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古流斬
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#鬱展開
Mist-404
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「は~い!安い、安いよ〜。本日夕方までの閉店セールだぁ!」
…またやってる。
「ねぇ、今月何度目の閉店セールなの?」
店主はビクッとしてこちらを見た。
「…んだよエリサちゃんか。驚かすんじゃねーよ!」
この店主はリアクションがいい。
「おじさん、何かいいの入ってる?」
ひょいと蓮根の輪切りのような機器をつまんだ。
「わー!や、やめろ!!」
店主は慌てて私の手から蓮根をぶん取った。
「おっかねえからやめろ!こいつはこう見えてもここいらのセグメントを全部焼き付かせることができるんだ!さすがのあんたでも物理メモリごとイカれたらおしまいだろ!?」
「…なんでそんな危険極まりないものがそこら辺に転がってるのよ。」
店主はあきれ顔だった。
「だから言ってるだろ?店仕舞いなんだよ。」
エリサは少しばかり驚いた。
「え…あぁ、そう。…残念ね。あなたはその、私の…私たちの数少ない協力者だったから。」
店主は深くため息をついた。
「…おたくは信用してるさ。最初にあんな話を聞いたときにはとても信じられなかったけどな。
…でもことごとく辻褄が合ってる。そして気味の悪いことにあんただけがすべてを”記憶”してる。で、今じゃもっぱらあんたはゲートなしでアルファにも自在に出入りできるって噂だ。笑」
私は頭を振った。
「”自在”ってほど楽じゃないわよ。さすがに第一層の構造は頑強すぎ。」
店主は少し鼻で笑った。
「そうか笑。…で最近NSKの監視がひどくなってな…。この店があんたに協力してるって言いふらしてる野郎もいる。…真実を聞いたあと俺のようになる者もいれば、交渉人に持ちかけて現実の身体を保証する代わりにARGOの犬に成り下がったクズもいる。」
私は棚の商品を手に取って鑑賞しながらため息をついた。
「…”人間同士”がねぇ。」
店主は鼻で笑った。
「…今さらかよ。」
それもそうだな、と思った。まぁいい。私も目の前のことに集中するだけだ。ユウがそうしたように。
「じゃぁ最後に1つだけお願い聞いてよ。」
店主は観念したように、何でも言ってみな、と笑った。
「…私を売った訳を教えてくれない?
…ARGOのワーンちゃん♪」
私はスクロールで、店主が私の仲間をワイヤーで絞殺している映像を見せた。
「…テメェ!」
店主は瞬時に丸テーブルの向こうに飛び込んで、それを倒して天板の裏に身を隠した。
その行動を見終えた私はため息をついて、それからテーブルの向こう側に隠れた店主へ声高に話しかけた。
「ーねえ、ただ理由が知りたいのよ。別に取って喰おうってわけじゃなくて。」
店主は心臓の音が聞こえてきそうな怯えた声で、精一杯威勢を張って言った。
「ーはっ!あ、あんた本当にARGOに勝てるって思ってのか?どう考えたって人間側の負けだ。だったらマシな処分を望むのが普通だろう?は、ハハ…それにそいつも実際死んだわけじゃないだろ?ー元いた場所に戻してやっただけだ。」
あーあ。聞きたかったのはそんなことじゃないのに。
「なんだか…つまんない人ねぇ。
……まぁ、良いわ。
……あれ?
