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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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先程すべての招待客を見送り、ここに叙爵並びにツーハイム邸披露パーティーは滞りなく終了した。


まあ、後片付けの方は残っているが、それはゆっくりやっていけばいいだろう。


――凄かった。


まさに貴族社会という感じだった。パーティーの有り様ではない。


面食らったのはそれに至る準備にだ。


招待客50名たらずの小規模なパーティーであったが、とにかく準備に・お金に・人員にとすべてにおいて想定外だった。


お金は……、まぁ問題なかったから置いておくとして。


まずは準備からだ。


招待状や引き出物は事前に準備していたので、こちらも問題はなかった。


では何が?


パーティーで出される料理である。


本日の厨房に於いては臨時のコックが居るにも拘らず、まさに修羅場と化していた。


まぁパーティー当日なのだから当然ではあるが……。


だいたいパーティー料理を普通の厨房で賄えるはずがないのだ。


日本のシティーホテルでも大厨房にはコックが30人~50人はいるのだから。


(大きなシティーホテルには大型レストランや結婚式場があります)


帝国ホテルに於いては400人いるからね。


それに比べて邸なんか賄いコックを入れても5人だから。


あっちこっちに声をかけても集まったのは15人ぐらい。


外に小屋建てて予備の厨房を作り、スープや煮込み料理などはそちらにまわした。


その中でも、シオンの実家であるラファール辺境伯家からはシェフである副料理長を含め6人が昨夜から応援に来てくれていた。


これは本当に助かった。


ラファール辺境伯様には頭が上がらないよぉ。感謝感謝である。






続いてはサービスやその他に関わる人員だ。


――まったく足りない。


臨時で雇えばいい?


何処から? 冒険者? 要らないし使えやしない。


この人員についてはナツが何とかしてくれた。


2日前より臨時の手伝いで、熊人族の男女30人を率いてこちらに来てくれたのだ。


ナツがリーダーシップをとって指示を出し、『英雄様の為ならば!』とみんな嫌な顔ひとつせずテキパキと働いてくれたのだ。


主な仕事は裏方業務で、一気に押し寄せる馬車群の誘導。


その馬たちによる馬糞の処理。


門の開閉に於いてもだな。


正規の門兵たちは貴族や従者の対応、玄関までの案内などに追われていたようだ。


邸 (うち) の下男だけでは到底間に合わなかっただろう。


その他でいえば、料理資材の運び入れ、調理場での助手、水汲みに皿洗いなんかもそうだ。


庭の隅には仮設トイレを3基用意しているが、主に従業員用であるこの仮設トイレの清掃もだな。


あと宴会中は意外と忙しくなる、庭ゲロの後始末もお願いしていた。


宴会スタッフに於いても、宴会場の内と外では役割が違ってくるのだが。


宴会場の中では貴族にも対応できるメイド隊が接客をこなし。


一方、場外では熊人族を中心としたサポート隊が動くことで、素早くスムーズな対応ができていたと思う。


そんなこんなで、盛況のうちにパーティーを締めくくることができたのだった。






ラファール辺境伯家のコック達が帰る際には、


例の胡椒こしょうと各種タオルセット、それにクリスタルのワイングラスとタンブラーを20脚ずつ持たせることにした。


「こちらも新しい料理や調理法を勉強する事ができました。また、いつでも声をおかけください。可能な限り協力いたします」


そう言い残すと、副料理長は満面の笑みを浮かべて帰っていった。


そして奮闘してくれた熊人族の面々には、謝礼として一人あたり大銀貨を3枚。


そして洒落のつもりで、サラが提供してくれたハチミツを20cm程の壺に入れてみんなに渡した。


「「「「うぉ――――――っ!」」」」


これには全員が飛び上がって喜んでいる。


両膝を突いて、両手で壺を頭上に掲げている者までいる。


えっ、そんなに?


ダンジョン・モンスターである『宮廷ハニー』が残すハチミツは極上なのだとか。宮廷だけに。


また、メアリーは3日前からアラン邸に帰っていた。しばらくはアランさんに甘えて来ることだろう。


シロは宴会中、あっちこっちで愛想を振りまいてはもふられて料理にありついていたようだったが。


とくに何の手伝いにもならなかった。犬なので。


――それにしても疲れた。


まあ、ほとんど気疲れなんだが。


明日は何もしないで温泉に浸かってよう。うん、そうしよう。






そして次の日。


後片付けはシオンたちに任せ、俺はシロを連れ午前中から温泉施設に来ていた。


はぁ――――っ、生き返るぅ。


冬場の温泉というのは、じんわりと体に染みるよなぁ。


湯舟を何回も出たり入ったりしていると、すこしお腹が空いてきた。


昼にはちょっと早いが何か食べようかな?


