僕、山田リク。
27歳、特技なし、肩書きなし、存在感もほぼなし。
しかし一つだけ特別なものがある。
――うちにはスターが住んでいる。
名前は コメット(柴犬・4歳)。
人懐っこい。可愛い。賢い。
…のはいいのだが、問題は 世界的スターである ということだ。
朝起きてテレビをつけると、芸能ニュースでコメットがインタビューされていた。
アナウンサー「コメットさん、今日は朝ごはん何を?」
コメット「ワンッ」
字幕『アジと白米。あと納豆がほしい。』
僕より食生活がしっかりしている。
それだけじゃない。
SNSフォロワーは 2200万人。
主演映画の興行収入は僕の年収の 84万倍。
CM本数は国会議員より多い。
なお、僕の肩書きは “コメットの飼い主(雑務担当)”。
コメットの散歩に行くだけで大騒ぎだ。
・マネージャー
・専属カメラマン
・スタイリスト(犬用)
・食事監修トレーナー(犬用)
・SP(2人)
僕の存在意義:リードを持って歩く係。
通行人A「えっ!あれコメットじゃない!?」
通行人B「生コメだ!写メ撮っていいですか!?」
僕「どうぞどうぞ(僕の写真は撮られない)」
SP「飼い主さんは背景扱いなので、気にしなくて大丈夫です」
背景扱いて。
僕は今日も画面の端っこで、1ミリもフォーカスが合わない。
ある日、マネージャーが仕事の話を持ってきた。
「コメットくん、来期の月9主演が決まりました!」
え、犬が月9。
しかも相手役が超人気女優・綾瀬ひなこ。
僕「内容は…?」
マネージャー「ラブコメです」
ラブコメ!?
犬と人間の!?
倫理観どうなってるのこの世界!
台本を見てみると、
《第3話:ひなこ、コメットに壁ドンされる》
「いやできるかぁぁぁ!!!」
と思ったらコメットは普通にできた。
器用すぎる。
というか二本足で立つな。
そんなある日。
僕は会社でミスをして大失敗してしまう。
書類を逆順に提出しただけなのに、なぜか大惨事になって、部長から雷が落ちた。
部長「山田ァ!君の代わりはいくらでもいるんだ!」
その瞬間。
バンッ!
会議室の扉が勢いよく開いた。
コメット登場。
テレビで散々見てる “スター犬登場BGM” も流れてる。
どこから流してるんだ。
部長「こ、コ、コメットさん!? なぜここに!?」
コメット「ワンッ!」
字幕『うちの飼い主、いじめたらダメ。』
部長「ひぇぇぇ、申し訳ありません!!!」
…強すぎる。
スターの権力えげつない。
その日から僕は会社でいきなり大事に扱われるようになった。
急にみんな優しい。
同僚「お疲れっす山田さん!コメットさんと暮らしてるなんてすごいっすよね!」
僕「いや、あの…僕はただの…」
同僚「控えめなところも素敵っすわ!」
僕の評価、完全に犬の付属品。
ドラマ撮影の最終日。
コメットは現場で誰よりも輝いていた。
関係者もファンも、みんな彼を中心に回っている。
でも撮影が終わると、コメットは真っ先に僕のもとへ走ってきた。
コメット「ワンッ!」
字幕『帰ろ。今日は散歩道に夕焼け出てるよ。』
スターなのに、当たり前のように僕を選ぶ。
その瞬間、思った。
僕はモブでもいい。
この世界一のスターの“帰る場所”が僕でいるなら。
「よし、コメット。帰るか」
コメットはしっぽをぶんぶん振りながら僕の横を歩く。
人々の歓声の中、僕はモブのまま手を振る。
…まあ、悪くないな。
モブの人生も。
スターの隣なら、けっこう輝くから。
コメント
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...!!! 絵本とか出せそう!!!! (タメ口失礼します!)
す ご い ✨