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「き、来てしまった」
次の日だった。一面ピンク色のチューリップが咲き誇る彼の屋敷へ足を運んだのは。
「エトワール様、緊張しているのですか?」
「あ、アルバ。ううん、そうじゃなくて……いやあ、何て言うかね」
私の後ろからヒョコリと顔を覗かせたアルバは、私のことを心配そうに見ていた。グランツがいなくなったため、もう一人の護衛であるアルバを連れてきたのだ。彼女の顔を見るのは久しぶりな気がして、グランツと同等の騎士として見てきたのに、久しぶりなんて、相当彼女のことを放置していたんじゃないかと思うぐらいだった。本当にも仕分けない。
彼女に久しぶりに会いに行ったとき、捨てられた子犬のような目を向けられて、どれだけ彼女に構っていなかったか分かった。いや、まず、犬という認識があれなのかも知れないけれど。
そんなアルバは私の後ろで、あたふたしながら私の言葉を待っているようだった。そりゃあ、アルバはアルベドと私がどんな関係か気になるだろうし、仲が悪いと思っているから、守ってくれようとしているのだろう。それは凄くありがたい。
(と言うか、私もアルベドの言葉通り来ちゃってるから、軽い女なんじゃないの!?)
アルベドに、何かあれば屋敷の方に来るように言われた次の日に、アポもなしに来てしまっているのだ。こういうのは段階を踏まないといけないだろうし、いきなり押しかけるのは自分でもどうかと思った。でも、アルベドがいいって言ったから良いことにしようと、きっぱり割り切ることにした。
「それにしても、エトワール様珍しいですね。レイ卿に会いに行くなんて」
「え、ああ……まあ、ちょっと用事が」
用事と言うほど用事は無いけれど。とは言えず、でもそう言わないとアルバに何か言われかねなかったので、そういうことと理由を付けることにした。
「用事ですか!? どんな!?」
「あ、アルバ落ち着いて。ほんと、ちょっとした用事だから」
「では、手紙でよかったのではないでしょうか。エトワール様から会いに行くなんて……エトワール様を歩かせるなんて不敬に当たりますよ。レイ卿から来るべきだと想います」
「あはは……そこまで言わなくても良いんじゃないかなあ、何て」
そういえば、アルバは、そんなことないです。と言って聞かなかった。これが、過激派という奴かと一人で納得しつつ、私は苦笑いするしかなかった。
すると、目の前の正面玄関が開き、見覚えのある人物がこちらへと歩いてくる。
「あ……」
「何だよ。その間抜け面」
「レイ卿! エトワール様に向かって失礼ですよ!」
漆黒のシワのない服に、黄金の装飾が施された服に身を包み、髪もいつもとは違う結び方をしているアルベドに見惚れていたなんて絶対に言わないけれど。その神々しさというか、いつもとは違う姿に、息をのんだのは確かだった。
紅蓮の髪をポニーテールにしているのがアルベド、と言うイメージがあったため、結ぶ一がしたで、なにげに髪の毛が編み込まれている様子が一層彼の妖美さを引き立てた。そんなのも似合うんだと、新たな一面を見た気がする。
横で、アルバがギャーギャー何か言っていたが、そんなこと気にならないぐらいには、アルベドの姿に見惚れていたのだ。
「んだよ、何か言えよ」
「あ、あーえっと。久しぶり」
「久しぶりなあ……」
値踏みするような目で見られた後、含みのある笑みを向けられ、私は一瞬ドキッとした。それは格好いい、という感情からきたものではなくて「昨日あったのに、何が久しぶりなんだ」と言ってくるような目で、私は頬を引きつらせた。
分かっていたけれど、久しぶりって言ってしまうものだし、一日ぶりでも久しぶりと言ってしまうだろう。わざわざ、アルベドが昨日もあったのにつれないなあ、何て言うような奴じゃない……とは言い切れないけれど。
「久しぶり、アルベド」
「ああ、久しぶりだな。エトワール」
圧制の意味で笑って言ってやれば、アルベドもにこりと返してくれたので、ここは丸く収まった。終始、アルバに不思議そうに見られたが、そんなことは気にしてはいけない。
(余計なこと言わないでよ。アルベド)
そんな私の心中を察したのか、アルベドは再度微笑んだ。
「そういや、お前さっき俺に見惚れてたのか?」
「はあ!? はあ!? 何言ってんの、意味分かんない。自惚れないでよ」
「じゃあ、何でさっきあんなかたまってたんだよ。それしか考えられねえし」
と、アルベドは、面白い話題がないかと探した結果か、そんなことを言い出した。あまりにもストレートに言われたため、返答に困って顔にも言葉にも「そうでした」と貼り付けられているような言葉を返してしまった。
アルベドは満足そうに笑っており、二や怪我止らないようだった。その黒い手袋をした手で覆っていても分かるぐらいに。
(甘い顔するの!? そんな顔するの!?)
