自分が一方的に片想いをしている。そう気付いたのは先日。
「……あ、ミスった」
「いま完全に、ね」
「今鼻で笑ったでしょ」
「笑ってないよ」
「笑った絶対」
昼間のなんでも出来そうなノリで会ってしまった矢先、会話のテーマも無く適当に元貴が聞き馴染みの有るメロディーを口ずさんでいたから一緒に片手のギターでセッションしてみて。
「案外暇なもんだね久しぶりの休日は」
「多忙過ぎんのやんなっちゃうけどさ、暇過ぎんのも嫌。仕事ガンガン詰めたくなる」
「元貴に限ってそれは駄目」
「自分にストイックなの知らない?僕が」
「んなの知ってるわ、知らなきゃこうして隣にずーっと居座ってらんないし」
「まあね」
確かにストイックだとは思う、思うけど多忙過ぎるが故に身体を壊してしまうのは仕事が困るんじゃなくて俺が困る。
“隣にずっと居座ってられない”。
唯でさえ引っ込み思案、いいや不思議な人間なのだから目を離したら直ぐ別の所へと旅へ出そうだし。嫌な事を無理矢理させたら当たり前の様に離れて行きそうだし。特に元貴の場合は”自分”って芯がガッチリしてる気もするから
ぼーっととめどなく何かを考えていればふとして彼の横顔を見詰める。
どんなに黒かろうが別の人とはまた一味違う瞳
幼い様な顔に見合わない長い、その綺麗な睫毛
少し耳に掛かるくらいの睫毛と同じ位長い横髪
ああ、全てが綺麗。
元貴が紡ぐ言葉も、声も、熱心な性格も
全部、全部
「…き。」
「ん?」
「すき」
「は、…っ………は?…」
「すきなの元貴が創る世界、ぜんぶぜんぶ」
「……うん。うん、」
本当に何言ってんだ俺、何言ってんだ。
あれだけ言い聞かせて来たはず、男同士なんて気持ち悪いし男の俺が好きになった標的は元貴だから駄目だって。潔くこの募った恋心は諦めようって。元貴はあくまで幼馴染、で友達で親友で……バンドメンバーなのに、なのになのに
嫌われる俺嫌われる絶対嫌われちゃうやだ俺元貴に嫌われたくない元貴が全てなのに嫌われたら生きてけない怖い目線が怖いごめんごめんなさい
良く考えれば相槌を打った元貴はいつもよりぎこちない対応だった。照れているのか、驚いているのか、嫌がっているのか、状況が呑み込めていないのか分からない。
でも少し期待をしていた自分もいたんだと思う。やっと言えた開放感と、言ってしまった罪悪感できっと感情なんて狂ってしまったんだ。
その時の元貴の表情は忘れない、いや忘れらんない
目線は少し下に落ちていて、何かを知ったような濁った笑いを浮かべて。こう、一言呟いた
「もと、…き、?ごめん、ほんとにごめ」
「……ありがとう。僕も勿論若井の事、好き、だよ。
一生懸命ギターを掻き鳴らしてくれる所とか
どんな難しいメロディーだろうが難無く期待に応えてくれる所だとか
……あ、と…俺の事よく分かってる…所。
若井の事はさ、
“良き理解者”
だと俺は思ってるよ」
「いや、ほんとに変な意味じゃなくて。その…あの、お返事はしっかりした方がいいかな……的な?、ね。うん。思ってたのと違かったらごめん、若井のも”まさか”変な意味じゃないだろうしさ」
俺にとって元貴は本気で初めて好きだと感じて、好いている存在なのに。
元貴にとって俺は、”良き理解者”であって”特別”では無いらしい。
後から出てきたそのフォローもかなり胸に刺さった。一定のトーンで話しているはずなのに”まさか”って言葉、たったの三文字が強調されて、頭の中でリピートが掛かる。
そっかあ、俺ってその程度だったんだ
自覚する内に目尻に熱い何かが登ってきて、その何かが強く目元に劈いて。これはやばい、早く抑えないと何か言わないと
「あは、そうだよ、もー変な意味な訳無いじゃないですか大森さん。俺も勿論……」
「勿論?」
言葉が喉に突っかえる、中々一言が言い出せない
自分の気持ちに嘘は付きたくないけど
「”友達”として好きだよ」
「ふは、僕達友達上の両想いじゃんね」
「なんだそれ、両想いって言いませーん」
あーあ、言っちゃった。友達として好きな訳無いのに。ちゃんと素も知った上での元貴として、いや一人の人間として好き、なのになあ。ここで強く出れない俺は何だかみっともなくて情けない。ここでその両想いは狡い物だと思う。友達上としての両想いで嬉しいはずなのに、素直に喜べない俺はきっと末期。もっと求めちゃう、そこが俺の悪い所。
「ちょ…俺お腹空いたから帰るわ」
「僕の家で食べてけばいいのに」
「それは元貴に悪いかなって…ねえ?」
「ちぇ、変なやつ。まーいいけどさ。あ、…んじゃあコレ持ってって。来てくれたのと付き合ってくれたお礼ね、ほら帰った帰った」
困惑している彼に”またね”なんていつもより低いオフの声で言われてしまえば申し訳なさと裏腹、勝手にフラれて諦めたはずの恋心がドクンドクンと脈を打つ。手に直接渡されたその何かにじんわりと熱が伝わる。外は昼下がり真っ只中なのに、自分の瞳が映す昼下がりは全て淡い色に思えた。
ここで気付いたんだ、俺は元貴が居なきゃ普段生きている世界にも何も彩りがないって。
今まで嫌になる程ハッキリ見えた世界も、視野が狭くなって今起きた事しか受け止められなくて先は見えないんだって。
そう、ふと手の中に握ってある無理矢理入れられた梱包をしてあるものを思い出した。手を開けば、そこには一つ一つ星型をした金平糖。その金平糖だけは、ぼやけて見えた世界と違ってはっきり色付いて見える。赤、青、黄色
何なんだ、あの元貴ってやつは。もう俺に諦めさせてくれよ、もう気がないって分かってんのに。そう言い聞かせた瞬間、目からは熱い何かが沸騰するように溢れた事を覚えてる。
「はは、余計に甘く感じる」
貰って嬉しい、嬉しいし何の前触れもなく唐突に変な事言って困惑させたのにくれた彼は優しい。優しいんだけど、その優しさで甘く感じていた金平糖も苦くて、その行為こそ痛くて苦しい物。
「ねえ元貴、俺に諦めろって言って」
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Ps.
どんなお菓子にでもある渡す意味の言葉。
ここまで🎸が苦しんでいる理由は金平糖の意味にあります。果たしてその意味をわかって🎤はあげたのか、将又分からずあげたのか。
気になったら調べてみて!!!
コメント
2件
最高です😭😭この話を読み終わってすぐ金平糖調べさせてもらいました👍🏻大森さんは意味を知ってて渡していたとしても若井さんからしたら失恋していると思い込んでるって考えると胸がちくちくしてきます、、😿
コメント失礼します🙇🏻♀️ 凄く好みの小説だったのでついついコメントしたくなってしまいました🙌🏻言い回しがとても綺麗で読んでいて情景が頭に浮かびました!すごく切ない...。金平糖の意味は小説を読んでから調べて初めて知ったのですが、私は意味を知らないで渡した説を押したいです🤭