保鳴ノベル版短編集
第1話「タンザナイト」
・ジャンル - BL、二次創作
・題材作品 ‐ 怪獣8号
・視点
本文─保科 宗四郎
・字数 - 11161字
・本話の注意点
原作にて言及の無い部分に対する捏造
関西弁が勘差異弁
キャラクターの解釈不一致
書き方が独特
・投稿主より
こんにちは、投稿主のぅわぁです
この度初めてノベルを書かさしていただきやした
書き方が独特、という点についてなのですが、行替えやら描写やらが完全に投稿主の感覚となっております。小説の書き方などは心得ておりません、書きたいように書いてるのでまぁ拙いものになっております。
それをご了承の上でご覧いただけたらと思います。
こちらの話は誕生日ネタなので、28日まで取って置こうかなとも思ったのですが、もう一個別の書けばいっか!と思い、耐え性のない投稿主はさっさと投稿することに決めました。
あと完全に雑談なのですが、アプリ入れなくなったの自分だけでしょうか?4日か5日前から開いても落ちてしまうのでちょっとばかり困っています……Web版でログインしてるのですが、こっちってハートが10までの制限あるし、チャットノベルの文字で小と最小選択できないし、色々制限ありますねぇ……再起動とかキャッシュ削除もしたのですが、我がテラーノベルはもう永遠に眠りについちゃったのでしょうか……?不慣れなWeb版ですので活動が全体的に遅れております(言い訳)。
では長々と失礼いたしました。
よろしければお気をつけて
いってらっしゃいませ
「お前、パリにでも飛ぶつもりか?」
1分間の沈黙の後にやっと聞けた恋人の声は、抑揚と遠慮のないものだった。
さて、僕が1分前にこの人に行ったことは
プロポーズ。
タンザナイトを掲げる形で、クッションに挟まれた指輪がキラリと輝いている。
愛しの恋人の誕生日、立川と有明の中間地点にあるそこそこ良いマンションの一室にて。
食事、プレゼント、談笑、一通り済ませた、午後7時58分。時計の針が午後7時59分58秒を指した時、僕は恋人の前に跪き、午後8時ピッタリを指した時、ロイヤルブルーの小さな箱を、恋人に向けて開けて見せた。
そして僕は、恋人をフルネームで呼んだ後
“僕と、結婚してください”
と言った。
今時計は午後8時1分5秒を指している。
この1分間というのは僕には非常に長く、色んな感情の波に合わせて何回か手の角度が細かに変わり、その度に豊富に色づく宝石が反射して、目の前の人の眼に映りこんだ。
たった今、捧げ続けたそれは、素っ頓狂な声を発すると共に、僕の腕ごと、がくんと落ちた。
「……え?」
「……プロポーズ……だよな?」
「あ、はい、見ての通り……」
「……保科ぁ、その……この場面で言うことでは無いと理解はしているが……一応、一応だぞ?」
「……なん、です?」
「残念ながら日本では同性婚が認められていないので……その……お前の言葉に頷くことは、法律が理由でできないというか」
「……ホンマに今言うこととちゃうな」
「あの!気持ち、としては!まぁ……
……まぁ……あれだな……嬉しいぞ?」
「……しまらんなぁ……」
落胆すると同時に、小さな箱を閉じて、跪いた膝の元まで落としていった。先程ロマンもクソもないことを言ってくれた愛しき人は、俯きっぱなしの僕に何とかフォローを入れようとして懸命に言葉を並べ立てている。このままではお互いに色んな意味で可哀想すぎるので、やっとの思いで鳴海さんと目を合わせるように、顔を上げる。
「……なんでホンマに、今……?」
「いやごめん、その……
“結婚してください”という言い方だとな?
どうしても考えざるを得ないというか」
「そんなん考えんと……いや、嬉しいって言うてくれたのは僕かて嬉しいんです、ただね?ただね??
それ言うんやったら最初に言うてくださいよ? 」
「だ、だからぁごめんって言ってるだろう!?」
「なんで僕逆ギレされてんねん」
「お前もシツコイだろうが!
