「うぐっ……」
途端に旗色の悪くなった八意は、恨めしそうに天井を浮遊するハロを睨み付けた。
「那由多になます切りにしてもらって、血の池地獄にでも落としてもらえば良いんじゃない?」
「貴様……、絶対に那由多に言う出ないぞ! あいつなら、遊び半分でやりかねないからな……」
「嘘でも冗談でも、つまらない軽口を叩くからいけないのよ」
「ムウ……」
八意はまだ反論をしたりないようだったが、那由多やイナリの視線を受け、フンッと口を噤んだ。
「それで、八意。ポケコンの事は分かったから、凶霊のいる場所は分かるのか? 美穂子が危険なんだよ」
八意のペースでは、いつまで経っても肝心な場所にたどり着けないだろう。典晶は八意を急かすように番台に手をつく。
「とりあえず、アプリを立ち上げてみい。スタートボタンを押して、サーチ画面になったら、画面の中央を押すと、半径一キロ範囲の凶霊や幽霊の場所が分かる」
言われたとおりにアプリを立ち上げる。典晶の手元を、文也とイナリ、ハロが頭上から除いてくる。
ソウルビジョンと同じく、デフォルメされた八意が画面の左端から登場し、中央で転び、帽子を直して画面右に去って行く。
「なんじゃ、この寸劇は」
「ロード時間なんだろうよ」
「そうじゃ。暗い画面の端にくるくると矢印が回転していてもつまらないじゃろう」
そうこうしているうちに、画面は明るくなり、草むらと青空をバックにポケコンと赤い文字が浮かび上がる。文字の横に、見慣れたボールがあるが、それを突っ込むとまた余計な時間を取られるから、あえて無視した。
典晶はタイトルの下にある『START』ボタンを押すと、立体的な智成市の町並みが表現された。
「おお」
文也が感嘆の声を漏らす。しかし、すぐに『現在位置を認識できません』と、エラー表示が出現した。
「そのアプリは、地球上の衛星と連携しておるからの、地上なら詳細なデータで表示できるが、残念ながらこちらの世界まではサポートされていない」
「十分じゃないか典晶! 外に出て、サーチしてみようぜ!」
「ああ」
典晶は頷くが、それを八意が止めた。
「典晶、そのアプリは、あくまでも時間稼ぎじゃ。儂ら神がそれを使えば、それなりに実用的だが、お主は人間じゃ。那由多が来るまで、無理はするなよ」
「分かってるよ」
「絶っっっっっ対にじゃぞ! 約束じゃからな!」
彼女にしては珍しい必死の形相の八意。典晶は八意の迫力に押され、「分かったよ」と、大きく頷く。
「珍しく真面目じゃない」
ハロが首を傾げるが、八意は腕を君で鼻を鳴らす。
「神である儂が、信徒である典晶をを心配しても不思議ではあるまい。それに、お主らにこれ以上何かあったら、儂が姉様達に何をされるか」
自分を抱きしめ、ぶるっと八意は体を震わせた。
「………まあ良いわ。典晶君、外に出て、早速サーチしてみましょう。ま、場所は何となく察しが付くけどね」
典晶達はアマノイワドを出ると、すぐに現実世界へ戻り、もう一度ポケコンを起動し、サーチを掛けた。すると、周囲に沢山の幽霊のアイコンが浮かび上がる。アイコンは、誰もが一目で幽霊と判別できる、頭からシーツを被った足のないコミカルなものだった。
「うお! こんなに幽霊がいるのか? というか、こんなのがあったなら、最初から教えてくれれば良いのにな!」
確かに、ソウルビジョンとポケコンは二つ一組にすればより効果的だっただろう。
「見ろ、典晶! 一つだけ大きな幽霊がいるぞ!」
イナリが細く長い指で画面を突く。そこには、黒く巨大な幽霊の格好をしたアイコンがあった。場所が拡大され、住所が表示される。
「此処って、学校だな」
「やっぱりそうね。凶霊は、地縛霊ほどじゃないけど、自分のテリトリーがあるのよ。凶霊には、黒井真琴だった頃の記憶は無いけど、あの場所にこびり付くような強い恨みだけは抱いているわ。きっと、そこで理亜ちゃんの魂を完全に同化して、命を絶つのでしょうね」
「命を絶つって、それって、理亜と一緒に凶霊も死ぬのか?」
「ああ、言い方が悪かったわね」
ハロは画面を確認すると、そちらの方に歩き出した。すぐに典晶達もハロの横に並ぶ。
「凶霊は理亜ちゃんの魂を喰らって、体から抜け出るの。そうすると、理亜ちゃんの魂は体から抜けるから、死ぬってワケ。私たちが、外部から攻撃をして殺すのとは、ワケが違うのよ」
「理亜は、抜け殻になるって事か」
文也が呟く。
「急ごう……理亜にも、美穂子にも時間は無い」
イナリの足が速くなる。典晶も文也も、イナリに釣られて足早になり、最終的には駆け足になっていた。
「待ってよ! 私、走るの苦手なのよ! この胸も重いしさ!」
ハロの言葉に、息を切らした典晶と文也は同時に振り返った。見ると、ブラウスの開いた胸元から、ユサユサと揺れる胸があった。チューブトップブラに包まれている胸は、思春期の男子高校生には目の毒だった。
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