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テラーノベル(Teller Novel)
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「ありがとうございます」

とおそらく注文をしてくれたことに対するお礼で、妃馬さんが軽く頭を下げ言ってきた。

「いえいえ全然!」

そう言いながらグラスに残った紅茶ハイを飲み干す。

グラスを置くと小さくなった氷たちが

氷同士でぶつかったり、グラスにぶつかったりして涼しげな音を立てる。

「怜ちゃん怜ちゃん怜ちゃん!」

と鹿島がこちらに向かって話しかけてきた。

「なに?そんな連呼して」

「俊くんね、テニスで高校のとき全国4位だって!」

たぶん口に飲み物が入っていたら驚いてむせていただろう。

「マジで!?」

と驚き声を出し、俊くんを見ると

「いや、団体戦でですよ?だから僕自体は全然なんですけど

他のみんなが強かったんです。だからまぁ、運が良かったんですよ」

と照れつつ謙遜をする。

「いや!オレオンラインゲームやるからわかるけど

仲間がめちゃくちゃ強くても自分が仲間について行けなかったらチームとしてはダメなのよ。

だからその仲間の足引っ張らないどころか

ちゃんとついて行けてる俊くんもやっぱりすごいよ」

とめちゃくちゃまともなことを鹿島が言う。

「面と向かって褒められることってホント少ないんでさすがに照れますね」

と言い、残りの麦茶を飲み干した。

「他の皆さんはなにか部活してました?」

と俊くんが部活の話題にした。

「私はバスケ部でした!」

「え!意外」

と鹿島が少し驚く。

「よく言われます!」

「姫冬はちょっと抜けてるとこがあるからね」

とお姉ちゃんのフォローが入る。

「勝手なイメージだけど運動苦手そうだなって思ってた」

「失礼」

と鹿島の横で笑いながらボソリと言う。

「ごめんね」

と鹿島が謝る。

「いや、そのイメージ合ってます」

「お姉ちゃん!」

と姉妹の掛け合いになった。

「この子高1のとき、急にバスケ部入るとか言ったからビックリしちゃって。

走るのすら苦手なのにって思って」

「でも3年続けたの?」

鹿島が姫冬ちゃんに尋ねると

「はい!なんとか」

「ほぼベンチだったけどね?」

「まぁね」

とこれまた姉妹の微笑ましいやり取りが繰り広げられた。

「でも大変じゃない?バスケ部ってそれこそ走り込みとかあるでしょ?」

と聞いてみた。

「はい…あれは嫌いでしたね」

「でもなんでバスケ部に?」

「めちゃくちゃカッコいい先輩がいて」

と姫冬ちゃんが少し照れくさそうに、そして少し憧れの眼差しでそう言う。

「あぁ、マンガとかである感じのやつね」

「そうなんですか?んん〜まぁたしかに、始める動機としてはよくありそう」

「その先輩に近づくために!みたいなね」

と鹿島がアシストする。そして鹿島は続けて

「でどうなったの?付き合った?」

「あ、その先輩女子です」

と言い姫冬ちゃんが笑う。納得したと同時に「これはどっちだ?」とも思う。

それは空気的に鹿島も俊くんも思っているんじゃないかと思った。

その空気を察したのか妃馬さんが

「なんだっけ?たしか学校案内してくれた先輩なんだよね?」

とフォローに入る。

「そうそう!1年生の学校案内を2年生の先輩が5人が担当してくれて

そのうちの1人で後輩への優しさとか先輩に可愛がられる感じ

部活に一生懸命な姿とかを見てたら

「あぁ、こんな人になりたい」って思ってバスケ部に入ったんです!」

この言葉を聞き「恋」ではなく「尊敬」だと確信し、なぜだか安堵する。

それは鹿島、俊くんも恐らく同じだった。

「ん〜でも聞いてる限り、半分なれてて半分なれてないね」

と少し笑いながら鹿島が言う。

「えぇ〜えぇ。嬉しいような悲しいような」

「でも良いんじゃない?