てかボクの誕生日なんだぞ、落ち込む権利はボクにある!いや落ち込む権利ってなんだ!?」
「知りませんわ、んなん……」
おおよそプロポーズ後の雰囲気ではない。
犬猿の仲と言われるままの空気である。青筋を立てて今にも噛み付くか、というような喧嘩の雰囲気では無いものの。
明らかにプロポーズ後の雰囲気ではない。
僕は心底残念である。
こんなにもプロポーズ後の雰囲気じゃない雰囲気になるなんて思っていなかったからだ。
それにしてもどうしてここまで項垂れてしまったのか。
何故って僕は、この瞬間を作り出すためにあらゆる準備をしてきたから、そう、あらゆる準備を。
まず溜まっていた書類仕事は全て2日前までに終わらせた。本当は3日前までに終わらせるつもりでいたが、当然防衛隊員が予定通りにことを進められるはずもない。
何故ならこの世界には怪獣というものがいて、防衛隊はそれを討伐しなければならないからだ。
ホンマに大嫌い。
大切な人……同期や仲間を殺されたり、生活を壊したり、憎む理由はあれど。
憎むとかじゃなく大嫌い。
何故って予定クラッシャーにも程があるからや。
マジでお前ら何回僕の休日奪ってくれたもんかね。
2ヶ月に1回あるかないかの丸一日の非番被り、鳴海さんが珍しく外出を了承してくれた、そんな貴重なデートの最中、ウウウーって音が鳴り出した時はスマホ地面に叩きつけるかっちゅう位怒ったもので……
話逸れてもた。
さて、書類を戦場で怪獣を討伐するかのような勢いで片付けたら次は、予約していた指輪を受け取りに行った。
実家が太いことと、副隊長という役職と、怪獣討伐の度に出る危険手当と、そして休日がないことで発破がかかってしっかりと口座に貯まっていた金銭の、50分の1を叩いただろうか。多分凄さはこれでは伝わらないが、2人分の指輪を購入するのに一括で80万ちょっとを支払った。
その指輪というのが、プラチナのリングにタンザナイトの輝く、フルオーダーメイドの一品である。
話は変わって、一月前のこと。
誕生日にプロポーズを重ねようじゃないかと思い至った。
結構仲を深められたと感じて、プロポーズについてその頃から考え始めた。鳴海さんとお付き合いを始めたのが昨年の12月の末のことだったので、元々、1周年記念の12月にプロポーズしよかなー、とは考えていた。
そして、それとは全く別に誕生日プレゼントを考えて、ネットで”恋人 誕生日プレゼント”と検索して暫く見ていたら、”ペアリング”の文言が目に入り、そしてやっと気がついた。
あれ、そういやプロポーズ、誕生日にしてまえばええやん。
そっからはもう早かった。
誕生日プレゼントのサイトは閉じて、オーダーメイドの婚約指輪を探し始めた。正直自分の誕生日じゃなくて相手の誕生日に被せに行くのって非常識だったりしないだろうかとは頭の片隅で考えた。けれど名案だと信じて疑えないし、鳴海さんのこと好きやし、ホンマに好きやし。ほんの少しの不安は溢れ出す自信と恋慕に押しのけられ、おかげでスクロールは捗った。
こういうことには疎かったけれど、色々と見ていく内にとりあえず分かったのは、宝石は必ずしもダイヤモンドでなくとも良いということだった。ならば何があるかと見ていくと更に目に入ったのは
タンザナイト。
12月の誕生石かつ、石言葉も「高貴」「希望」「神秘」「知性」「冷静」「誇り高き人」「愛」「永遠」と縁起の良いもので、僕からすれば鳴海さんを思い起こす文言も多い。石自体も見る角度によって色が変わる多色性という、鳴海さんの人間性みたいな特徴があり、その色合いも素晴らしかった。特に惹かれたのはディープカラー。ブルーやラベンダーも気になったけれど、その濃ゆい色は目を奪って離してくれなかった。
一つだけ気にしたのは鳴海さんのイメージカラーのこと。あの前髪メッシュの色のこともあるし、防衛隊としてグッズを出した時にも、鳴海隊長のものはピンクで統一されていた。なので宝石も揃えた方がいいかと思ったが、ここまで魅せられてしまっては引き返せなくて。
とまぁ勝手に一人で盛り上がって、一夜にしてWeb予約を完了させた。
それから3日後、午前のみ非番が取れた日に店舗に行き、具体的なことを決めていった。リングに関しては僕のセンスだけではなぁと思い、同じくその日午前休で、今はゲームに勤しんでいるだろう鳴海さんに、”同期の話”と偽り電話で聞いてみた。
「あ、もしもし
鳴海さん、急で申し訳ないんですが」
「なんだ、金なら貸せないぞ」
「それは大丈夫です期待してないんで」
「期待してないってなんだ!
