店長視点
カランコロン。
「お疲れ様でーす。」
「あ、若井くんー。おはよぉ」
「もう昼ですけどね笑」
たくさん花の入ったバケツをあちこちに移動させていると、お昼から出勤の若井くんが来た。
今日はなんでも、病院に行く日だったらしくて、めずらしく午後からの出勤だった。
あぁ、なんだか。
顔周りが前より少し、痩せた気がする。
本人は、なんでもないように振る舞っているけれど、内心あまり穏やかでいられないのは明白で。
かといって、私にしてあげられることなど一つもない。
初めてバイトの面接に来た時に知らされた。
病気であること。
そのためあまり力仕事はできないこと。
それでもいいかと、どこか切なそうに聞くものだから、思わずどうしてうちに?と尋ねてしまった。
聞けば、若井くんの母がうちの常連客さんだったらしかった。
母も同じ病気だったみたいだけれど。
生前、バイトするならうちがいいんじゃない?としきりに言っていたらしい。
笑顔が素敵だから、きっと良い職場に違いないと。
そんな話をされるものだから思わず、
「ぜひ、うちにいらっしゃい」
それがこの子の力になるならと、すぐに承諾した。
とても真面目そうな、爽やかな青年だった。
出会った頃のことを思い出していると、思っていたよりぼーっとしていたのか、若井くんが不思議そうにこちらを見ている。
「あ、そうだ。」
ある事をふと思い出して、慌てて裏の方へ行く。
若井くんにやってみてほしいことがあったんだ。
「若井くんにお店のポップ、書いて欲しいのよね。」
そう言って、小さめの厚紙とカラフルなペンを渡す。
以前、初めてアレンジメントを頼んでから、私がお店を空けている時にはたびたび若井くんにやってもらうことがあった。
お客さんにもとても好評で、見てみるといろんな花を使っているのに自然とまとまりがあって、やっぱり色彩感覚がいいのかもなぁと思った。
「ほら、たしか花言葉とかも好きだったよね?そういうの、書いてくれたら嬉しいなって思って。」
「あぁ、俺でよければ。」
「じゃあさっそくおねがいしちゃおっかな。この辺の作業は私やっておくから、奥で作業してきてね。」
「はい。」
そう告げると、奥の方へ少し何かを考えるようにして入っていった。
やっぱり、彼は真面目だなぁ。
何かを頼むと、それを精一杯やってくれる。
きっと、その真心がみんな嬉しいのだと思う。
それは私も例外ではない。
その後少し外に用事があって、店を空けて戻ってくると、
「わぁ…!すごくかわいい!」
若井くんの作ってくれたポップが、お店をかわいらしく彩ってくれていた。
よくみるとクイズ形式になっているものもあって、改めて器用だなぁ、と感心させられる。
「ありがとうねぇ若井くん。」
そう言うと、少し照れながらはにかんだ。
…早く、藤沢さんにも見てほしいなぁ。
少し前からよく来てくれるうちの常連さん。
すごく優しそうな、笑顔が素敵な人。
若井くんも、その人が来る日は心なしかうきうきしているのが見てわかる。
藤沢さんと話している時は、とても嬉しそうにしているから。
「少し、休憩しましょうか。ちょうどさっき、美味しそうなお菓子もらったのよ。」
「…ほんとですか。食べたいです。」
「そう!じゃあお茶にしましょっ」
そう言ってお気に入りのティーカップを棚から出す。
あ、そうだ。
たしか、この前藤沢さんにいただいた茶葉がこの辺にあった気がする。
あった、あった。
「んっ、…この紅茶すごくおいしいですね。」
「ね…!これ、藤沢さんが以前来た時にくれたのよ。」
「…そう、なんですね。こんどお礼言わなきゃですね。」
そう言うと、とても嬉しそうに微笑む。
“藤沢さん”
この言葉を聞くと、いつもとても嬉しそうに目をきらきらとさせる。
普段はとても落ち着いているから、同い年と話しているような気にさえなるけれど、こうして時折、年相応の顔を覗かせる。
そう、…まるで同じ学校の子に向ける好意のような。
きっと、気のせいだ。
勘ぐりが過ぎるのは私の悪い癖。
けれど、絶対にないとも言い切れないような、そんな表情を見るたびにいつも胸の奥がきゅっとなる。
なんだっていい。
彼に残されたわずかな時間のその先に、ほんの少しの光があったらいいと、そう思った。
その日の紅茶は、ほのかに甘酸っぱい香りがしていた。
あとがき(まだまだ続きますよ…?)
今回は店長さん視点で書いてみました!
どうでしたか…?
あの、他のに比べたらだいぶそのなんていうか、、えっちな要素皆無ですよね。。
おねがいッ!!最後はきっと、そんな感じのあると思うから…。よかったらみてね。
今はほら、、他があつあつだから、クールダウンにでも見てやってください。
いろいろ収まると思います。()
ちょっと長くなりましたが、では…!!
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