7.家族
「お邪魔します……お久しぶりです、」
「潔くん、帰ってきてくれて嬉しいわ。ほら、お茶出すから座って。」
凛の母は少し痩せたように見えた。
でも昔ながらの綺麗さは歳を感じさせない。
昔から凛とよく似た目元は変わってなかった。
「ほんと何してんのか。冴も素っ気ない態度の割には1番気にかけてるのよね。」
「…凛、」
ふと目線を向けた先に家族写真が見えた。
両親の前で肩を並べてピースをする凛と冴。
その手にはサッカーボールがあった。
「生きてるかも…なんて期待はもう薄れてる。旦那もちょっとずつ前向いてるのよね。後は私だけかって…ごめんね、潔くん。」
「いえ、…こっちこそ思い出させてしまって…」
「いいのいいの!来てくれて嬉しい。あそうだ。ちょっと待っててね。」
そう言うと凛の母親は立ち上がって奥の部屋へと走り出していく。
そうして少しして戻ってきた彼女の手には手のひらより少し大きいノートがあった。
「これ、貰ってくれない?」
「え、み、見てもいいですか?」
頷いたのを確認すると俺はそれをそっと開く。
「……日記…、?」
「昔から飽き性だから途切れ途切れなんだけどね、笑 ここ。」
彼女が指を指したところに目を見開く。
「潔が違う場所でも元気でいますように…」
声に出して見るとあまりに切なくなる。
「君のこと、特別だったんじゃないかな。人の事考えてるなんて見たことなかった。」
「俺は、何も…」
「凛と仲良くしてくれてありがとう。凛の願い通り、元気に、幸せにね。」
凛の母さんの目に薄らと涙が見えた。
俺は凛の家を後にした。
「みんなでサッカーした。俺が1番上手いと思ってたのに負けて悔しい。次は勝つ。」
「クリスマスパーティー?ってやつ。プレゼント交換とかなんとか。めんどくさい。」
「修学旅行。まぁまぁ楽しかった。抹茶の八つ橋また食べたい。」
「潔がもうすぐ引っ越す。最近ずっと泣いててムカつく。笑ってればいいのに。」
「明日潔がいなくなる。」
「潔が見えなくなった。電車が小さくなる。」
凛の文章は綺麗とは言えないもの。
最後の文が震えていたのを見て立ち止まる。
「凛、なにしてんだよ。」
帰省して、凛のことを知らされて1週間。あと2週間ほどで俺はまた電車に乗る。
「あー!!!高校最後の夏なのに、これじゃぁ思い出どころじゃねぇじゃねーか!!!」
叫んでも誰にも届かない。
それがこの田舎のいいところ。
ボールを蹴る場所なら家の周りにたくさんある。
でも叫ぶ場所はここにしかない。
凛がいれる場所は、もうここしかない。
凛の日記を抱きしめて俺はまた踏み出した。
コメント
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なんか「光が死んだ夏」みたいな感じのストーリーで面白いです!いや、面白いというより切ない?感じで見る手が止まりません笑