すっごい失礼な断り方してるぞ!?」
「いやね、同期が今度結婚するんで指輪を作りに行くらしいんですけど、リングのカラーにえらい困ってましてね」
「ほう?……で、何故その話をボクにする」
「そいつが、奥さんもめっちゃ迷ってるし自分もよぉ分からん言うてましてね、信頼しとるしって僕に色の話振られたんですよ」
「そういうのは自分達で決めろよ……
なんでお前も断らないんだ」
「いやぁ……僕も一度は断ったんですけどね
それから2日して連絡してみても決まらへんって言うんで」
「馬鹿かそいつら?ある意味お似合いか?」
めちゃくちゃ失礼なこと言うなこの人、なんて思いながらも、こんな馬鹿らしい話をしている自分の方がヤバい奴やなぁと思い直して、ここにはツッコまずに話を進めた。
けれどなんと、この馬鹿らしい話は実話。実際に結婚を控えた同期がいて話を振られたことがある。やはりどう言葉を返すかは迷ったものの、その時は
“全部の色試着してみて、馴染むやつにしたら?”
と返した。
その結果夫婦の薬指に輝いたのは、イエローゴールド。所謂ゴールド、一番王道のあの色である。
さて、気を取り直して鳴海さんへ続きの話をする。
「……んで、カラーが
プラチナ、シルバー、ホワイトゴールド、グリーンゴールド、イエローゴールド、ピンクゴールド
の6色らしいんです」
「おい一気に言うな覚えきれん、ていうか言われても分からん」
「どれがええですかね」
「お前は話を聞かないな本当に」
「どれがええです〜?」
「知るか!
……ん〜……そのご夫婦の肌の色は?」
「まぁどっちも健康的で白っぽいですかね」
「だったらゴールド系じゃないのか?彩りもあるし馴染むだろ」
「……なるほど、やっぱ鳴海さんに聞いて正解でしたわ」
「お前なぁ、この程度だったら自分で考えろ……」
「ちなみにですけど……
不健康な程白い肌の人にだったら、何色がええと思います?」
「……え、プラチナ?」
「どうしてです?」
「ゴールドは浮くだろうし……
シルバーは多分、白に白で眩く感じるだろう。
プラチナって確か若干だが青っぽく見えるんじゃなかったか?いっそそっちの方が似合うだろう」
「……なるほど……もう一個だけええです?」
「……はぁ……ボクは今ランクマの途中なんだ早くしろ」
ランクマの途中。
半年前までなら電話になんて出てくれなかったはず。3ヶ月前まではこんなくだらない話をし出したらブツ切りされていただろう。
このなんでもない会話にさえ、心の動きが読み取れて嬉しくなった。それと同時に、少しばかりプロポーズへの自信も湧いてきて。
その自信に後押しされてようやっと本題に入る。
「僕みたいな肌の色やったら、どれが似合うと思います?」
「……はァ?
……何だお前、結婚するのか?」
「やめてくれません?」
「いやそうだとしか聞こえんだろうが
ついにか!?保科家から相手を寄越されたか!?
……いいぞボクは全然別れるからその人と幸せに」
「ちゃうから!そうやとしても別れたくないんで」
「そうだとしても別れたくない!?
ホントに何だお前、ボクのこと不倫相手にするつもりか!?」
「なんでそう勝手に盛り上がるん、落ち着け!?
深呼吸!吸って、吐いて……」
「……すーっ、ふぅ……で、結婚式はいつだ」
「結婚せえへんて!」
「……チッ、なんだよ紛らわしい」
「やから人の話聞けて?」
呆れたような苛立ったような舌打ちに、少し悲しさと寂しさを覚えた。今のはお互い、冗談、そういう流れ、と認識しつつも
へぇぇ?
鳴海さん、別に僕が結婚しても何とも思わないんやぁ、そこまで簡単に全然別れるなんて言われるとは思っとらんかったなぁ……
思っとらんかったなぁぁ??
あぁそうそこまで言ってまう?
へぇぇ?へぇぇぇ??
