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第5話 名前
鉄格子を隔てた沈黙。
わずかに差し込む月明かりが、二人の間に落ちていた。
「……だったら、俺を名前で呼んでみろよ。」
wki が笑うでもなく、挑発するでもなく、ただ静かに言った。
omr の喉がひりつく。
規則が頭をよぎる。囚人に特別な呼び方をすることは、看守としては許されない。
だが、その瞳に宿るわずかな人間らしさを無視することも、もうできなかった。
「……若井。」
かすれる声が夜に溶ける。
鉄格子の向こうで、wki の肩がわずかに震えた。
しばしの沈黙ののち、彼は口元をゆるめる。
「……そうだ。俺は、若井滉斗だ。」
囚人番号ではなく、名前。
それだけのことが、檻の中の空気を変えていた。
omr は視線を逸らす。
「……二度と呼ぶな。これは……ただの確認だ。」
「へぇ。」
wki は楽しそうに鉄格子に額を預ける。
「なら、俺は一生忘れねぇよ。お前に名前で呼ばれたこと。」
月が雲に隠れ、独房は再び闇に沈んだ。
けれど二人の間には、もはや以前のような隔たりはなかった。