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「好き」

そのたった一言が言えないまま1年が経った。

別に言えなくても君は誰かのものになることは無いし、1番仲のいい友達は私だと思ってた。 いつも変わらない日常。いつも通りの距離感。進展もなければ後退することもない貴方との関係。そしていつもと変わらないはずだった今日の夕方。いつかは言いたかった”好き”が絶対に言えないものになった。




時刻は午前1時

みんなでの配信が終わって徐々に解散していく流れでdiscordを抜けた後

「まさかそこくっつく?予想外すぎる…」

早速零した愚痴はすぐ暗い部屋に溶けていく

今日の配信前最近集まるのが早くなったせいか、夕方だと言うのにみんなdiscordにいた。そこではっちーが嬉しそうにせんせーと付き合った報告をしてきた。みんなが祝福する中、せんせーに恋心を寄せていた私は内心穏やかではなかった。きっとニキニキも同じ気持ちだったと思う。彼もせんせーのことを好きと言っていた。

結局私もニキニキも思いを伝えられないまませんせーに振られてしまった。こんなことになるなら早く、もっと早く行動しておけば良かったな。なんて今更後悔してる。片想いが叶わない恋になった途端彼との楽しかった思い出が頭を駆け巡る



せんせーと出会ったのなんていつかすら覚えてない。けどせんせーが告白してきてくれたことはよく覚えてる。

確か去年の4月と10月の2回、私のことを好きと言ってくれた。 4月の私は馬鹿でドッキリだと思って軽く流した。 10月の私は弱くてニキニキとお似合いだと決めつけて断った。

本当に臆病で弱い人間だ。

理由なんて特になく、ただ好きだと自覚した6月。ニキニキもせんせーを好きだと知った9月。せんせーとニキニキがデートに行った12月。本命チョコを本命といえなかった2月。せんせーとニキニキの距離が空いた4月。片想いが終わった6月。

1年、たったの1年だったけど、楽しくて充実した1年だった。

そんな彼との楽しい思い出が今では苦しくて。 誰も見てないけど必死に涙を堪えようとしてしまう。泣くのは駄目。私が泣く権利はない、彼を2回も振ったのに、彼に冷たい態度をとったのに、それなのに彼は気丈に振るまっていたじゃないか。

溢れないように抑えていた涙が零れそうになった時突然電話が鳴った。ニキニキからだった。急いで涙を拭って通話ボタンを押す。

「もしもし、ニキニキ?どした?」

声優をやってて良かった。さっきまでが嘘のようにいつも通りの声が出せた。ニキニキに気づかれないように胸を撫で下ろすが、少し経ってもニキニキは一向に話してこない。不思議に思って耳を澄ますと、鼻をすする音がなった。

そっか、やっぱそうだよね。

「ニキニキ、お疲れ様。」

慰めるつもりが既に声は震えていて、さっきまであんな頑張ったのに頬を温かい雫が伝う。

「…まちこり、俺ボビーのこと好きだった」

「うん」

「ちゃんと、好きだった、、のに」

電話越しの声がどんどんかすれて、途切れ途切れになって、言い終えないうちに嗚咽が聞こえる。いつも元気で自己肯定感の高いニキニキがこんなに声を荒げて泣いているのなんて初めて聞いた。きっとそれくらい辛いんだろうな。

「…私もちゃんと好きだった。 」

かく言う私も耐え切れなくなって泣き崩れてしまった。そこからはもうぐちゃぐちゃだった。辛いくせに苦しいくせにお互い慰め合おうとして、自分に刺さってを繰り返した。


それでも1時間くらい経って私もニキニキも落ち着いてきた頃にはもう、すっかり思い出話に花を咲かせていた。

「ボビーさ、俺の事信用しすぎて普通に関節キスとかしてたんだよね笑」

「うわぁー、確かにやってそう。せんせーそういうところあるよね」

「ほんっとに思わせぶりだけして彼女作るとか絶対許さん。一生つきまとうからな」

「未練タラタラですねー笑」

「まちこりもだろ」

「そうだけど、そこまでじゃないと思う」

「やっぱ俺の愛情の方が強いんだよ」

「おっと?聞き捨てならない言葉だな?」

「ガチトーンじゃん笑」

意外にも楽しくて、そもそも1時間も他のことを何もせず誰かと通話したことなんてないから新鮮だった。きっとニキニキとは気が合うんだな。

「ねぇさ、まちこり」

「ん?どした?」

「2人で傷心旅行でも行かね?」

「おっ、いいね!行こ行こ!!」

「じゃあどこ行きたいとかある?」

せんせーに好きを伝えれなかったけど、失恋しちゃったけど、2人きりで話すのが苦手だったニキニキと仲良くなれた気がした。せんせーには感謝しないとね。

「えっとねぇー…」


これは私がニキニキと付き合うきっかけとなった夏の恋の記憶だ。









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