なんて毒づいていると、耳に飛び込んできたのは。
「……ぷ、くく……あっはははははは
お前ぇ、え?っはは、拗ねてるのかぁ?ふは、あはははは
冗談に何そんなムキになって……あー腹痛いっははははは」
「……え、は?」
「ふふふ、いや……
ボクがお前をそう簡単に逃がすわけないだろう?」
「……」
「お前の方から告白しておいて振らせはせん、振るとしたらば絶対ボクからだ」
「……ぁ、はぁ……なんやそういう……」
一度は目を見開いて黙って、その声に浸ったものだが、結局鳴海さんはこういう人。期待すると痛い目を見るのだ。
要は勝手に好きになっておいて勝手に冷めて離れられると癪なのでそんな奴は願い下げだ、ということ。これまた少し悲しさを覚えていたところ
またもや、衝撃。
「……まぁ、ボクが保科を振るわけないんだが……」
あんまりらしくない台詞に、息を呑んだ。
やけに遠い声が、きっとスマホを顔から離して呟いたのだろうということを容易に想像させた。多分聞かせないつもりの言葉ということが、僕のことを”保科”と呼んだことからも読み取れる。
それなのに聞こえてしまっているという、罪悪感、背徳感、その言葉への純粋な嬉しさが混在して、口元が緩む。
気持ちを緩やかに変化させつつ5秒間沈黙を過ごしたと思えば
またもや、爆弾。
「ボク、例えお前から別れを切り出されたとしても
その程度では諦めんからな?
追い続けて撤回させてやる」
「……は」
「プラチナ」
「……へ?」
「理由はボクが合う色だから。
お前が着けるとしたら……その指輪はきっと
ボクに合わせるだろうから。
だから、プラチナ」
「……何やそれ……ズルぅ……」
「ふは、この程度でズルいなんて甘いなぁ保科?」
「……まぁでも分かりました
鳴海さんは僕のこと大好きなんですねぇ」
「……ぁ……ぇ……ま……まぁ……」
「そこはハッキリ言うて下さいよ、不安ですて」
「……すっ、す……す〜……す〜、き……だ……」
時たま空気が漏れるだけの音はしつつも、なよなよの声で、すきだ、と言ってくれた。追い続けて撤回させてやる、だなんて言っていたときの自信はどこへやら、蚊の鳴くような声である。
こういうコロコロと色んな面が見える鳴海さんが、僕は大好きで仕方がない。やっぱり多色性を持つタンザナイトにして正解だ、と確信した。鳴海さんというのは、ひとたび傾ければ瞬く合間に変貌する宝石のようだ。
普段は自堕落でどうしようもない社不。
仕事を前に屁理屈を並べて逃げるガキ。
戦場では圧倒的に強くカッコイイ隊長。
節々に見て取れる自信過剰と図々しさ。
裏に見え透く息の詰まるような寂しさ。
それを埋めれば見れる可愛らしい笑顔。
大好きでやまないその全てが
タンザナイトの煌めきに似ている。
「ありがとうございます、ほな同期にはゴールドって伝えますわ」
「……話は終わりだな?」
「はい、ご協力ありがとうございます」
ブツッ
ブツ切りだけは直らない。最後に一声聞きたいものだが、こればかりは求め過ぎだろうか。
そういえばプラチナ、不健康な肌に似合うって言ってたな、え、鳴海さん自分の肌の色不健康やと思ってたんや?自覚あるなら陽を浴びてくれ……
1回そんなことを考えて頭を軽く横に振って、踵を返して店員さんの元へと向かった。
迷いなく
“リングはプラチナで”
と頼んだ。
とまぁこういう具合に、僕は苦労したのだ。
もしかしたらこの会話でバレてしまったかもしれない、ならバレていても驚くくらいの素晴らしいものを用意してもらおうと思考をシフトし、あらゆるオーダーを行い、結果80万超になっていた。
その片方。
40万を、目の前いる鳴海さんのセルフツッコミを見届けたあと、苛立ちを遮ってもう一度掲げた。
「……うん、はい……では、あの……改めまして」
「そんな面倒くさそうな……」
「……ゔぅん、鳴海弦さん。
僕と……結婚してください」
「……よ、喜んで」
「……っ……はぁ〜……嬉しいです……
けどやっぱこれを最初にしたかった」
「黙れ、ムードが崩れるだろうが」
最初に崩したんアンタやけどな。
なんて口には出さずに、改めて掲げた箱から指輪を引き抜いた。その様子を不思議そうな目で見つめる鳴海さんの、左手をそっととる。
それでやっと察したのだろう。頬は紅潮して、期待を寄せ集めて、映しこんだタンザナイトよりも瞳を輝かせてこちらを見ている。その瞳をまじまじと見ていると、Rt-0001が起動していることに気がついた。
「え、鳴海さん……Rt-0001起動してます……よ?」
「……ぃ、いいから」
ご本人も起動していることは把握していたらしい。何故起動させているのだろうかという疑問は払拭できなかったが、それよりも続きをしなければ気が済まない。