バスローブをはおり厨房へ向かっていると、転移陣の方が何やら騒がしくなった。


(おっ、誰か来たのかな?)


「ゲンパパ――っ!」


ぴょーんと飛びついてきたのはメアリー。


後ろには苦笑いしているアランさんとアストレアさん、そして王妃様にマリアベルだ。


さらに後ろからはデカ猫のチャトとお付きメイド隊が続いている。


「王妃様いらっしゃいませ。アラン様、アストレア様昨日はありがとうございました。ちょうど今から昼食を作ろうと思っていたのですが、ご一緒にいかがです?」


「あら、そうなの? 今日は何を作られますの?」


「久しぶりにドラゴンの肉を使ったスープなどをと……」


「ぜ――――ひ頂きますわぁ~」


みんなもうんうん頷いている。


「それではお茶でも召し上がってしばらくお待ちください。すぐにかかりますので」


ザラメのついた ”かりんとう” をお茶うけにと出してあげた。






季節はこれから冬本番。いったいどれくらい寒くなるのだろう?


日本で冬といえば鍋になるが、洋風で考えるならシチューなんかもいいよな。


今、手持ちの材料でならクリームシチューが作れるかな?


ちょうどマリアベルも来ているし、ホワイトルーからでも何とかなると思う。


そんなわけで、マリアベル指導の下、みんなで協力してクリームシチューを完成させましたー。


いや――っ、旨かった!


今までコツコツと集めてきた食材での集大成といったところか。


肉・ニンジン・ジャガイモ・小麦粉・バター・胡椒と、どれが欠けてもクリームシチューは完成しなかっただろう。


そうしみじみと思っていると、マリアベルがちょこまかとこちらにやってきた。


「はいコレ!」


小さな手で何かを手渡してくる。


「…………?」


――アハハッ、ハハハハハハハ!


それはなんと、鷹の爪唐辛子だった。


俺は興奮のあまり、マリアベルを抱き上げてハグしてしまった。


うっ、……しまった。


メアリーが横に居るんだったー。


バスローブの裾を引きながらジト目であらせられる。(汗)


すぐにマリアベルを下ろしてメアリーを宥める。


あちらの席からは、


「あらあら、まあまあ、二人ともお願いするわねぇ~」


そんなことをのたまう王妃様の隣でアランさんが大きく咳払いをしていた。


ひぇ~、すんませーん!






でも鷹の爪だよ! これは嬉しいでしょう。


なんかパスタとかも食べたくなったなぁ。


それにしても、どうやって手に入れたんだろ?


あいかわらず、あっちこっち動き回ってるのかねぇ。3歳児なのに。


――やれやれ。


後でまた、部屋にお小遣いを転送しといてあげないとな。


そうなのだ。


俺とマリアベルはダンジョンの力を借りて物質を転送させる事もできるのだ。


マリアベルは王城に居るので、大きな魔法陣では見つかってしまう。


そこで物質転送用の魔法陣が描かれたワッペンを渡している。それを机の引き出しにでも入れておけば、誰にも気づかれずやり取りができるというわけ。


それを使って、俺からは必要に応じてお金やダンジョン・サラからまわってくる新作のお菓子などを送ってあげている。


食事も終ったので再び温泉に入いる。


アランさんとは昨日もお会しているのだが、パーティーの席では話せない事も多いのだ。


王都におられる間に、一度ゆっくりお話ししたいと思っていたのでちょうど良かった。


そして湯舟に一緒に浸かりながらミスリルが迷宮都市に流れていた事。どこの家が中心に動いていたかなど詳しく報告していった。


………………


するとアランさんの方からも有力な情報を得ることができた。


最近、なにやら迷宮都市がゴタついている模様。


大手クランであった『宵闇の赤月』が突然解散し、そこの主要幹部だった者が次々と行方不明になっているというのだ。


「迷宮都市においての不正と未解決事件の数々。未だ物証は乏しいものの、これまでに積み上げてきた状況証拠だけでも十分にミヤーテ・ベスを断罪できるであろう。また冒険者ギルドにおいても然り。此度は捜査官と共に切り込んでいくことになろう。これらを成就せしめるため、ぜひともツーハイム子爵にはご助力願いたいのであるが。……どうか!」


アランさんの決意の籠った言葉に、


「元よりそのつもりです。微力ながらお力添えさせていただきます!」


そう言って俺は大きく頷いたのだった。


だけどなぁ……、温泉に浸かりながらだと、今一しまらないよねぇ。

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