お久しぶりです〜つなです🙌🏻。
今回も支部に載せた小説になります。久しぶりに小説に手を出したときのものなので、あまり期待しない方がいいかもしれません。
最後まで読んで頂けたら嬉しいです。
※桃青
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ブーッブーッというバイブ音とともに鳴り止まない、電話がかかってきたことを教えてくれる軽快な音楽。そろそろ寝ようかとベッドに入り込んだ眠りを邪魔したそれは、僕が出るまでなりやむ気はないらしい。
まあ明日は休みだからいいのだけれど。
重い瞼を擦りながら冷たい無機質なそれを手に取る。
表示されている名前。それは恋人のものだった。
「もしもし?どうしたのさとみくん」
「こんな夜中にごめん、ころん」
「寝ようとしてたけど、いや、まあ、全然いいけど…」
耳に触れるそれを挟んで聞こえる、もう聞き慣れているはずの声。少し聞いただけで口角が上がってしまう。彼の声には魔法でもかかっているのだろうか。
眠りを妨げられてぎゅっと寄っていた眉も、ほら、もういつも通り。
そんなことより、彼のあまりない行動に素直に驚いていると、迷いない真っ直ぐな声が僕の耳に届く。
「会いたい」
「は?、えぇ?会いたい?」
思いがけない言葉に素っ頓狂な声が出た。
困惑する僕をよそに、もう家の前まで来てるから鍵開けてと続けるさとみくん。
いや、待ってよ、そんな急に、急すぎるって。
「ころぉん寒いからはーやーく」
「わ、わかったから」
今日、東京では朝から珍しく雪が降っていてかなり冷え込んでいるはずだ。こんなところで風邪ひかれるより家に入れてしまった方がいい、はず。
いやでもほんとになんで来たんだよ。
鍵を開けて、次にドアを開くとほんとにさとみくんがいる。寝巻きのズボンに上にもきっと寝巻きを着ているんだろう。その上にいつも出かけるときのアウターを羽織っている。バックとかは持ってなくて手には僕のと繋がったままのスマホ。
その黒のアウターに点々と着いている白い雪が存在を主張している。見てるこっちが寒くなってくる。
鼻の先も、スマホを持つ指先も、頬も、いつもは白い綺麗な肌が赤く染まっている。さっきの話から、きっとここに着いてから電話を繋いだんだろう。多分結構な時間ここで待っていたはず。
来るならもっと早く連絡くれればいいのに。
全てが突然すぎて、思うことと言いたいことが沢山あって、ぐるぐるぐるぐると頭を回っていると突如体が前のめりに、そのまま抱き寄せられる。自分が抱きしめられてると理解するのにそうも時間はかからなかった。
「はぁー、ころん」
「なっ、ぐぇ、苦しッ、ちょっと強いって」
反射でそう言うと、力が少し弱まってまたしっかりと抱きしめられる。腰と頭にはさとみくんの腕が回っていてどうやっても逃げられそうにはない。しっかりホールドされている。
「え〜…さ、さとみさん、とりあえず寒いから中、入ろう?」
「ん〜〜…」
「あーもう、はいはい、分かったから。行くよ」
「あったけ〜〜〜」
「みかん食べる?剥いたんやけど」
さとみくんはうんと大きく頷いてあ、と綺麗な唇を割って開いた。ひと房が思ったよりちっちゃくて、ふた房一気にそこに放り込んだ。
てか顔ちっさいのによくそんなでっかい口…。
僕も一つ……ん〜〜〜まい。このみかん当たりだなあ。甘い。
鼻を擽るような、大好きなさとみくんの匂いに包まれながらのコタツ。どんなところにいるよりもここは、暖かくて、安心して、落ち着く場所。
あの後、玄関をあがってもなかなか離してくれる気配がなかったから手洗いうがいをして来てもらうという口実の元、なんとかさとみくんを引き剥がして。その間にふたり用のホットココアを準備して。戻ってきた彼をここへ誘導したらまた捕まって、今に至る。
背中に伝うとくとくとリズム良い心音と体温。
お腹に回るさとみくんの手が暖かい。もう寒くなさそう、よかった。
「てか、さとみくん、なんで急にきたの」
「ん〜〜……会いたかったから」
「だからさぁ、その会いたいにも理由があるじゃん」
さとみくんは極端だ。何に対しても。まあでも、そこも嫌いじゃないけど。
「なんかさぁ、今日雪降ってるやん、雪がころんに似てた」
だから、なんか会いたくなってた。なんて、なによそれ。
なるべく興味がなさそうにふーん、と返事をするけど顔が熱くて、きっと耳までも真っ赤だ。それに気づいているのかいないのか。どこまでキザなんだこの男は。
僕が一人で悶々と唸っていると、その綺麗な桃色の髪が視界に入る。あっという間にさとみくんの顔が僕の首に埋められて、ウリウリとでもいうように擦り寄ってきた。頭に浮かんだのは可愛らしい猫のシルエット。
ほんと自由人だよね。あなた。
「なぁに、甘えたなの」
なんとなくぽんとその頭に手を乗せて、髪を梳くように撫でる。
う〜ん、と小さく唸ると首に顔を埋めたそのまま、首にキスをする。痕を残すほどでもない優しめなそれはどんどん上に上がってきて最後には片方の手が僕の頬を包んで、自分の方を向かせて唇を奪われる。
また、こっちも深いムードのあるようないつものキスとは違って柔らかく、ふにと唇どうしが触れるだけのキス。なんとなく、合わさっているそれをちろと舐めるとココアの甘い味がした。
「んふ、ころんかぁわい」
「好きでしょ」
「うん、好きだよ」
一度離れた唇が、またお互いに吸い寄せられるようにして触れ合う。目と目があって、笑いあって。
全部飲み終えたココアが注がれていたふたつのカップをシンクに下げて水を流す。洗うのは明日の朝でいいよね。
そのままさとみくんに抱き抱えられて、寝室に向かって、2人でベッドに入る。時計の針はいつの間にか午前二時を回っていた。
「ころん寒くねえ、だいじょぶ?」
「うん、あったかいよ」
入ったときには冷たかったベッドも、いつの間にか二人分の体温で温まっていた。
ぴとりと体をくっつけて、僕よりも厚いしっかりした胸元に頭を寄せ、布の上から口付けた。それをさとみくんは感じ取ったのか、僕の頭にキスを落とす。
抱きしめられている体は暖かく、今度こそ、落ちてくる瞼に逆らうことなく、目を閉じた。
「好きだよ、ころん」
「僕もすき」
おやすみ、という声とつむじに再び憶える柔らかい感触と同時に意識を手放す。
明日は休みだ。朝起きたときに感じる彼の温もりを思い浮かべながら。
外では二人を見守るように、静かに雪が降り続いていた。