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スキュラに案内されるがまま海底の古代種神殿にたどり着いた。神殿というからには、厳かな雰囲気で迂闊に近づいてはいけない像が出迎える――と思っていた。
だが着いてみたら拍子抜けで、古代人が残した居住跡が広がっていただけだった。空間こそだだっ広いが海からの水が漏れ出しているなど、忘れ去られた場所といっていい。ギルドからの依頼になっている時点で一度は誰かが来ている。それを考えると、特に目新しさは感じられない。
「スキュラ。ここに倉庫のような……いや、宝物庫はあるかな?」
「それでしたら、四本の柱が立っている辺りの通路から奥に突き当たった所に部屋がありますわ!」
「そうか、ありがとう」
広さ的には大したことは無いし迷うことも無い。それなら一人で行って、お目当ての物を探して荷物袋に入れてくればいいだけ。皮肉だが、荷物持ちのスキルがこういう時に役に立つ。
思い出しても、おれは荷物持ちとして長く働いたわけでは無かった。もしおれがいなかったとすれば、勇者たちは違う荷物持ちの人間を連れ歩いたりしていただろうか。思い出したくも無いが、必ずあいつらに思い知らせてやりたい。
「アックさん、どこへ行くんですか? わたしも行きますよ~」
「あぁ、ギルド依頼の物資の調達に」
「それなら、なおさらわたしも一緒に!」
どうするか迷うが、同行者が同じ依頼を受けていれば一人が確保するだけで達成扱いになる。しかしルティもおれも初めてだし、一緒に行ってみるのも悪くないかも。おれのそばを離れないと言っているスキュラも黙ってついて来るだろうし、みんなで行くしか無さそうだ。
彼女たちと一緒に宝物庫に入ろうとすると、うっすらと暗い部屋からガサガサと音を立てて、書物か何かを散らかしていた男の姿があった。
「お、お前は! 荷物持ちのアックじゃねえか!? 何でここにいやがる……。ワイバーンにやられてくたばっちまったんじゃなかったってのか?」
同じ依頼を受けた冒険者がいないとは限らない――そう思っていたがまさかこんな所で出遭うとは。忘れるはずも無い……Sランクパーティーにいた賢者テミドだ。
「あの、アックさん。あの方はどなたですか?」
「アックさまの他にも何かが入っていたのは知っておりましたけれど、つまらなそうな人間に見えましたので放っておいたのですわ」
彼女たちが一緒に来て良かったと考えるべきか、それとも一人で来た方がいらないことに巻き込まれずに済んだと思うべきなのか。周りを見回した感じとスキュラの言い方ではここに来ているのは賢者一人だけらしい。
ギルドの依頼を受けて来たのか、それとも――
「おれが生きていて、何かテミドに不都合なことでも?」
「あぁ? おいおい、テミドさまだろぉ? 何かよく分からねえ魔物と荷物持ちの女を引き連れているようだが、お前ごときが冒険者気取りしてんじゃねえ!!」
態度の悪さと罵声は健在のようだ。むしろ特徴がそれしかないとも言えるが、威圧で片付けようとしているのが見え見えすぎる。賢者テミドの強さはワイバーンの時に見えた魔法だけで、それ以外は態度がデカいだけだ。
ここで言い争いをしても魔法、あるいは何らかの攻撃を仕掛けられるのは目に見えている。勇者と聖女がここに来ていないことを考えれば、この男だけでも痛めつけることは出来そうだ。
そんなことを思っていると、そばにいる彼女たちから指を鳴らすといったやる気のある音が聞こえてくる。
「はぁぁ!! アックさん、今度こそ拳を使っていいんですよね? 何だか唸らせたくて仕方がありません!」
「……あんな野蛮な人間ふぜいはこの神殿に似合いませんわ。貝殻石に混ぜて洞門の壁といたしません?」
ルティはすでに準備万端のようで、今すぐにでもテミドを沈めたいのか微笑みの圧が凄い。鞘に収まって眠っていたはずのフィーサは、鞘から抜いて欲しくて小刻みな音を立てだした。スキュラにいたっては、何らかの魔法を手の平に作り出す動きのアピールをしている。
テミドのはっきりとした強さは分からないが、今はまだおれ一人だけでは優位に運べない。だが彼女たちは強いうえ、すぐにでも吹き飛ばしてくれそう。おれとしてはどうせなら勇者たちをまとめて倒したい思いがある。
ここは冷静になって相手を泳がす。そのうえでおれが生きていることを知らせてもらおう。
手土産に、アレでも当ててみるか。
「ルティ。さっきの精霊結晶の欠片をおれにくれないか?」
「どうぞ!」
「すぐに使うことになって、ごめんな」
「いえいえ~」
属性結晶は属性を封じ込めていたが、精霊結晶の欠片はすでに何らかの精霊が込められている。これをテミドに投げつけてみれば、何の精霊なのかすぐに分かりそうだ。
「ちっ、手間を取らせやがって。おい、荷物持ち! 聞いてんのか?」
「――悪いがおれはもう荷物持ちじゃない。テミドがここで何をしているかも興味は無い。ただ、おれたちの邪魔をしてもらいたくない」
「邪魔はお前の方だろうが! 面倒くせえな、レアな書物なんざ知ったことか!! 死ね、荷物持ち!」
これほど余裕のない賢者も珍しい。
テミドとおれたちはある程度の距離がある。魔法を使う者なら関係なく攻撃を仕掛けられることを踏んで、先制攻撃を仕掛けてきた。
だが――
「これをやるよ、テミド」
「なっ!? 闇精霊……だと!? この野郎! どこでこんなもん――」
精霊結晶の欠片を投げつけ、それがテミドに当たると中から出て来た闇精霊が黒い霧のようなものを展開。闇精霊が攻撃して来ないと思っていたようで、テミドは視界を失う。
「くっ、くそがぁぁっ……!! 見えねえ、見えねえぞ! ふざけた真似しやがって!」
視界を失うと何も出来ないと感じたのか、テミドは手探り状態のまま宝物庫から出て行こうとしている。壁づたいすら怪しい動きだったが、バランスを崩しながらどこかへいなくなったようだ。
「さて、と……物を回収してラクルに戻ろうか、ルティ」
「――は、はいっ!」