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五楼京華の一撃を受けて、地面に叩きつけられた下柳則夫。
激しい土埃が辺りを覆い尽くす。
それを好機と見る者がいた。
「ぐっ、はぁっ……。い、いけませんねぇ。これは撤退を……。ううっ!?」
まだ辛うじて動ける体力と、撤退のための煌気を残していたのは流石である。
が、ダメージが抜けきらぬ中、いきなりマウントポジションを取って来た相手が誰なのか、下柳には分からない。
「まだですよ? うちの南雲さんを酷い目に遭わせたお勘定が済んでませんから」
「だ、誰だ!? そこをどけっ!! ぐっ……『脂肪遊戯』!」
そのシルエットは下柳の放った脂肪煌気弾をペシッと払いのける。
一体誰なのだろうか。
まったく分からない。
「ふぅぅぅんっ!」
「げひぃっ!? な、ボクの煌気膜を突き破って来た!?」
「ふぅぅぅぅぅんっ!!」
「だべっ!? いっぺしっ!? あたぱ!?」
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!!」
「だ、だれ!? や、やべっ! やべで!! はべへぶらはい!!」
敗北者相手に馬乗りになってビンタし続ける男。
逆神六駆である。
「あっ! まずい! そろそろ視界が! それでは下柳さん! ごきげんよう!!」
「ひ、ひぃ!? な、なんだったんですかねぇ!? いや、今はそれよりも逃げねば!!」
土煙が晴れると、そこに六駆の姿はなく、代わりに五楼が立っていた。
「おや、どうした下柳。なにやら先ほどよりもダメージを受けていないか?」
「ぎぃぃっ! ご自分でやったくせに、白々しいですねぇ!! 五楼京華ぁ!!」
「おい。言っておくが私じゃないぞ?」
「まだ白を切るのですかねぇ! それがあなたたち協会のやり方ですかねぇ!!」
五楼京華、いわれなき誹謗中傷を受ける。
なお、六駆はちゃっかり解説席に戻っていた。
「日引さん、どうぞ。決着がついたみたいですよ!」
『探索員の皆様! ご覧ください! 悪魔のごとき所業を繰り返し、我らの家である協会本部を襲撃したアトミルカ! その首謀者である下柳則夫が今ぁ! 五楼上級監察官によって倒されましたぁ!!』
『一撃で仕留めずに、その後でじわじわなぶる辺り、さすがだなぁ!!』
「逆神、貴様……! くっ。借りがある以上強く言えん!! だから逆神家は嫌いだ!!」
南雲修一の仇を取った六駆は、満足そうにその全てを五楼のせいにした。
「……まだ。今なら逃げられますねぇ。全てを放棄すればですが!」
一瞬の隙を突いた、下柳の判断は正しかった。
仲間の身柄を放棄し、監察官室に保管していた膨大な情報も諦めることになるが、このタイミングならばまだ捕縛されずに済む。
そう悟った下柳の行動は早かった。
「……そりゃあ! 『脂肪粉塵』!! 【稀有転移黒石】、発動!!」
「なに!? 待て、貴様!!」
下柳則夫は隠し持っていた【稀有転移黒石】を使い、どこかのダンジョンへと飛び去った。
してやられたと言う顔をしていた五楼だったが、その表情はすぐに消え去る。
「逆神。これで問題なかったか?」
「はいはい! ちょっと演技が下手すぎてアレかなと思いましたけど! 下柳さんも必死だったから気付かなかったみたいですね!! 良かった!」
「ぐぬぬっ。いちいち腹の立つ言い方だな。貴様こそ、手抜かりはなかろうな?」
「もちろんですよ。さっき下柳さんをボコった時にバッチリ付けときました! 『基点』を体中に! だいたい15か所くらい作ったので、まああちらさんが気付けても5個くらいじゃないですかね?」
「そうか。ならば、こちらの態勢を立て直せばすぐに反撃できる訳だな」
「はい! 僕の『門』が下柳さんから生えますよ! 世界中どこにいようと! 仮にそこが異世界だろうと!!」
「……改めて逆神流の恐ろしさを感じる。貴様が味方で助かった」
「僕も南雲さんにはお世話になってますからね! このくらい何でもないですよ!!」
六駆と五楼はあらかじめ下柳を逃がす方向で話を詰めていた。
アトミルカの序列第8位ともなれば、少なく見積もっても関連施設に落ち延びるだろう。
上手くいけば本拠地の場所も割れるかもしれない。
17歳と言う年齢にあまりにもミスマッチな狡猾さと、普通に素手で下柳をボコボコにできる胆力に五楼はちょっと引いていた。
