コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
紗理奈はもう一度自分が楊貴館に訪れた所から、彼に話をした、30歳の誕生日にロストバージンをしたい事、マダムと一緒にオーダーメニューを考えた事、メニューを見たけど訳が分からず、マダムにオーダーをお任せした事・・・・
そしてあなたが今現れたことなどを、頭が弱い人にもわかりやすいように丁寧に答えた
彼はとても聞き上手だった、時間が経つにつれ紗理奈の「頭がからっぽの男」という彼の第一印象は覆された
やにわに家に引っ張りこまれた驚きから、素早く回復した彼は理解力に鋭く、今や頭の回転の速さが見えるようになってきていた
「どうして30歳まで誰とも付き合わなかったの?」
直哉がそう言って、次に紗理奈が用意してくれた白ワインと、ローストビーフを見つめた
「これも?用意してくれたの?」
「嫌なら違うのもあるけど・・・」
あ~んと大きく口を開けている、食べさせて欲しいと言ってるのだ
クスッ・・・さすが女性に甘えるのが上手ね・・・
紗理奈がローストビーフを一枚フォークに巻き、付け添え付けのクレソンと一緒に直哉の口に放りこんでやった、嬉しそうにモグモグしている彼がとても可愛い
「私がどうして誰とも付き合わなかったって?それは自分がモテないからよと言わせて私を惨めにさせたいの?」
プクッと紗理奈がほっぺを膨らませて、体育座りをした膝の上で、ワイングラスを持ちながら直哉を睨む
とても30歳になろうとしているような女性には見えない、クスクス直哉が笑った
「君みたいな美人がモテないなんてありえないよ、それにどうして女性は30歳にこだわるんだろうな?何歳でも魅力的な女性は沢山いるのに、俺は一切年齢は関係ないと思っているよ、問題は中身さ」
「あなたおいくつ?」
「32歳だよ!君より2歳年上だけど、きっと俺の方が子供っぽい」
「私・・・・どういうわけか、男性の前では委縮してしまうっていうか・・・多分・・・厳格な父を見て育ったせいかもしれない、会話も弾まなくてつまらない女と思われてしまうの」
「俺とはこんなに話してるじゃない」
「だってあなたは特別!女性の扱い方がとても上手だわ、さぞかし今まで色んな女性を見て来たんでしょうね」
「うん」
そう言って彼は上を向いてクイッと白ワインを飲んだ、大きな喉ぼとけが上下に動く、そんな所までセクシーだ
・・・否定しないのね・・・逆に清々しいわ
紗理奈はフフフッとおかしくて笑った、この人といると簡単に笑みがこぼれる
彼があんまりにも魅力的でぼうっと見とれてしまう、という最初の状態を抜け出すと、今度は彼の軽快なジョークとおしゃべりで、一緒にいるのが楽しくてしかたがない、気持ちにさせられる
実際紗理奈は必要以上にのせられて、べらべら喋っていた
そして彼は紗理奈の話に真剣に耳を傾け、紗理奈の言ったことを考え、まともに返事をしてくれた
今までの紗理奈の前に来る男達は、紗理奈の威厳のある落ち着きと、真面目くさったふるまいに恐れをなしていた
そんな彼らの前での水谷女史は可愛いとか、、愛くるしいとかの形容詞は当てはまらなかった
ところが彼の前では尊敬する知的な水谷女史ではなく、年下の可愛らしい紗理奈と思われているようだった、それが嬉しくてならなかった
まるで魔法にかかったみたいだ、これがこの人の大きな魅力だと思った
「私達は今夜一晩・・・それだけの仲、明日の今頃はあなたはもう私を忘れてるわ、だからこんなにリラックスして、いろいろお話できるのかもしれないわね」
「・・・・・ 」
その時彼は不思議な顔をして紗理奈を見つめた、これは紗理奈の本音だった、彼と紗理奈はお金で雇われた関係なのだ、だからこんなに気負わずに何でも、話せるのかもしれない
