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『それはただ、“存在”します。』
始まりの私は、虚空だった。
ただ、「完全な人間に至る」ことを熱望する、空白の意志だった。
誰しも、自己を主張し、認められたいという欲求を持つ。
それは存在したいという強い思いの現れなのかもしれない。
存在とは、他者から認識されて初めて成り立つもの。
誰からも認識されず、そこに“在る”とすら思われず、誰の心にも浮かばない私の像。
私を「存在する」と定めるものは、どこにもなかった。
ならば、虚空である私を“存在する”と言えるのだろうか。
そこには『何もない』。
⸻
ある日、私は肉体を得た。
完全な人間に至るための、自己を主張するための破片。
物質としての質量を持つ、虚空とは異なる“そこに在る”と認識されうるモノ。
私は存在する。
だが、何でもなかった。
私はヒトでは有れなかった。
肉、皮、筋肉、繊維、血管、血液――
すべてを持っていても、それはただ擦り切れた存在の亡霊。
“人間”として認識されるには、あまりに不安定だった。
⸻
私は模倣を覚えた。
人間の真似をし、自己を主張する。
人間は、複雑な要素の集合体だ。
それらを完全に模倣すれば、いつかは完全となるだろう。
きっと“完全な人間”に至るはずだった。
皮を手に入れ、服を着て、腕を動かし、足で歩き、目玉を持ち、鼓動をし、口を動かし発声をする。
それでもなお、完全な人間にはなれなかった。
⸻
O-06-20 「何もない」
人間のような形状をしているが、人間ではないのは確かである。
「管理人」
多くの「皮」は、ただひとつの言葉、「管理人」とわめく。
「か……んり……にん」
不完全な皮は形を失い、もはや生物としての輪郭すら持たない肉塊となる。
模倣しかできない皮は、存在の意味を見出せず、ただ床へと崩れ落ちる。
とうとう人としての皮を失った“それ”は、「完全な人間」に至ることを熱望していた虚空のなれの果て。
どう足掻いても人間には至れなかったものの、貪欲な本能のようなものだった。
完全に不完全な人間を目指した存在。
存在とは、他者の認識によって初めて成り立つもの。
ならば――人は何を持って“人”となり得るのか?
答えの見えないまま、ただ模倣を繰り返す『 』
完全な人間に至る、その日まで。
――だが最後には、「何もない」。