石が埋め込まれている。
しかも何故か兎の耳まで付いていた。
三上が固まる。
「……何だそれ」
「笛です」
「それは見れば分かる」
奈央も少し困った顔になる。
「どうしてこれを?」
黒瀬は真面目に答えた。
「危険な時に助けを呼べます」
「あと」
笛を見る。
「子供が好きそうです」
少し沈黙。
水瀬が吹き出した。
「どこで判断したんですか〜」
「派手です」
「色も多いです」
「耳もあります」
三上が額を押さえた。
「お前なぁ……」
「……駄目ですか?」
奈央が苦笑する。
「気持ちは分かりますけど」
「もう少し別の物にしましょう」
黒瀬は小さく頷いた。
「分かりました」
次。
三上。
「これとかどうだ」
手に持っていたのは丈夫そうな革手袋だった。
「長持ちするぞ」
奈央が即座に言う。
「誕生日プレゼントですよ?」
「実用性高いだろ」
「プレゼントじゃないです」
却下だった。
その少し後。
「見てください〜!」
水瀬が嬉しそうに走ってくる。
抱えているのは。
巨大な熊のぬいぐるみだった。
リサより大きい。
「でかすぎる」
三上が即答する。
「可愛いですよ?」
「家埋まるわ」
「え〜」
却下だった。
「意外と難しいですね」
奈央が苦笑する。
「ですね〜」
「リサちゃんが喜びそうな物か……」
三上が腕を組む。
その時だった。
「あ」
水瀬が足を止める。
「どうしました?」
奈央が聞く。
水瀬が指差した先。
そこには小さな露店があった。
古い装飾品。
時計。
アクセサリー。
アンティーク品が並んでいる。
水瀬の目が少し輝いた。
「これ、どうですか?」
皆が覗き込む。
棚の奥。
そこにあったのは懐中時計だった。
派手ではない。
けれど。
細かな装飾が施されている。
落ち着いた銀色。
上品で温かみがあった。
奈央が小さく頷く。
「……良いですね」
「リサちゃんも喜びそうです」
水瀬も笑う。
三上が時計を手に取った。
「値段もそこまで高くねぇな」
黒瀬も静かに見る。
しばらくして。
小さく頷いた。
「こちらの方が良さそうです」
誰も反対しなかった。
会計を終える。
これでプレゼントは決まった。
帰り道。
夕日が空を赤く染めていた。
「リサちゃん、喜びますかね〜」
水瀬が言う。
「喜ぶと思います」
奈央が答える。
「まあ、あいつ分かりやすいからな」
三上が笑う。
黒瀬も小さく頷いた。
「そうですね」
誕生日まで、あと少し。
きっとリサは喜ぶだろう。
そんな事を思いながら。
皆は村への道を歩いていた。
コメント
1件
うわあ、第76話、めっちゃいい話でしたね……! リサの誕生日をみんなでお祝いしようって流れ、すごく温かい。特にプレゼント選びのシーン、黒瀬さんの植物図鑑や水瀬さんの巨大ぬいぐるみが却下されていく様子が微笑ましくて、最後に選ばれた懐中時計の落ち着いた雰囲気がすごくリサに似合いそうでグッときました。アデルが内緒で何か企んでる感じも気になるし、誕生日当日が待ち遠しいです!