……良くないか。
もう囲まれちゃってる…。」
店の外にはNSK職員(webクローラー)が集まっていた。受体料を徴収しに来る奴らとはまるで違う、スーツ姿でサングラスの”いかにも”な連中だ。
それを見つけた店主は少し安堵したようだった。
「は、はは。観念しな、嬢ちゃん。悪く思わんでくれ。じゃぁ…」
私は店主の言葉をぜんぶ聞き終える前につかつかと店に来た時の棚に移動した。
こういうセリフを遮るクセは絶対ユウから移ったのだ。
「おじさん、これ買うね。」
そしてあの蓮根を手にとって真ん中の赤いボタンのようなものを押した。
「わー!バカ!!やめろ!」
蓮根の穴の部分の硝子が一つづつ緑から赤に変わっていく。私は走り出し、丸テーブルを片手で飛び越えて店主の襟首をグイッとつかんだ。
「 はーい。一瞬チクッとしますね〜笑」
蓮根の穴が全て赤に変わった瞬間、この世界の一番白いものをさらに白くしたような眩しさに包まれる。
「いやだぁぁぁ”!」
爆光とともに店主の声が聞こえる。私は意識が消えかけながらも、これはすごいな、などと思った。…視界が完全に光に包まれる直前の最後の光景は店の外でNSK職員達が逃げようとした背中…そこで私は消えた。
ーReboot.ー
「ーん?ふう。どのぐらい時間経った?」
私は反射的に必要もない身体のホコリを落とす仕草をする。私は仮想空間では”消されない”存在らしいので、他は吹き飛んで私だけが同じ空間に再生された。
「おはようございます。救世主様。お目覚めがいいようで。…とっくに昼過ぎですが。…3週間後の。この区画の自動デフラグとリビルドは思ったより複雑だったみたいですね。」
私の仲間が皮肉っぽく答えた。
「あぁ…ちょっと待って…頭イター。二日酔いってこんな感じなのかな?よし、うん。ここら辺で起きたこと、全部わかる。いなかったはずなのに変よね?毎回。
でもなんでこんなに構築時間かかるんだろう?お宝でも埋まってるのかな?ここ。」
私は地面をトントンと踏みつける。
(あ、そうだ。)
私の右手にはまだ気を失っている店主がいた。
「あなた、起きなさい。もう再生済みよ。」
私は掴んでいた襟首から手を離した。
…当然店主の頭は地面に激突する。
「イタッ!…ツー…テテ。」
店主はしばらく悶絶したあと、あたりを見回した。
「…ったい何が…うわっ!!お前!そうだ、
アイツらーえぇ!?なんでだ!!」
この店主はリアクションがいい。
店主はまだ震えている。
「お、お、俺一回死んだ…絶対いっかい」
やれやれ。その筋肉はハリボテか、と私は呆れる。
「”死なない”んじゃなかったの?…まったく、感謝しなさい。私があなたを…せっかく助けたんだから協力するわよね?」
店主はまったく落ち着かない。
「な、何を勝手にぶっ飛ばしておいて助けただと?こ、こんなこと許されると…」
私は薄目で見下ろした。
「へー。裏切っておいてよくそんな事が言えるわよね?もう一回やる?さっきのNSKのNPC(AIエージェント)みたいになる?
あなた人間でしょ?今目覚めたらどうなるかわかる?チューブに繋がれた状態で鼓膜が破れるほどの音楽を聴きながらあと6時間、じっとARGOの処分を待つの。」
店主はそれを聞いて幾分かは落ち着いたように見えた。
「お、俺をどうする気だ…。」
「聞きたいことがあるんだけど。それを教えてくれたらチャラ…どころか大サービスで、なんと、解放してあげる。」
店主は汗混じりに腹を括ったようだった。
「…い、言ってみろよ。」
私は出来上がったばかりの木の椅子にストンと腰を掛けて話した。
「いい子ね。じゃぁ…アルファメタバースより下層のメタバースは、ここミラバース…ミラージュよね?
そして名もない第3層、4層…ディレクトリ・エンドへと続く…でしょ?」
店主はゴクリ、と生唾を飲み込んだ。
私は続けた。
「でもNSKの仮想世界マッピングでは、ミラバース以下の層をすべてメタバース ガンマ…ガンマ-1、ガンマ-2って呼んでいて、最下層の地獄…ディレクトリ・エンドの事をメタバース オメガと書いてあった。ミラージュメタバースって呼んでたのはつくばの人間だけだったってわけね。それで疑問に思ったの。 アルファ、オメガ、ガンマ…あれ、”ベータ”は?って。
…あるんだよね。どこかに。」
店主は泣きそうな顔だ。
「し、知らない。本当になにも知らないんだ。ただ…」
私は冷たく手刀を自分の首の後ろでトントンとして仲間に斬首のサインを出す素振りをした。
「待て!言うから!!だがただの噂だぞ!本当にそれ以上何も知らないからな!
言っちまうぞ!クソッ!
