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【北村視点】
「えっと、こっちです。」
下を向いて先導する中野さんに
俺たち三人がついて行っていた。
「仲村ん家、こんな近かったんだ…」
高校から友達らしい山本も
家の場所すら知らない様子だった。
「海さんは、高校の時こっちに
電車で来てたらしいですね。」
(広島から?)
中野さんが前を歩くから、
どん な顔をして話しているのかなんて
分からなかったし、考えたくもなかった。
「海さんが大学も兵庫の所 に
行くってなって、
家ごと引っ越したらしいです。」
“愛唯”という子のことを
聞いてもいいのだろうかと、
ずっと考えていた。
「愛唯…さん?とは、どういう関係?」
しかし山本はやっぱり聞いた。
「愛唯は……七歳の時、転校してきました。」
中野さんは青い空を見て、
大きなため息をついた。
「それで、小五の時、自殺しました。」
「……………。」
しばらく沈黙が続いた。
何故その情報が
中等部の教師にすら
届かなかったのか。
おそらく、水戸理事長が
隠蔽したのであろう。
そういうことは、
中等部でも起こったから確実だ。
「なんで隠蔽なんてするんですか!?」
あれは去年のこと。
「まーしゃーないw
私もねー、娘が初等部に 入ったばっかでねー
私に関する嫌な噂を流したくないんだよー」
水戸理事長は、嫌な人だ。
俺も山本も長谷川先生も、
他の先生だって、
みんな嫌っていた。
「ちぇ、あの男いつか地獄に落ちればいいのに…」
「こら山本君!聞こえるやろ!」
二人の声は俺に聞こえていたから、
きっと理事長にも聞こえていた。
「九組は自殺者が増えてます!!
五組、六組は、いじめが多い!」
俺が何度強く言っても、
理事長は顔色ひとつ変えなかった。
「担任のあなた方の教育が悪いのでは?
あなた達が批判されぬよう、
隠してあげているだけですが?」
「………!」
そこにいる担任の先生たちは、
何も言えなかった。
「来年はあなた達は
一年生担当になりますよね?
初等部から来る子も、
中等部から入る子も、
担任の教育が悪いと
知ってしまったら… 」
グダグダ話す言葉は、
俺の頭に入らなかった。
うちの学校、水戸学園は
校則が緩く 町にこの学園しかないため、
10組もクラスがある。
初等部、中等部、高等部あり、
最長12年(留年除く)いる人も。
教師陣も、給料が高いと言う理由だけで
勤めている人が多く、
理事長が財産を手に入れてからは、
辞めるに辞められず、
10年以上ここに勤める人もいる。
「そっか、初等部でもなんやな…」
長谷川先生がそう言った。
「知ってますよ、中等部もでしょ?」
中野さんはそう、半笑いして言った。
「お兄ちゃんは…だから、…。」
何が言いたいけど、言えないような
中野さんの寂しい声が聞こえたあと、
鼻をすする音が聞こえた。
その後手で 目を拭っていた。
「はい、ハンカチ。」
すると、海が前から来た。
「すみません。」
中野さんがハンカチを
受け取ろうとした時、
俺は海の腕を掴んだ。
「でえれーやっちもねー。」
「ん?樹さん? 」
海は俺のタイプを知っている上で
こんなことをしている。
「ぶちまわすぞ。」
「こっちのセリフじゃけぇ💢」
俺は、広島から岡山、
そして兵庫に来た。
「ま、家まで案内しますよ。近いし。」
海は俺の手を振り払って言った。
「はよしねよ。」
「💢
方言なんは知ってるけぇ、
黙っときたいけど、
わざと言っとるじゃろ?」
「あ?」
「なんか北村さん、俺以外に
怒ってるの初めて見ましたね。」
「えー、そうなんですか?」
「中野は知らんもんなあ。」
やっぱり海は、中野さんと
友達以上の関係に見える。
それが嫌だった。
結局何も無かったように
海の家に向かった。
「あれ、歩美ちゃん、
ちょっと身長高なった?」
「あーはい、最近伸びてきてます!」
「いやぁ、四人とも遅いから来たけど、
来ん方が良かった?」
「いえ!遅くなってすみません!
ちょっと道に迷ってて。」
「ん、その服、愛唯とお揃いで
俺が買ってあげたやつかな?」
「はい!愛唯に会いに行くし…
お気に入りだから………」
「あっ、愛唯が好きだった
三色団子持ってきましたよ!」
「奇遇じゃな、
こっちでも準備しとったんじゃ。
勿体ないし、何個か
歩美ちゃんが持って帰ってくれる?」
「そうだ、さっきのハンカチ、
せっかくじゃし、 貰ってって。 」
「え、いいんですか?
貰っていきますね。」
「はい、ここじゃけぇ、
あがって。」
「1ヶ月ぶり?ですよね。
懐かしいなぁ。」
なんだろうこの気持ち。
行ってる最中、
ずっとおれは黙ってたし、
二人は俺をじっと見ていた。
「………なんじゃ。 」
ずっと胸が苦しかった。