俺はある日、心霊スポットに行った。
そこは近所でも本当に出ると住職が噂する古い寺だった。
俺は元々霊感が人よりも強かったこともあり、着いた瞬間にわかった。あれは……
アホな幽霊だった。
「うぎゃぁぁぁぁああああ!!!助けて〜!!!」
俺は困惑した。大人でさえも怖がっていた幽霊が俺の目の前で壁に上半身を突っ込んで抜けなくなっていたからだ。
「···幽霊って壁とかすり抜けるんじゃないのか?」
「誰しもそうだと思わないで下さい!!すり抜けられない幽霊だっているんですから!!」
「だとしてもアホすぎるだろ…。」
「ウグッ!! ………。」
相当心にきたのか黙り込んでしまった。 というか幽霊に心があるかすらも謎だが…。
「仕方ない…助けてやるよ。」
流石に可哀想だったからな。助けてやることにした。
「本当ですか!!?だったらそのまま引っ張ってもらえます?」
俺は幽霊に言われた通りに体を力いっぱい引っ張った。すると案外、そいつの体はスルッと抜けた。
「やったぁあああ!!!抜けました!!」
体が抜けたのがよほど嬉しかったのか幽霊は空中で浮かびながら一回転していた。もう俺には幽霊に触れることも空中に浮かんでいることも気にならなくなっていた。
「それで?なんであそこに突っ込んでいたんだよ。ポンコツ幽霊。」
「ポンコツとは失礼ですね〜?お腹がすいて餌を探していたら壁の向こう側に餌を見つけたので捕まえようと穴をくぐったら抜けなくなっただけですよ!」
「ポンコツじゃねぇか。」
「・・・・・・・」
無言になっちまった…。流石に言い過ぎたか?
「あ〜ごめんな?言い過ぎたな。餌ってのはなんなんだよ?俺で用意出来るもんなら用意するぜ?」
「本当に?用意してくれるの…?」
「ああ、俺も言い過ぎたしな。俺が用意出来るものならだけどな?」
これで流石に人肉なんかは出ないよな……?
「それじゃあ!君にとり憑いている“悪霊”食べていい?」
「……へ?」
人肉よりもやべぇワードが聞こえた気がしたんだが……
「それじゃあ…いただきまぁ〜す!!」
「ちょっ!!?待っ!!!」
ガブリッ!!
静止する間もなく幽霊に食われた。が、特に死ぬことも無く、何かを食べる音と共に体が少し軽くなったような感覚がした。
「ごちそうさまでしたぁ〜!!!」
きちんと手を合わせている幽霊に俺は聞いてみた。
「お前、一体何を食べたんだ?“悪霊”って言っていた気がしたんだが…。」
「その言葉のまんまだよ?君にとり憑いていた悪霊を食べたの〜」
改めて言われたが俺には理解ができなかった。人肉よりもやべぇもん食ってねぇか?ということだけはわかった。
「え…?悪霊っているの?というか食えるの?」
「食えるよ?僕はこれでも土地神だからね!」
「土地神様が餌を求めて壁の穴をくぐったら抜けなくなるのか……。お前、信仰してくれている人いるの?」
「グハッ!!…本当に君は…人にダメージを与えるのが上手いなぁ?」
いや〜そんなに褒めてもらわなくてもいいのに〜と思ったが神様もダメージという言葉を知っているということに驚いた。
「流石にそのぐらいの言葉は知っているよ。」
この神…!!まさか…人の心を呼んでいる…だと!??
「大袈裟な…誰だって出来るよ。」
「俺にも?」
「いや、多分無理。」
誰だって出来るって言ったじゃん!!嘘つき!!こいつのこと締め上げて(自主規制)して(自主規制)してやろうかな。
「·····君だんだん情緒不安定になってない?」
「気の所為だろ。俺は至って普通のサラリーマンだ。 」
「え?学生じゃないの?」
「20代独身のサラリーマンだ。」
そんなことはどうでもいいのだ。今はそれよりも重要なことがあるのだ。
「悪霊ってなんだ?」
「まぁ、至って普通の人にとり憑いてその人を呪い殺す幽霊だよ。」
「え…こっっっわ!!?」
俺の自己紹介と同じノリで話していいことじゃないだろ…
「まぁまぁ、君には三体ぐらいとり憑いてたんだしそんぐらいじゃ大丈夫だよ。」
「はぁ!!?三体もとり憑いていたのか!!??」
「君気づいてなかったの?いかにもこの人呪ってまーす。みたいな雰囲気だったのに?」
「そんな雰囲気な悪霊がいるのかよ…。」
「いたじゃん、君にとり憑いてたやつ。」
·····そうだったな…。
「まぁ、もう君にはいないから安心しな。」
「それで?腹はいっぱいになったのか?」
「全然〜?まだまだお腹空いたよ。 」
まじか…でも、もう俺には悪霊が居ないらしいし…かといって人を何人も連れてくるのもどうするべきだろうか?