…そうだ。アルファの隣の…どこかの領域にARGOの力の及ばない”ベータメタバース”ってのがあって、そこを通ればログを残さず現実に出て行けるって。」
ーやっぱりあった、ARGOに侵されない領域。
店主はうなだれている。
「…あぁ、言っちまった。もう終わりだ。さっきの名は”制裁ワード”に引っかかったはずだ。…追ってくる。奴らが。」
私はフフン、と自信たっぷりに脚を組替えた。
「何よ。NSKなんていくら来ても同じよ。そんなに怯えなくてもいいわよ。」
店主には響かなかった。
「あんたは分かっちゃいねぇな、あんな安っぽいwebクローラーなんか怖くねぇ。ARGOは本当に使える奴をよこすさ。…甘く見ちゃいけねぇ、あの最強のプログラム”オルトロス”と”ケルベロス”を。」
私はなんだか悪者が犬につける名前っぽいなぁとしか思わなかった。
が、いろいろ聞き出せたしー
「まぁ良いわ。解放してあげる。…きっと助けに行くから”上”でちょっと待っててね。」
私は店主の首に貼った修復パッチを剥がした。
現実への強制送還を一時的に止めていたパッチだ。
「な、何?約束が違うぞ!解放ってこういう事か?畜生!おま、絶対助けろよォォォ…。」
店主は無事現実に戻ったはずだ。
「さすがに連れては行けないし、ねぇ。」
私は仲間の方を見て、悪びれずに肩をすくめてみせた。
あぁ、まったく。と仲間は愚痴った。
「もう…そんな事よりも、無茶しすぎです!エリサ様!なにもかもです!ログを見ましたがあの店主も言っていたでしょ?あんなの使ったらあなたでも死ぬかもって。」
あれ?そうだったかな?
「死ぬなんて言ってないわよ。多分?あ、言ってたっけ。まぁ、良いわ。それであの時はどうだったの。」
残念ながら私は完璧じゃない。消えていくわずかな時間は覚えられないのだ。
仲間はため息をついたあと立ち上がり、辺りを見廻した。
「ここいら半径10mのデータは全部消失しました。NSK職員5体もまとめて。」
ふむ。私は頷いた。
「ーなるほど。でもAIエージェントのNSKは消えた。店主ももうメタバースにいない。以上ね。でも今現実で目覚めたらホント大変だろうなぁ。」
仲間は鼻で笑った。
「それは自業自得です 笑。
…さぁさっき奴が言ってたシステム側の奴らが来ますから。ひとまず逃げますよ。」
私は自分の身体を動かして「いい感じ」である事を確認した。
「わかってるって。時間かけたのに…”ベータ”の存在は知れたけど、結局彼の手掛りは無かったわね。」
私はホバー(バイク)にまたがりエネルギーオンにした。
「……ねえ。次の磁気嵐まで、あと何日だっけ?」
仲間はヘルメットを被りながら答えた。
「10日後です。エリサ様が無茶をして消えていた3週間で、少し予定が早まりました。……あの日から。」
「ええ。これ以上ないと言うぐらいしっかり準備してきたし、闘う意志と力もある。だけど…。」
仲間は気の毒なものをみるような顔だった。
「…では現地で落ち合いましょう。」
私はホバーのアクセルボタンに指を置き、瞬時にホバーが走り出す。
加速し、景色はリアル(現実)から認識できる可能な限りの解像度へと段階的に落ちていく。
限界速度。
ついに景色が集中線へと変わる。
たった一人の世界。
その完璧な空間に身を委ねながら私は呟いた。
「ねぇ、ユウ。もうすぐ2年ね、あなたが居なくなってから。」
(第一部 完)
コメント
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第一部、完走おめでとうございます…! エリサの軽妙な啖呵と、裏切った店主に「ワーンちゃん♪」って呼びかける余裕、めちゃくちゃかっこよかったです。蓮根型の兵器で自爆→再生して「二日酔いみたい」って涼しい顔、最高すぎます。 それでいて「ユウ、もうすぐ2年ね」の締めが一気に沁みました。ベータメタバース、オルトロス、ケルベロス…次が待ち遠しいです。お疲れ様でした🌷