彼女が異世界転生周回者について知るのは、もう少し後の話である。
「さあ! 反撃の前に治療ですよ! 南雲さんももう少しで復活しますし! 僕、ダンジョンに残して来た仲間とイギリス人を回収して来ますね! 『門』! ふぅぅんっ!!」
そして六駆は生えて来た門の中に消えて行った。
五楼は空を見上げる。
無性に南雲のコーヒーが飲みたくなったのは、逆神六駆と言うヤベー人間について語れる同士を欲したからに他ならなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
15分ほどで六駆が再び『門』から出て来た。
「はい! 五楼さん、お土産です!!」
ポイと無造作に地面に投げ捨てたのは、アトミルカの09と08。
またの名をジェパートとマイクだった。
「こいつらか、アトミルカに籍を移していた元探索員と言うのは。ご苦労だった。これは非常に大きな手柄だ。貴様が思っているよりもずっとな」
「お礼はお金でお願いします! じゃあ、僕は怪我人の回復に参加して来ます! 莉子! 後は五楼さんと適当に話しといてね!!」
『門』から出て来たばかりの莉子は「分かったよぉ!」と返事をする。
彼女はチーム莉子のメンバーに要救助者に対応するよう指示を出し、五楼に倭隈ダンジョンでの顛末を報告した。
「……つまり、このイギリス人の面汚しどもを逆神が1人で片づけたのだな? なるほど、0番台か。こいつらが09と08だとすれば、01までの存在も考えなければならんか」
「はい。六駆くんが言ってました! 多分、0番台は参加した順に数字を付けただけじゃないかって!」
「なるほど。面白い考察だ。その件も加味して報告書を出してくれるか?」
「はーい! 六駆くんの事は上手く誤魔化したヤツですね!!」
「……手慣れているな?」
「南雲さんと一緒にいつも作ってますから! じゃあ、わたしも回復担当に回ります! 失礼しますっ!!」
五楼は『ソメイヨシノ』を納刀して、「南雲、すごいな……」とため息をついた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「逆神くん、君の『気功風』は素晴らしいスキルでげっふ! それほどまでに、ごふっ! 広範囲の回復力場をがはっ! 構築できるなんてげはぁっ!!」
「和泉さんの治癒スキルの方が凄いですよ! そんなに多種多様なバリエーションが使えるなんて! 僕、だいたいこれ1種類でやってますから! 尊敬だなぁ!!」
六駆と和泉の治療班は大活躍を見せていた。
軽傷から重傷に満たない者は六駆の広域展開された『気功風』に入れておけばそのうち治る。
重傷者は和泉の治癒スキルで回復する。
その過程で彼が吐血するので、ついでに六駆が回復させる。
探索員協会屈指の回復システムが完成していた。
その他、莉子をはじめとした回復スキル持ちも各所で働く。
雷門、楠木両監察官も傷を負ったにも関わらず治療する側に回ったのは流石であった。
本部建物からは久坂がやって来て、道すがら木原監察官も回収した事で芽衣がとても嫌な顔をする。
速やかに福田がドーナツを差し入れたので、事なきを得た。
南雲の回復には思ったよりも時間がかかっていた。
当初は15分程度で治るだろうと六駆は見ていたが、もう既に『時間超越陣』の中に入って40分が経っている。
それだけ重傷だったと言う事であり、和泉の治癒スキルによる初期治療がなければ命を落としていた可能性もあったと六駆は思った。
「……うっ」
「南雲さん!!」
協会本部襲撃事件。
最大の功労者の1人が多くの者に見守られる中、目を覚まそうとしていた。
コメント
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第267話読み終わったよ~~!!😭💕✨ 六駆くんが下柳に馬乗りビンタしまくって「ふぅんっ!!」連打してるところ、笑いとカタルシスがやばかったwwwしかもそれを全部五楼さんのせいにして逃げるのずるすぎるけど好き!!😇💖 「逃がす作戦」だったってオチもニクいね~!しかもマーキング15箇所も付けてるとか流石すぎる…!!南雲さんの仇討ち+情報源確保の一手、頭良すぎて痺れたわ…🥺🔥 それにしても南雲さん、40分も治療かかってたの心配だったけど無事目覚めてホッとしたよ…!次の展開楽しみすぎるから早く続き読みたい!!!⋆♡