テラーノベル
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兵庫での2日間の合宿が終わり、東京のスケートリンクに戻ってきた。
いつものホワイトボードが目に入る。
(そういえばおれ、ちゃんと見れてなかったかもなぁ。)
自分が気になるところのみに目を向けており、⚔️睡眠時間、練習時間などの体調管理の部分に目を向けていなかったことに気がついた。
『成長期、しっかりたべる』『睡眠時間は9時間以上』『ジャンプは1日10本まで』『Lz、Loは苦手?A、T、S得意?』
他にも、色々なことが書き留めてあった。
こんなにも自分のことを見ていたのかと、びっくりするほどに。
(なにやってんだろ)
(言うこと聞かずに無茶苦茶して)
(勝てないのなんか、当たり前だ。)
涙が込み上げてくる。
歯を食いしばって、声を抑えて縮こまる。
罪悪感や色んな感情がごちゃまぜになって、涙が溢れだして止まらない。
「絶対…ぜったいに、次のノービスAで優勝しなくちゃ」
「キャメさんとおれの強さを、選択を、証明するんだ」
――そして、ニキとしろせんせーの全日本ジュニアが始まった。
本番前の6分間練習。
しろせんせーのコンディションは、最悪であった。
得意だった3回転ルッツの着氷率は50%まで落ちたし、スピンの精度もかなり落ちた。
(ここで飛べやんだら、ここで転けたら、俺の価値は…どうなる?)
(ニキも滑る、りぃちょも見とる。)
(ここで、取り返さな…!)
最後の確認。
3回転ルッツを飛ぶ。
いちばん、得意なジャンプ。
(降りる、降りろ、絶対に――!!)
歓声は聞こえなかった。
飛べた時の綺麗な景色も、見えなかった。
キラキラとした美しい氷の上に、俺の身体は叩きつけられた。
頭と足首に鋭い衝撃が走り、視界が暗転する。
騒がしい大人たちの声がする。
(結局、飛べんかったな…こんなん、もう――)
背負われたまま、薄く目を開ける。
氷上に立っている、ニキが見えた。
ニキは、俺に指をさしていた。
「見てろ!絶対に戻ってこい!!」
会場に響く大きな声で、そう叫んでいた。
(お前はすごいなぁ…あんなにも恐ろしい氷の上で、堂々と立っている。)
(俺はもう、そこには行きたくない。)
冷たく震える両手を、誤魔化すように握りしめた。
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