【あめの夜】
とても寒い夜だった。
マフラーに埋められた口元から生暖かい空気が出る。
ほぼそれだけで暖を取っているようなものだった。
耳が痛い。手の感覚も無くなってきた。
それでも俺はここに居なければならない。
彼奴が、居るから。
今日は彼奴の命日だった。
『綺麗だな…』
空を見上げる。
そこには勝色に染まった「空」があるだけだった。
しかし、空気が澄んでいる田舎だからか、少し目を凝らすと無数の過去が見えた。
まるでそれは人生の別れの数のように思えて。
『これからも、失っていくのか。』
なんて、厨二じみたことを口に出す。
この時の俺は、分かっていなかった。
あの日見た花の示す意味を。
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