そっと、そっと
僅かに強張っている指先に、口を寄せ合う時のようにゆっくりと、鋭く光る輪を通していく。
付け根に当たる少し手前で動きを止める。喉を鳴らした音が聞こえて、やっと集中の余韻が切れた。その鍛えられつつも美しく細長い指を見ていた顔を上げると、鳴海さんは目を見張って指輪を眺めて息を呑んでいる様子だった。けれどその口は満足気に笑っていた。子供が浮かべる満面の笑みのようで、ひたすら可愛らしい。
「気に入りました?」
「……フン、まだまだだな
ボクだったらもっといいものを選べた」
「素直やないなぁ……
そんなとこも可愛らしゅうて、好きやけど」
「おっ、お前はよくもそう照れくさいことを……」
「ハッキリ言われるの好きな癖によぉ言うわ」
「濁されるのが嫌いなだけだ、勝手にそう解釈するな」
そっぽを向いた横顔を軽く笑いながら眺めていると、不貞腐れていても尚消えない頬の紅が、僕にまで移ってきたような気がした。
確かめるように顔に触れると、熱が掌に直に伝わる。左手も反対の耳の辺りに触れて、両手で小さな頭を覆い、優しくこちらへ向ける。これからすることをお互い何となく察しながら、3秒間見つめ合う。
するとまた、Rt-0001が起動しているのに気がついた。
「……なんで、Rt-0001使うんです?」
「……そ、の……準備……」
「準備?」
「……こっ、心の準備を……する為に……予め、察知しておきたい……というか……」
落ち葉を目で追っているかのように、言葉を繋ぐ度に、左右に揺らしながら照れくさそうに目線を落としていく。
なんて可愛いことを言い出すのやら。鳴海さんは、もう何回もしてきた行為に、そこまで緊張感を抱いていたというのか。
聞いて思わず頬を持つ手に力を入れてしまったら、むぎゅっと柔らかい感触がした。
「むぐっ、おい……?」
「あ、すんません、いやぁ返答が意外だったもので……」
「……まぁ、それだけじゃないんだが……
お前の信号は綺麗だから、な
……好き、だから、見てたい」
トドメの一言。
一層濃ゆい紅を頬と鼻先に浮かべて、上目遣いで目を合わせてくる。
トドメの表情。
それからは直ぐに顔を寄せて、口付けをした。
よく覚えていないが、何回もしつこくキスした記憶だけは残っている。
今目の前では、息を荒らげている鳴海さん。
「はぁ、はぁ、馬鹿、はぁ……殺す気か……!」
「この程度で死なんでくださいよぉ、日本最強の隊長様〜?」
「前からその煽りされる度に思ってたんだが……
自分で言うのも癪だがボクが最強なのはあくまでも、スーツを着用の上、対怪獣の話でな?ヘビー級のプロボクサーに勝てるかって言われたら違うわけだ、つまりボクは人類最強ではないのだ」
「……はい、で?」
「お前の本気のキスに耐えるだけの肺活量と体力を持っていないので加減は考えろということだ」
「はは、回りくど〜……
でも、今煽ったんは鳴海さんやないですか」
「煽ってないだろうが??」
「え、嘘、あない可愛らしいこと言うといて?」
「か、可愛……!馬鹿を言え!」
「ホンマのこと言うとるだけですて」
「……嘘つけ馬鹿、細目オカッパ」
「なんとでも」
この言い合いが本当に好き。僕の言葉一つひとつに、一々表情が大きく動いて、照れ隠しが大袈裟で下手くそで。
あー本当に
「……大好きですよ、弦さん」
「……な……」
指輪を指に通した時より、ずっと顔を赤くして目を見張っている、かと思えばわなわなと震えだして。
「名前呼びを許可した覚えはないがァ!?」
「えー、恋人なんやしそれくらい許してくださいよぉ、なんなら僕のことも宗四郎て呼んでください」
「……そ、そそっ……そ……んなことできるかァ!!」
呼ぼうとしてくれたのかもしれないが、恥ずかしさが勝ったのだろう、お得意の大声と激昂でかき消されてしまった。
せっかくここまで関係を深めてきたのに、未だに呼び合う名が当初と変わりないのが正直僕は残念である。
僕としては、”弦さん”もしくは”弦くん”と呼びたいし、”宗四郎”と呼んで欲しい。
「ほな僕勝手に鳴海さんのこと、弦さんて呼びますからね」
「……なんか
“さん”って付けられるの、むず痒い……」
「ほな”弦くん”で」
「だから許可してないと何度言えばわかるのだ!」
「うるさいお口は塞いでまおか、弦くん?」
「キスを脅し道具に使うなよっ!あとさりげなく名前を呼ぶな!」
「なんでそう頑ななんです?」
「……」
「……何か事情でも?」
「……それはもう深刻で想像を絶するだろうが
聞くか?」
「……聞きます」
「……心して聞けよ。ボクの事情
……慣れなさすぎて恥ずかしい」
「そんだけかい!心配して損したわぁ……
いや、施設とかでなんかあったんかと……」
「そこまで凄惨な過去してないぞ?
