赤嶺さんと2人図書室に入り、返却された本を手分けして本棚に戻したのち、レジに並んで座った。
レジには基本的に人が来ることは少なく、暇なので本を読んでいることが多いが、今回の当番は紅来が隣で、本を読んでも内容が入ってこないため、なるべくいらんことを考えないように、無心で居るようにした。
「なにぼーっとしてんの」
横から話しかけられた。授業中とは違って、いつ話しかけられても大丈夫なように準備していたので、「暇だしねー」と上手く返せることが出来た。言葉のキャッチボール成功。
「暇ならさ、なんか話そーよ」
「いいけど」
「じゃあ、質問コーナー!いぇーい!」
そういって彼女は笑顔で拍手をしながら手を叩いた。図書室なので、声量こそ小さめだったものの、盛り上げようとしているのが伝わった。ノリが合コンみたいな気がしなくもないが、紅来が俺の事を恋愛対象として見ているわけがないので、違うのだろう。盛り上げようとしてくれているので、俺は頑張ってそのテンションについて行くことにした。
「い、いえーい」
「質問でーす。休日は何してるんですかー」
「んー」
休日は、色んなことをやっているのだが、その中でも1番無難な読書を選んでおいた。図書室だし。
「いっつも本読んでるもんねー」
「学校だとやることが全然ないからね。そういえば赤嶺さんの好きな人も読書が好きなんだよね。会って話してみたいなー」
「え!?私好きな人が読書好きなんて言ったっけ!?」
「教室で言ってたじゃん。いっつも読書してるって」
返事が無かったので、隣を見ると、耳まで顔を真っ赤にした紅来がいた。熱でもあるのだろうか。話しかけようとするも、そのまま俯いてしまう。
急に言葉のキャッチボールが途絶えてしまい、質問コーナーは終了した。実に短い質問コーナーだった。
それから5分程無言の時間が続いた。俺からなにか話を振ろうとおもったが、何を話せばいいのか分からなかったので、無言でいた。いつだって、会話のキャッチボールのボールは紅来が持っているのだ。我ながら情けない。
「ねぇ、勝負しようよ」
気を取り直したのか、紅来が声をかけてきた。
「いいよ」
「じゃあ、負けた方は罰ゲームで、相手の言うことをなんでもひとつきく!」
いま、なんでもと、そういったのか!?
「あ、えっちなのはなしね。常識の範囲内でね。」
「アッハイ」
ですよね、知ってましたよ。まぁ別に俺は赤嶺さんのことそんな目で見てないけどね……
「じゃあなにやるー?」
「なんでもいいよ」
「じゃあ、相手のこと先に笑わせた方が勝ちゲーム!!」
「いいね」
これはもう勝ち確だ。普段からお笑い芸人のYouTubeを見ているので、相手を笑わせるのには自信があった。
「私が先行だとすぐ終わっちゃうから、先行は六車くんに譲ってあげるよ」
ここで勝ってしまうと、赤嶺さんの芸は見れなくなってしまうが仕方ない。本気で行かせてもらう。
どうやって笑わせに来るのだろうと、赤嶺さんは興味津々だった。にこにこしている顔を爆笑に変えてやろう。椅子から立ち上がり、構えた。
「左回転!!!」
赤嶺さんのにこにこしていた顔が、スンッって真顔になった。どうやら滑ったようだ。俺は同じ過ちは繰り返さない。右回転はやめておいた。
席に座り、赤嶺さんを見ると、まだ真顔だった。そんなにつまらなかったかね。
「じゃあ次私ね」
「うぃ」
絶対に笑わないようにしなければ。
「ふ、布団が、ふっとんだーアハハ」
まったく面白くなかった。思わず顔がスンッってなる。が、紅来が大きな瞳をうるうるさせながらこっちを見つめてくる。まるで、笑って!お願いだから笑って!と懇願しているようだった。
上目遣いでこちらを見つめられると、俺にはどうしようもなく、圧に負けてしまった。
「は、ははは……」
「やったー!!勝ったー!!」
そういって嬉しそうにぴょんぴょんする紅来を見ていると、負けてよかったなとおもってしまう。
「じゃあ、罰ゲームの内容だけど、」
「え?」
「なんでもひとつ言うことを聞くやつ」
「あ」
忘れていた。あまりにも紅来のギャグがつまらなさすぎて、頭に残っていなかった。これ、けっこうまずいんじゃ?なんでもってやばいだろ。どんなお願いされても断れないんだぞ。
「じゃあさ……」
「うん……」
ゴクリ
「その、連絡先教えてよ」
「え?」
「ほら!LINEとかやってるでしょ!?」
「やってるけど……それが、お願い?」
「う、うん、ほら!早く繋げようよ!」
「う、うん……」
そうして2人は連絡先を交換した。
「じ、じゃあもう下校時間だから、私先に帰るね、また明日」
そう言うと紅来は鞄を掴んで、ぴゅうと帰ってしまった。
「じゃあね……」
風太が返事をした時には、彼女はもう見えなくなっていた。
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