実際女性達がお金を払ってまで彼と過ごしたいと、思う気持ちは紗理奈にも理解できた
この男らしい、魅力的な男性を金の力で、思うがままにできるなんて、途方もない事だけど、激しく心がそそられる、何か熱いわけのわからないものが体を駆け巡る
紗理奈は女性でもこんなに欲望に悩まされることが、あるんだと今理解した
「へぇ~・・・ここまで波の音が聞こえてくるんだ・・この家素敵だね」
「そうなの・・・裏のポーチの景色もとっても素敵よ、都会の喧騒じゃなくて波の音しか、聞こえないのが気に入っちゃって買ったの」
「良い趣味だ、さぞかし執筆もはかどるんだろうね」
「・・・それが・・・・書けなくなっちゃったの・・・・」
紗理奈はそう言うと彼の真似をしてクイッとワインをあおった、彼は目を見開いて紗理奈をじっと見ている
「本当に?一文字も?」
「ええ・・・それで東京から逃げてきちゃったの」
紗理奈はつとめて無表情を保った
「休みが必要かもしれないね、また書けるように・・・・ 」
「もう一生書けないんじゃないかしら」
意外にもどうして?とか、彼が問い詰めなかったのが救われた。だから動揺せずに初めて自分の悩みを、人に言えたのかもしれない
実際紗理奈は恐れていた、作家以外にどうやって生きて行けばいいのかわからない
「そんなことないよ、君は天才だ、書けるようになるまでゆっくりしたらいいさ、今は(神様がくれたロングバケーション)さ」
彼はそう言って優しく微笑んだ、そんな大天使ミカエルみたいな顔で言われたら・・・
暫く二人は見つめ合った、無言のまま、波のしらべだけが静寂した部屋に漂う
「・・・俺が怖い?」
優しい声で紗理奈に聞いた
もちろん怖いに決まってるでしょ!そう言いかけて思いとどまった、小さな頃から恐れ続けて来たもの
拒絶され・・・笑いものにされるのではという恐れ
そして男の親密さの裏にあるのは、卑しく如何わしい下心であることがわかって、また和樹の時のように落胆するのが怖かった
自分以外の普通のこの歳の女なら誰もが、経験していることを自分は知らないという劣等感
男性に情熱的に愛され、一生を共にしたいと、言ってもらえる人に巡り合えなかった
でもだからといって、このまま誰からも求められずに生きていかなければ、ならないのだろうか
女性の生涯にはおそらく、二万回の夜があると何かで読んだ、少なくともその一夜だけでも、誰かと思いのまま過ごしてもいいのではないだろうか
紗理奈は目の前にいる魅力的すぎる男を見つめて言った
「そうね・・・少し怖いかもしれないけど・・・好奇心の方が強いわ・・・」
「ねぇ・・・すごく綺麗な髪だな触ってもいい?それだけ長かったら冷たいのかな?温かいのかな?ずっと考えてるんだ、爪も凄く綺麗だね」
クスクス「綺麗にしようと努力してる所を、褒められるのは嬉しいわ。別に触るぐらいいいわよ」
「やった!こっちへきて」
無邪気な少年のような笑顔で自分の横の、ソファーの場所をポンポンと叩く、その仕草が可愛くて紗理奈もクスクス笑いながら直哉の横に座った
「失礼しま~す」
これまで男性に身体を触る許しなんて、求められたことはなかった、紗理奈は目を閉じ「どうぞ」と小さく言った
彼が優しく髪をなでて、大きなウェーブがかかった巻き毛に手を入れると、頭皮がぞくぞくした
彼は太く長い指をたっぷりとした髪に通し、手櫛でカールをほぐしで肩にかけた、そっと顔を近づけ首筋の匂いを嗅がれる
う~ん・・・「綺麗だなぁ・・・そしてすっげぇ良い匂いだぁ~ 」
「そ・・・そう?椿のヘアオイルかしら・・・植物性が好きで・・・気に入ってもらってよかったわ・・」