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主さんの書くお話めちゃくちゃ大好きです!他のお話もそうなんですけど色んな意味がお話の中に入れ込まれててほんとに文章書くの上手で読んでいて楽しいです!!これからも応援してます!
突然の物音に肩を跳ねさせ、少し身構える。
音を立てないようにゆっくりとリビングに向かうと、見慣れた顔が居た。昼と変わらぬ姿で、どこか期待をしてしまう自分がいる。
「あ、起きてたの?」
明るい声が響いた。雰囲気にそぐわない声色に胸を撫で下ろす。
「泥棒かと思った。」
「ごめんごめん。泥棒じゃないからぶたないでね。」
冗談交じりに笑うその様子にまた涙が込み上げてくる。
「…もう寝ようとしてたから」
顔を逸らし、来た道を戻ろうとすれば腕を掴まれる。
「待って、話があるから来たの。」
打って変わって真剣な声に身体が強ばる。聞きたくない、そう頭が拒絶する。こんなことなら寝ていれば良かった。
「明後日聞くから、今は帰って。」
顔を合わせずに告げる。明かりがなくて良かった。こんな顔見せられたものじゃない。
「駄目。今じゃなきゃ駄目。」
その言葉に己の中の何かが切れた。
掴む手を振り払い、振り向けば口を開く。
「聞きたくないから、帰って。」
自分でも驚くくらい震えていた声だった。感情を抑え、必死に絞り出した声で、相手を気遣うなんてとても出来ない。
「…ごめん。」
その言葉を聞き、自身が起こした行動にハッ、とする。きっと嫌われた。こんなことで泣く情けない人間だって、もう。もう、来てくれない。
「えっと…寝室、行かない?あ、そのお誘いとかじゃなくてね?そんな関係じゃないし…?」
よく分からないまま頷けばそっと肩を押される。
「ごめんね、急に来て。連絡すれば良かったかも。」
「…いいよ別に。」
やけに落ち着いていた。感情が一周したら人は冷静になるのかもしれない。
「またお酒飲んだ?駄目だって。」
机上から増えた缶の本数を見ては優しく注意をされた。よく数覚えてるな、なんて回らない頭で思った。
「話って、何。」
ベッドに二人で腰を掛け、そう問う。聞きたくないけれど、聞くしかないから。
「…僕の事好き?」
「…は?」
呆気に取られた。思いがけない質問に言葉が詰まる。
「好きじゃないならもうこの話終わりなんだけど、ね!!でも僕は好きだからー…とか、なんか、ね。いや、ごめん。忘れて。」
やけに早口でそう話される。忘れて、恥ずかしいと頬を染めていた。
「…分かんない。」
考え抜いた答えはそれだった。この状況も、涼ちゃんの気持ちも、自分の気持ちも全部、分からない。
「やっぱそうだよね。なんでもない!ごめんね急に押し掛けて。帰るよ。」
一瞬向けられた瞳には悲しみが滲んでいた。言葉を誤った、そう思い立ち上がり帰りかけた袖を反射的に掴んでいた。
「俺も、好き。」
言ってしまった。途端に顔が熱くなる。もしかしたら取り返しのつかないことをしてしまったんじゃないか、別の意味だったんじゃないかと不安が脳内を渦巻く。
「…本当に?それ本当に言ってる?」
酔ってるからとかじゃないよね、と頬をぺちぺちと優しく叩かれる。
「酔ってない。本当に好きだよ。」
揺れた瞳を見逃さなかった。大切なものを扱うかのように優しく抱き締める。忌まわしかった月明かりは、2人を照らすスポットライトに最適だった。
「良かった。僕もう、全部終わっちゃうと思って。」」
「…俺も、そう思った。」
気恥ずかしさに目を逸らす。逸らした目線の先には、暗闇で一際画面を光らせるスマホがあった。
ホーム画面に示された時刻は、23:00。
230=貴方を好きになってしまった