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#nmmn注意
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紫桜。@低浮
【小さな相棒】
episode4
休日。
分校は静かだった。
授業の無い校舎は、いつもより少し広く感じる。
そんな中で、校庭の隅。
「……いいなぁ。」
ぽつりと、らんが呟いた。
視線の先には――
なつとつなまる。
こさめとここさめ。
そして、少し離れたところにいる、いるまといるべあ。
木陰で仮眠をしている、すちとすちもす。
それぞれが、それぞれの距離で並んでいる。
「ほんまにね。」
隣で、みことも頷いた。
みことの目は、特にきつね――ではなく、つなまるに向いている。
「なんかさ。」
らんが腕を組む。
「最近、みんな持ってるよね。」
「相棒、ってやつやろ?」
「そうそれ。」
少し考えてから、らんは続ける。
「……俺らも欲しくない?」
一瞬の沈黙。
そして。
「欲しい。」
みことは即答だった。
「よし、決まり。」
らんも頷く。
「じゃあ、行くか。」
「どこに?」
「ペットショップ。」
その言葉に、みことの目がぱっと輝いた。
「ええやんそれ!」
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町の外れにある、小さなペットショップ。
ガラス張りの扉の向こうに、いくつもの小さな命が並んでいる。
「うわぁ……。」
中に入った瞬間、らんが声を漏らした。
「めっちゃいる……。」
「ほんまやな。」
みことも、少し圧倒されたように呟く。
犬、猫、うさぎ、小鳥、魚。
それぞれのスペースに分かれていて、どこも賑やかだ。
「とりあえず見て回ろ。」
「せやな!」
二人は並んで歩き出した。
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「小鳥可愛い〜!」
らんがケージを覗き込む。
小さな体でぴょんぴょん跳ねる鳥たち。
色も様々で、見ていて飽きない。
「確かに可愛い!」
みことも頷く。
「でもなんか……違うかも。 」
「分かる。」
らんも同意する。
可愛い。
でも、“これだ”という感じではない。
次へ進む。
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魚のコーナー。
水槽の中を、ゆらゆらと泳ぐ色とりどりの魚たち。
「……魚は……うーん。」
みことが首を傾げる。
「ここさめちゃんが特殊なだけなんよね……?」
「まぁ、あれは例外でしょ。」
らんは苦笑する。
あんなサメ、普通は居ない。
そもそも陸を歩かない。
「やっぱ違うなぁ。」
みことは名残惜しそうに視線を離した。
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そして。
犬のコーナー。
「……。」
みことの足が、ぴたりと止まった。
視線が、一点に固定される。
「……みこと?」
らんが声をかけるが、反応がない。
みことは、じっと見ていた。
ガラスの向こう。
ひとつのスペース。
そこに居たのは――
金色の毛並みの、小さな犬。
丸くなって、すやすやと眠っている。
やわらかそうな毛が、光を受けてほんのりと輝いている。
「……。」
胸の奥が、少しだけ強くなる。
理由は分からない。
でも――
「……これだ。」
小さく呟く。
「俺のパートナー。」
気づいたら、そう思っていた。
「か、かわいい……!」
ガラスに近づく。
その気配に気づいたのか。
犬の耳がぴくっと動いた。
ゆっくりと目を開ける。
そして――
みことを見る。
じっと。
まっすぐに。
「……。」
数秒の沈黙。
次の瞬間。
ぱたん、と体を倒して――
お腹を見せた。
「……っ。」
みことの心臓が跳ねる。
警戒も、恐れもない。
ただ、無防備に甘えてくるその姿。
「……あかん。」
思わず顔を覆う。
「これは……あかん……。」
完全に撃ち抜かれていた。
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一方、その頃。
らんは、うさぎのコーナーにいた。
「うさぎもいいよね……。」
小さな体。長い耳。
ぴょこぴょこと動く様子が愛らしい。
いくつか見て回る。
白いの、灰色の、模様のあるやつ。
「……でも。」
首を傾げる。
どれも可愛い。
けれど、決め手がない。
「なんか……違うんだよね。」
そう呟いた、その時。
視界の端に、ひとつの色が映った。
ピンク。
「……ん?」
そちらを見る。
そこにいたのは――
淡いピンク色の、うさぎ。
珍しい色。
そして、なにより。
目。
きらきらとした、強い光を宿している。
「……なに、こいつ。」
自然と、近づく。
その瞬間。
うさぎの耳がぴくりと動いた。
そして――
『がるるるっ。』
低く、威嚇した。
「は!?」
らんは思わず一歩引く。
「なんだこいつ……!」
見た目は完全にうさぎ。
でも、その雰囲気はまるで猛獣だ。
目も、さっきまでの可愛さとは違う鋭さを帯びている。
「……。」
でも。
目が離せなかった。
「……撫でてみてぇ。」
ぽつりと本音が漏れる。
少しだけ迷って。
ゆっくりと、手を伸ばす。
「……。」
ぴたり、と触れる。
その瞬間。
空気が変わった。
威嚇していたはずのうさぎが――
くてん、と力を抜いた。
「……は?」
さっきの威圧感はどこへやら。
きゅるん、とした目で、らんを見上げる。
そして、すり、と手に頬を乗せた。
「……なんだこいつ……。」
思わずもう一度言う。
でも、さっきとは意味が違った。
「……可愛すぎでしょ。」
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しばらくして。
二人は、それぞれ小さな命を抱えていた。
「決まったね。」
らんが言う。
「せやな。」
みことも頷く。
腕の中で、犬はすやすやと眠っている。
うさぎは、らんの腕に収まりながらも、どこか誇らしげに見えた。
「名前どうしよっかー……。」
らんが呟く。
その横で。
「俺はもう決めたで!」
みことが、ぱっと顔を上げた。
「早くない?」
「決めてたからね。」
どこか誇らしげに胸を張る。
「みこりん!」
「……みこりん?」
「そう!なんとなく出てきた名前なんやけど、俺のみことの“みこ”も入っとるし! 」
にかっと笑う。
「俺って分かるやろ!」
「……まぁ、分かるかな。」
らんは苦笑する。
言われてみれば。
なつ、こさめ、いるま、すち。
みんな、どこか名前が繋がっている。
偶然か、そうじゃないのかはわからないけど。
「……じゃあ俺も。」
ぽつりと呟く。
「うさらん、にしようかな。」
「お、いいやん!」
みことが嬉しそうに頷く。
「うさぎとらんらんって感じやな!」
「まぁ、単純だけどね。」
そう言いながらも、少しだけ満足気だった。
腕の中のうさぎ――うさらんが、ぴくりと耳を動かす。
まるで、その名前を受け入れたみたいに。
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帰り道。
二人は、並んで歩いていた。
それぞれの腕の中に、小さな温もり。
「……なんかさ。」
らんがぽつりと言う。
「やっと、って感じするね。」
「わかる。」
みことも頷く。
「これで、みんなと一緒やな。」
その言葉に、らんは少しだけ笑った。
「うん。」
短く、でも確かに答える。
空は穏やかに晴れていた。
風も柔らかい。
その中を。
新しく出来た、二つの“相棒”と一緒に――
二人は、ゆっくりと歩いていった。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝♡40
コメント
2件
スゥゥゥゥ大好きー!!!!!!
やっぱり好きです(大声)