コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「あんこの話」
私は、昔から器用な人間で、何をしてもパッとしない子だった。得意なことも、不得意なことも特にない。可もなく不可もなく、何もかもが真ん中の出来だったからこそ、私は、私が嫌いだった。それでも昔から愛嬌だけはあった。だから私は、愛嬌でどんなことだって乗り切っていた。ちょっと困ったことがあれば、上目遣いで、相手をじっと見つめ、困った顔をする。それだけで、周りの大人たちは、私のことを助けてくれた。私はその術を美味しいと感じていた。これが私の唯一の武器だとも感じていた。そうして私は、どんなことも、自分の力なんかではなく周りに頼ってこなしていた。私はパッとしない子だったけれど、それと同時に私の人生もパッとしない人生だった。可もなく不可もない私と、可もなく不可もない私の人生、息をするには空気があり余り過ぎてる私の日常は、灰色に染まった空みたいに、重力に引っ張られて体が沈みかけるようなそんな日々だった。私は、ただひたすら私の人生を呪っていた。でもね、私あなたに会えて変わったの。あなたが私の目の前に舞い降りたその日から、私の人生は、灰色空から雲一つない青空へと形を変えていった。息を吸っても吸い足りないほど、息を吐いても吐き足りないほど、私の毎日は澄んでいた。きっとあなたは、そんなこと知らないだろうけど、それでも良いの。あの時の私は、きっとどうかしていた。みんなが私を気味悪がった。でもね、あなたは違う。あなただけは、私を受け入れた。私の瞳を強く見つめて、私の手を放そうとしなかった。あなたは、不思議な人。だって牙を向けた私を怖がらなかったんだもの。私が向けた鋭利な牙を見て、あなたは私に素敵だと言ったの。その言葉が、私をどれだけ救ったか知っている?私の内側に潜む牙をあなたは、これでもかと言うほどに優しさの塊で包み込んでくれた。そんなあなたの暖かさに、私の心は救われた。「ありがとう」という言葉だけじゃ、あなたに伝えられない。こんなありふれた言葉じゃ、あなたからもらった暖かさを返すことが出来ない。私はもう一度あなたに会いたい。今日は、あなたに会える気がして、だから、この手紙を書いてみたの。暗闇が夜を夜らしく仕上げていこうとしている。ここには時計がないから、今の時刻が何時なのか分からないけれど、風が体に当たるときの肌寒さと、雨がぽつぽつ鳴る音と、塩が混ざった水の音で、時計の針がどこを指しているのか、何となく検討がつく。ではそろそろ私もこの辺であなたへの手紙を書き終えようかと思う。ここまで読んでくれてありがとう。すごく長い文章だったでしょう。書きたいことが山ほどあってうまくまとめられなかったの。
追記:最後に質問があります。もしも私たちが出会わない世界があるとすれば、あなたはその世界を許しますか。