え、お前からはボクってどれだけ傷の深い人間に見えてるんだ?」
「ハイハイすんませんて弦くん」
「だからナチュラルに名前を呼ぶなっ!」
キャンキャン吠え続けていて流石にうるさくなってきたので、接近して顔を寄せて、唇を軽く親指でなぞってやった。
細く小さく
ん
だなんて声が聞こえて、理性が少し揺さぶられる。そのまま何往復か撫でてやりながら、耳元に口を寄せる。
「なぁ、”弦くん”って呼ばして?」
「ひっ、耳元で話すなっ
あと指やめろ」
「ダメ?弦くん……?」
「ん、ぁ……ちょ、保科……」
「”保科”やなくて、”宗四郎”って呼んで?」
「む、無理っ……!ハードル高いんだってっ」
「僕ら婚約したやん?……そんでも、ダメなん?」
「……ズルいぞそれを持ち出すのは……」
「弦くんの方がよっぽどズルいお人やで」
諦めたように徐に目を伏せて、俯いて。すぐそこにあった僕の肩に頭を預けながら、何回か呼吸をして。
小さく震えた声で、確かに。
「……宗四郎、プロポーズ……ありがと、嬉しかった」
ただ名前だけ呼んでくれても満足しただろうけれど、こんな文言までセットとなるともう心臓は限界。
あーホンマに
「弦くん……ホンマに、どんだけ可愛ええん?」
「お前……凄いな……なんでそう簡単に可愛いなんて言って名前呼べるんだ?」
「そら言いたいし呼びたいからなぁ」
「……やっぱりお前の方がズルいだろ」
「そぉかなぁ?」
微笑んで覗き込んでみると、重い前髪のカーテン越しに真っ赤な顔が見えた。目は見えないけれど、僕の肩を軽く掴んでいる左手の震えで、弦くんの羞恥心は嫌という程にまでわかった。左手の薬指の青は、その震えで幾度も微細に煌めく。
「……で、パリへはいつ飛ぶんだ?」
「……へ?」
「ボクと結婚したいんだろう?どうする
あっちで防衛隊入り直すか?日本防衛隊には主戦力であるボク達が抜けるのが気の毒だが」
「冗談よしてや……」
「っふふ、悪い悪い
……もう、こうでもしないとさぁ……」
両手で赤く染まった顔を覆って、なよなよの声でそう言う弦くんの姿は、なんと目に毒なことか。
こうでもしないと、なんなんだろう、なんて、弦くんの続きの発言を頭の片隅で考える。
数秒の後、急にバッと手を外すと、一瞬、真っ赤な顔に満面の笑みが浮かんでいるのを見て、次の瞬間は向こうの壁が見えた。
ぎゅぅっと力強く抱きしめられて、困惑していると
またもや。衝撃、爆弾。
「……こうでもしないと……
嬉しくて、嬉しくて……どうにかなりそうだ」
あぁ、本当に
「愛してます、弦くん」
「……ボクも……愛してる、宗四郎」
「こういうのは、ハッキリ言うんやから……
ズルい人」
「お前の方がズルいって言ってるだろうが」
抱きしめあって、体温と鼓動を分かち合う。
ひたすら幸せに浸る。
その間も、きっと弦くんの目には
僕の背に回した左手薬指の
タンザナイトが煌めいていた。
終わり
拙い文章にはなりましたがいかがでしたでしょうか?ノベル楽しいですね……チャット停止して浮気してしまうかもしれません(この投稿主に責任感というものは存在しません)
これからもこの位の長さか、これより短いか、これより長いかで投稿していきます(つまり都度長さはわからんです)
よろしければこれからも閲覧していただけると嬉しいです
閲覧ありがとうございました
コメント
3件
コメント失礼します めっちゃ文章書くのとか、表現の仕方とかすごい上手だなって思いました✨ 保科さんがめっちゃ考えてたり、指輪の色とかの聞き出し方すごいなって思いました! 見ててすごい面白かったです! 素敵な作品ありがとうございました!