珍しすぎるのオンパレード過ぎる。と、私の頭もパニックになっていた。
アルバは「そんなわけないじゃないですか」、「レイ卿は確かに顔は良いですけど、エトワール様には釣り合いません」と誉めているのか貶しているのか分からない言葉をかけていた。フォローになっているのかなっていないのか微妙で、私は何も言わずにいた。
それを終始アルベドは面白可笑しく聞いていて、さっきの事、本気にしていたらどうしようと思うほどだった。
(ほんと、呆れる。子供みたい)
子供みたいな反応をしてしまった自分が言えることじゃないけれど、アルベドは本当に毎回会うたび、会うたびからかってくるなあと思った。それが悪いことであり、もうなれてしまったから、アルベドらしいと言えばらしいんだけど。
「違うわよ。珍しい髪がたしていたから、気になっただけ」
「ふーん、だから見惚れてたと」
「だから、違うっていってんじゃん!耳詰まってんの?」
「そういう風には見えねえけどな。見惚れてましたって言った方が楽になるんじゃねえか?」
「何よ、その変な尋問。違うって言ってるじゃない。しつこいなあ!」
危うく手が出そうになったが、アルベドの顔を見ていると、どうにも握った拳を光らざる終えなくなった。顔だけは良いんだよなあと毎回思う。
私はそんなことを思いながら、アルベドの後についていった。揺れる紅蓮を見ていると、つい引っ張りたくなってしまったが、そんなことすれば怒られるだろうなって、グッと堪えた。
「つか、何できたんだよ」
「アンタがいつでもきていいっていったからだじゃない。というか、聞きたいことがあったの」
「聞きたいことねえ」
「あんたが味方だっていったから、ヘウンデウン教の情報を知りたいと思ったの」
「ヘウンデウン教……ねえ。まあ、いいけど。何でお前が聞きに来るんだよ」
「私だって、誰かの役に立ちたいから。一応聖女だし、戦いに備えないとって言う意識はある訳よ」
「何で、そんな偉そうに言うんだよ。後、一応ってお前は聖女だろうが」
と、アルベドは言って前を向いた。
前々では、私は偽物聖女だの、散々に言われていたけれど、トワイライトがああなっちゃってからは、私が聖女だと助けてくれと言ってくる人が増えた。今頃手のひら返したって何にもならないのに、よくもまあそんなことを言えると呆れてしまう。
そんな人達の期待に応えたいからじゃない。ただ、前戦で戦っている人達の役に立ちたいと思ったからだ。そのために言い方は悪いけど、利用できるものは全て利用すると。ただそれだけ。
アルバを連れてくる際にもそう伝えたが、アルバはイマイチ理解していないようだった。私も、そこまで 深く考えているわけじゃないけれど、出来ることはしていこうと思う。アルバが私を理解してくれなかったのは、私を守るべき対象だと思っているからだろう。そんな表だって戦う必要は無い。そう言ってくれているに違いない。
それは嬉しいけれど、今はそう言っていられないのが事実なのだ。
「お前が頑張るのは否定しねえけど、あんま無理すんなよ」
「アルベドがそれを言う?」
「俺がって、何で」
「アルベドだって、無茶しないでって言いたいの。私は、心配してる」
「ふーん」
アルベドはそう気のない返事をして、私達を応接室に通した。