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ttjpです。
地雷、苦手な方は見ないことを推奨します。
TikTokで懐かしい動画が流れてきたのでそれを参考にしました。気になる方は是非探してみて下さい。
古い、古すぎる映画館にたった一人の男が居た。背の高い、ヒョロガリの男だった。如何にも幸薄そうで、死人と何ら変わりなさそうな男だった。男の他には誰も居らず、映像がただ淡々と流れている。椅子は柔らかいわけでもなく、むしろ硬い。スクリーンは真っ白いはずなのに黄ばんでいて、所々薄汚れている。床には埃がたまっていて、埃くさくて仕様がない。そんな映画館には不釣り合いの電話の音が鳴り響いた。男は特に気にする風も無く電話に出てきた。
「今?映画見てるよ。何処の映画館かって?分かんない」
男の声は能天気で、底抜けに阿呆らしく聞こえてくる。暫く会話をやり取りしていたが、「来なくていいよ」と男が放って電話は終わった。男はまた詰まらなさそうな顔で、頬杖をつきながら映画を見ていた。その数分後に後ろの扉が物凄い音を立てて開いたが、男は一瞥することもなくスクリーン見ていた。次に入ってきた男は幸薄そうな男とは真反対の奇抜な男だった。奇抜な男は足音を立てることも気にせず男の隣に腰を下ろした。暫し映画を呆然と眺めていて、映画は中盤へと入っていった所で唐突に奇抜な男が口を開いた。
「何で俺ら映画見てんのやろうな」
「だから来なくていいって言ったじゃん」
男は軽快に笑ってみせたが、奇抜な男はその笑顔に大変不服そうな顔をして、スクリーンに目を向けた。名前も知らない、聞いたこともない、誰も観たことなさそうな映画。映像が淡々と流れるが、古いのか時折ガサついた映像に差し替わってくる。演出なのか、そもそも手入れされてないからなのか。そんなもの定かではないが、そんなことどうでもよくなる。奇抜な男は一つ大きなため息をつきながら、尚も映画のスクリーンを眺めた。
「馬鹿やなぁ、一人は寂しいやろ?」
「へぇ、珍しく安直な考えじゃん」
「今更難しく考えて何如んねん」
いつの間にか映画は後半に差し掛かっていた。何方の機械にも煩い位に音が流れ続ける。然し何方の男もそれを止めようともせず、気にもとめていない様だった。淡々と流れ行く映像を見て、お供にあるのは男だけだ。不意に男が声を発した。
「この映画はラストがいいんだよ」
その男の目には、映像が映り込んでいた。今頃みんな必死に逃げ回っているのだろう。逃げ切ることなんて不可能なのに、生に手を伸ばしている。
「ttに会えてよかったよ」
突然jpは此方を見た。この崩壊寸前の、誰もが見捨てたはずなのに何故かまだ作動する映画館に入ってから、一度もスクリーンから目を逸らすことは無かった男が、初めてスクリーン目を背けた。その目を見た時、今まで抱いていた恋とか愛とか、そんな薄っぺらいものは消え失せていった。代わりにttはそれに大変愉快そうな笑みを返した。
「きもいわ、ほんまに」
思うところがないわけではない。メンバーと過ごせばいいのにとか、本当は見つけた瞬間連絡を返せばよかったのにとか。でも、最期くらいはこの男にどうしようもなく好意を寄せた男は、我儘を叶えたって許されるだろう。報われない、叶わない、それで構わない。どうせ死ぬ、死ぬ前に映画を見ている。叶ったって、叶わなかったって、代わりはしない。
「世界の終わりに一人は寂しすぎるやろ?」
「…そうかもね」
ラスト5分。いつの間にかスクリーンから目は離れていて、目の前にあるのは顔だった。唇に熱が籠もっている。その熱はやがて全身に巡るだろう。然し拒むことは無い。何方からとも無くくっついた唇が、最期だろう。
この映画のラストを知っているのは、jpだけだ。