「あ、思いついた。」
「ん〜?何を〜? 」
「お前を腹いっぱいにする方法。」
俺はニヤッと笑いながらそいつに思いついた方法を話した。そいつもその方法に興味を持ったのか真剣に話を聞いてくれた。
「――するんだよ。どうだ?いい方法だとは思わないか?」
一通り話したあと、そいつの返事を待ったが返事は…
「いいね、僕もその方法に賛成だ。」
返事は賛成だった。
「それじゃあやりますか。」
俺の思いついた方法は至ってシンプルだ。俺に土地神をとり憑かせることでこの寺の外に出ることが出来るので別の場所に行き、悪霊を喰らおうという方法だ。
ここの町には昔から色々と噂があったからな。この機会だし、こいつに食べて貰うってのも悪くないだろう。
「そんで?まずはどこに行きたい?」
「ん〜じゃあずっと前から気になっていた場所があったんだけどいいかな?」
「おう、いいぜ?それで、そこはどこなんだ?」
「○○って場所なんだけど…。」
おいおい、そこはこの辺りでも立入禁止と言われるぐらいには危険な場所じゃねぇか。
「マジでいく気か?まぁ、止めはしないが…。」
流石の俺でもそこには入った瞬間にどこか別の場所に行く気がして行かなかった場所だ。
「曰くが強い分、たくさんの悪霊がいるからね。」
「恐い=悪霊がたくさんってことなんだよ。」
「なるほどなー。じゃあ行くか。 」
「うん!それじゃあ君にとり憑くね?息を吐いて〜?」
俺は言われた通りに息を吐いた。なんというか…ジェットコースターから落ちる時のような感覚だ。
「大丈夫そう?」
「ああ、とりあえずすっごい不快感だ。」
「まぁ、幽霊にとり憑かれるんだからね。むしろその程度で済んでるのが凄いよ。」
「これ以上の不快感があるのか…。」
「最悪は精神が乗っ取られる。」
ヒェッ・・・俺は危ないことを平然としたのか…。
(よし!とり憑き成功〜!!これで外に出れるぞ〜!)
「そうか、それで?○○に行けばいいんだよな?」
(うん!そこの悪霊が食えれば暫くはご飯いらないからね。ここからでも感じるほどあそこには溜まってるよ。)
「それって最悪乗っ取られる可能性あるか?」
(うーん?どうだろう僕がいるから平気だと思うけど…)
·····どうやら俺は幽霊を体にとり憑かせる以上に危ないことをしに行くようだな。こんなことなら腹いっぱい食べる方法を思いつかなければ良かったな……。
(どうする?やめる〜?)
「え?」
あぁ、そうか…確か心が読めるのか。
「いや、俺から提案したんだ。責任は最後まで持つさ。」
幽霊からの優しさにサラリーマンとしての自分が出てしまった。
(·····!!)
幽霊は俺の言葉に何故か驚いているようだ。
(そう、じゃあ僕が絶対に君を守ってあげるよ!)
「おう!」
車にエンジンをかけた俺は唐突に1つ聞き忘れていたことを思い出した。
「なぁ幽霊。最後に聞きたいんだがいいか?」
(ん?何〜?)
「お前って名前はなんて言うんだ?」
ずっと幽霊、幽霊なのも呼びにくいし…普通に俺も知りたかったからな。俺は幽霊に聞いてみた。
(そういえば言ってなかったね〜僕に名前はないよ?)
「土地神なんだろ?1つぐらい何かないのか?」
(う〜ん…土地神様とはずっと言われてたけど…土地神って僕だけじゃないし、判別出来ないのは面倒でしょ?)
そっか。それもそうだよな〜。
「あ、じゃあ俺が名前を付けてやるよ。それならいいだろ?」
(本当に!?僕に名前をくれるの?!)
幽霊は名前が貰えるのが相当嬉しそうだった。これは名前を考える側のやる気を出るもんだな。
「うーん…………。」
俺は悩みに悩みまくった結果、しっくりきた名前を提案してみた。
「神楽なんてどうだ?お前に合ってると思うんだが…。」
(·····)
「だ、駄目か?」
(嬉しい……。僕、とても嬉しいよ!!ありがとう!)
どうやら喜んで貰えたようだ。
「これは迷ったかいがあったな。」
「さてと、名前も決まったことだし行きますか!」
「「廃校へ!!」」
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