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わたしは、いわば『優しい人』でした。どんな人相手にも平等に接し、どんなお願いも引き受けていたからです。
幼い頃から、わたしは「大人っぽい」と言われていました。時には、「気色悪い」とも言われてしました。しかし、それ以上に、「優しい人だね」と言われていたのです。それはそれは、皆さんわたしを頼ってくれていたのです。難しい宿題、掃除、面倒くさい物事等々・・・。わたしが全て引き受けていました。わたしにとって、それらは苦ではなかったのです。なんなら、わたしにとって、それらは生きる意味、のような感じでしたね。
中学生のある日、ですかね。わたしはある女子にこう聞かれました。「いつも仕事引き受けてるけど、疲れない?」と。わたしは、「疲れませんよ。」と答えました。正直に答えたはずでしたが、その女子はわたしを人間ではないような目で見て、そのまま離れてしまいました。
その子と話せなくなったことはとても悲しかったです。しかし、それより、『みんなに信頼されている』という気持ちがわたしの心を覆いました。むしろ、何も仕事を言ってくれない日は、わたしから仕事を探すほど、皆さんの役に立ちたかったのです。
もしかしたら、否、今なら断言できますが、皆さんの目には、わたしは奇妙に見えていたのでしょう。そして、『扱いやすい良い人』とも思われていたのでしょう。わたしは、自分から意見を出す方ではなかったため、皆さんにとっては操りやすかったでしょう。
そんなわたしを変えた出来事がありました。それは大体、中学二年生ぐらいでしたかね。わたしはいつも通り、皆さんの仕事を終わらせてから帰っていました。その日は、少々長引いてしまい、運動部が終わるまで残ってしまいました。
そこまで急いで帰ろうとしていなかったため、わたしは寄り道をしながら帰っていました。いつも通り、公園を突っ切ろうとすると、一人の男の子がお世辞にも綺麗とは言えない布を体に巻いて、うずくまっていました。わたしの悪い癖、困ってそうな人を助けてあげたいという心理が働いてしまい、その男の子に話しかけました。
その男の子も、始めは話そうとしませんでしたが、数分経つと、返事はするように、さらに数分後には少しの会話ができるようになりました。
その男の子の話によると、どうやら親に追い出されてしまったそうです。彼は元々、発達障がいがあり、それを親がよく思っていなかったようです。
わたしは、共感、殺意、怒りより先に、『守りたい』という気持ちが強く出ました。そんなに弱い子を、そんなに脆い子を一人にしてはいけない、助けなければいけない。そんな風に感じたのです。今までは意味もなく、ただ生きるために、自分のために人助けをしていました。しかし、彼に出会って、ようやくわたしのするべきことが分かったのです。世界の困っている人々を笑顔にする。自分のためにではなく、相手のために行動する。それが分かったのです。
わたしは、男の子の腕を掴み、自分の家につれていきました。それはそれは、親はもちろん驚いていましたね。わたしが自分の意思で行動することは、多くなかったのですから。それでも、そんなわたしを両親は快く受け入れてくれました。急にわたしの家に来たその男の子は、もちろん戸惑っていました。時には暴れてしまうことも多々ありました。しかし、わたしはそんな彼を受け入れました。受け入れながら優しく、正しく接しながら彼と関わっていきました。そんな生活を続けていると、彼がだんだんと笑顔を見せてくれるようになりました。普通の笑顔よりは乏しいところはありますが、初めて会った時より、明らかに笑顔になっていました。
もしかしたら、わたしはそんな彼に、少し心が惹かれていたのでしょう。彼ができなかったことが月日が流れできるようになると、本人よりとても喜んでいた覚えがあります。なんというか、母性が少し滲み出ていたと思います。
彼と会ったあと、人生が豊かになりましたね。今まで色褪せていた物が、絵の具によって新しく塗り替えられたように。
しかし、人生というのは酷いものですね。幸せなど、長く続かないのです。
何より、未練が強かったのですよ。もっと、彼を守りたかった。もっと、彼と暮らしたかった。もっともっと、人生に華を咲かせたかった。そんな願いも虚しく、わたしの人生は消えてしまいましたね。
今でも思いますよ。あの日、もし生きていたらって。
ですが、過去はしかたないですよね。
わたしは今、第2の人生のレールを進んでいます。今度は、彼のように一人ぼっちにさせず、最後まで守り抜きたいのです。