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クロージングかけていいですか？

第4話 - 第4話

2025年09月12日

#創作BL

#年下攻め

#年下×年上

#社会人

#オリジナル

黒亜

「藤沢！昼飯一緒に行かないか……？」

「…………」

──最近どうも、隣の先輩に懐かれているような気がする。

素っ気なく「むずかしいっすね」と返せば、隣の先輩…江島さんはガーン！と効果音が聞こえそうなほど肩を落とし、そのままとぼとぼオフィスを出ていった。

…ていうか、あの人いつも弁当じゃなかったっけ？

首を傾げながら財布に手を伸ばし、俺も外に出ようと立ち上がったときだった。

「藤沢さん！よければお昼ご一緒しませんか？」

…デジャヴ。

なぜか身をくねらせながら見上げてくる新卒社員の姿に、俺は心の中でため息を吐いた。

とはいえ顔にはいつも通りの笑顔を貼り付けて、俺はやんわりと答える。

「ごめんね。ランチはひとりでとりたいんだ」

こういうとき、女の子には優しく断らなければいけないのが面倒だ。

なぜならひとたび敵認定されれば彼女らは徒党を組んで自らを傷つけた者を排除しにかかるから。

もちろん全員がそうだとは思わないけど、過去の経験から防衛戦を張るに越したことない。

どこかの先輩に投げた雑な返事とは雲泥の差の反応に、女子社員はぽっと頬を染めて「そ、そうですよね！すみません、気が利かず……！」とそそくさと退散した。

そして先ほどから背中に刺さる熱視線に目を向けると、今年の新卒がこちらを見ながら「キャーッ！」と小声で盛り上がっているのが見えた。

…いや俺はどこぞのアイドルだ。

内心でそんなツッコミを入れつつ、俺は営業スマイルをひとつ投げて足を返した。

（ア゛ァ゛————クッッソ面倒………ッ！！）

——ところで少し話をしよう。

どこにでもいるようなある男についての話。

その男はそれこそどこにでもあるような中流階級の平凡な両親から3300gと少しだけ大きめに生まれた。

そして心優しい両親の元すくすく育てられたその男は成長するにつれ、自分が周りより少しだけ秀でていることに気づいた。

勉強すれば学年主席。

運動させればサッカー部エース。

人付き合いでも気づけばいつも輪の中心。

何をやってもだいたい上手くいってしまうその男は生まれながらにしてあらゆるものを持っていた。

だからこそ、男は冷めていた。

いくら周りが「すごい」と持て囃しても、「そんなあなたが好き」と愛を伝えられても。

男にとってはそれが当たり前だったから。

尊敬されても好意を寄せられても、心のどこかで「これが普通なのに、なにがそんなにすごいんだろう」と思ってしまう。

そして男の非凡さと周りの過剰な評価は社会人というステージに移ろうとも何ひとつ変わらなかった。

普通で退屈で、どこか空虚な毎日。

——そんな、どこにでもいるような藤沢一也（おれ）の話。

（っつか昼飯の時くらいひとりにさせろっつーの）

イライラを抱えたまま真夏のオフィス街を歩く。

溢れる人の波と背中に貼りつくシャツの感触に苛立ちは増すばかりだ。

そしてようやく目当てのカフェに着いたものの、入り口にはすでに数人のサラリーマンで列が作られていた。

都内の昼のオフィス街なんてどこ行っても人ばかりだ。

それでも今日はここのパスタの気分だったんだけど…

列の長さと腕時計の針を交互に見た俺は内心でひとつため息をついた。

リベンジだな……と隣の店に入ろうとした瞬間、カフェの窓際に見知った顔を見つける。

（江島さん…と三浦さん）

いつものおどおど顔はどうしたとばかりににこにこ顔で向かいに座る三浦さんに何やら話しかける江島の姿に。

俺はさきほどとは違う種類の苛立ちが胸の奥から湧き上がるのを感じた。

結局、三浦さんと飯行ってんのかよ！！

頭の中に「藤沢、飯行こ……？」とおどおどしながら誘ってきた江島の顔が蘇る。

…って、いやいや何にイラついてんだ俺。

江島さんの誘い断ったの俺じゃん。

そのあと誰と昼飯食おうがあの人の自由だろ。

なぜかそんなことを自分に言い聞かせたあと、気を取り直して隣の店に足を向けようとした瞬間、最後に目にしたものは。

「ずいぶん仲が良いんですね」

にこり。

ギリギリでオフィスに戻ってきた江島さんにそう言えば、訝しげな顔をした江島さんが「……なんだよ急に」と眉をひそめた。

「あそこのパスタ、ボクも気に入ってるんです」

「パスタ…？あ、もしかしてお前もあの店来てたの？」

俺の誘い断っといて……？

そんな台詞が聞こえてきそうな顔をする先輩を見てちょっとだけ溜飲が下がるのを感じながら、俺はつい意地の悪いことを言いたくなった。

なんせこっちは炎天下のオフィス街を空腹でさまよったんだ。

先輩がのほほんと同期とランチしてたその間に。

問いかけは無視して、俺はさっき見た光景をそのまま目の前のとぼけた顔にぶつけてやった。

「口元拭かれてましたよね、三浦さんに」

「——————ッ！！」

その言葉に、気弱な先輩はみるみる顔を真っ赤に染めた。

「み、見てたのか……！」

八の字に眉を下げてうろたえるその顔を見て、俺は完全に溜飲が下がるのを感じた。

そう。

最後に見たのは、どんくさくソースを口につけたこの人の口元を三浦さんが指でぬぐってやっているところだった。

一体同期になにやらせてんだ。

ていうかあんたいくつだ。

途端にあわあわ手を振りながら「あ、あれはたまたま……！三浦の親切で…！！」と求めてもない弁解を必死に繰り出す先輩を無視し、ようやく暑さと鬱々とした気持ちから解放された俺は目の前のキーボードへと手を伸ばした。