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しかも幸運なことに、店主夫婦はいくつかの宿屋を持っていた。 リオはこの店から一番近い宿に泊まらせてもらおうと思ったが、アンがいる。宿は動物を連れ込めない。それならば違う宿を探すか、最悪野宿かな…と悩んでいると、店の隣に倉庫代わりの小さな家があり、そこで良ければ無料で使っていいと提案された。リオは喜んで使わせてもらうことにした。
食事は店で食べさせてもらえるし、風呂は店から一番近い宿の風呂を使わせてもらえるし、本当にこんなにいい働き場所は初めてだ。雑貨屋のおじさんには感謝してもしきれない。
リオが店に出ている間、アンは家で大人しく待っている。リオが糸を巻き付けて作った玉で遊ぶか、ほとんど寝ている。寂しい思いをさせて可哀想だけど、食べ物を扱う店内には置いておけないのだ。その代わり、仕事を終えると、街から近い森に連れていき、思いっきり遊んでやる。日中アンを部屋に閉じ込めて可哀想だとリオは思っているけど、アンはこうして夜に遊ぶだけで、十分満足している様子だった。
ただ一つ、金髪を隠さなければならないことが非常に面倒だった。髪を洗うとどうしても染料が落ちる。その度に染め直さなければならなくて、辟易している。理由はわからないがお尋ね者になっていた隣の州から離れたから、もう染めなくてもいいかなと思ったけど、もしも金髪赤目のお尋ね者がいることが、ここまで知れ渡っていたら困る。リオはせめて髪が傷まないようにと、初日の賃金で、少し高価な染料を買った。
赤い瞳は隠しようがない。でも金髪赤目でなければ目立たない。赤い瞳の人は、数は少ないが珍しいわけでもないからだ。
どこの旅先でも、リオの金髪赤目は褒められた。綺麗で幸せを象徴する色だと褒められていたのに。まさかそれを隠さなければならない日が来るとは。
今夜も小屋に備え付けの簡素な手洗い場で髪を染めながら、深くため息をついた。
店で働き始めて二十日目に、災難に遭う。
明るく見目の良いリオは、瞬く間に人気になり、リオ目的で来る客も増えた。そのおかげで売上が増えたと、リオの賃金も増えた。欲しかった首輪も買った。この調子でできる限り金を貯めようと考えていたのに、たったの三週間で終わってしまう。
この日、昼から閉店まで働く予定だったリオは、いつものようにテーブルからテーブルへと皿を運び、呼ばれた客の元へ行くと、酒を注いだり話し相手をしていた。この店に来る騎士も商売人も、皆いい人だ。中には粗暴な人もいるけど、無体なことはしない。だから安心していた。出生に事情があり、一人で旅をしていたリオは、人懐っこくありながら、常に警戒を怠らなかったのに。この店での待遇が良すぎて油断していた。
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