憧れのその先輩の要素を吸収しつつ姫冬ちゃんらしさも残ってて」

と鹿島が珍しくまともで良いことを言った。

良いことすぎて姫冬ちゃんはもちろん妃馬さんや俊くん僕もポッってなってしまっていると

「お待たせいたしましたぁ〜」

とナイスタイミング店員さん。

「こちらが紅茶ハイで、こちらがアスピスサワーで、こちらがアスピスです。

レモンサワーと、こちらがストレートティーです」

と女性店員さんが置いてくれ、僕と妃馬さんがそれぞれにグラスを回し

空いたグラスを女性店員さんの前に置いた。

「あ、すいません。ありがとうございます」

と店員さんが言い飲み物を持ってきたお盆に空いたグラスを置いていく。

そして軽く頭を下げて颯爽と去っていく。

そんな店員さんをカッコいいなぁ〜。と思い見ていると

「タイプですか?」

と妃馬さんがそう聞いてきた。

「え、いや」

と言いかけて妃馬さんのほうを見る。

僕の見ている現実のこの視界ではまったくなにもなっていないが

きっとドラマやアニメなどではスローモーションなんだろうなと思うくらい

アスピスサワーを飲み始める妃馬さんと目が合いドキッっとした。

ほんの一瞬時が止まった気がして、思考もほんの一瞬停止した気がした。

しかしすぐ我に戻り

「えぇ〜いや、違くて。あの店員さんに限った話じゃないんですけど

「店員さん」ってカッコいいなって思いまして」

と少し言い訳に聞こえるかもしれないが本音を話した。

「隠さなくていいんですよ?」

と妃馬さんは微笑みながら言う。

「あ、やっぱり言い訳に聞こえました?」

「はい。あぁいう人がタイプなんだなぁ〜ってなおさら思いました」

とイタズラっぽい表情で言ってくる。

そんな表情の妃馬さんにまたドキッっとした。しかし同時に

「「姐さん」の仕返しですか?」

ともしかしてをぶつけてみた。

「やっと仕返しできました」

とイタズラっぽい表情のまま嬉しそうな顔をする。

この表情にもまたドキッっとしつつも

「あ、いや、残念なお知らせなのですが。

あの言い訳に聞こえたのは本音なんです。残念!」

と深刻な話をする感じから一気におどけながら言った。

「えぇ!?ホントですか?」

「はい。残念ながら。

まぁキレイな方だとは思いましたけど、キレイとタイプはまた別ですからね」

と少し得意気な顔をしてみる。

「まぁたしかに」

と妃馬さんは少し残念そうな表現を見せる。

「僕のタイプというより、鹿島が好きそうなタイプではあるなぁ〜とは今思いました」

と自分の名前が聞こえて

「え?オレの話?」

と鹿島が入ってきた。

「いや今タイプの話してて」

と話したところで

「え、怜ちゃん妃馬さんとそんなとこまで進んでんの?」

と右手を口元に添えて、ヒソヒソ声で話してくる。

「は?なんの話?」

と普通の声量で返す。すると鹿島も添えていた右手を下ろし、普通の声量で

「え?そっちこそなんの話?タイプの話って言ってたから異性のタイプの話してるのかと」

「うん。そうだけど」

「合ってるやん」

「いや妃馬さんに「あの店員さんタイプですか?」って聞かれたから

「どちらかというと鹿島のタイプっぽいです」っていうことを話してたの」

そう言うと鹿島は妃馬さんのほうをチラリと見る。

僕たちの話を聞いていた妃馬さんは笑顔で頷く。

「どの店員さん?」

と鹿島が聞いてきたので

「女性の店員さん1人しかいないからすぐわかるよ」

「あぁ、あの人か?申し訳ないけどオレのタイプじゃないかも」

「あ、そうだった?」

「あの、あっ!今今!」

と鹿島が少し慌てた様子で厨房のほうを指指しながら言う。

僕もその指指す方向に視線を向けると厨房で忙しなく働く女性が1人いた。

「あ、ごめん違う。あの人じゃない。

あの人は鹿島のタイプじゃないってわかるし」

「あぁ、そうなん?」

「うん。ごめん。じゃあここで働いてる女性1人じゃなくて2人だったわ。

訂正してお詫び申し上げます」

と両手を重ねて鹿島に頭を下げる。

「お!良い声活かしたキャスターさんのマネだ」

その掛け合いを見て妃馬さんが笑う。

「お2人ってほんと仲良いんですね。息ピッタリっていうか、相性良さそう」

と笑顔で言う。

妃馬さんのほうを見ていた僕と鹿島は同じタイミングでお互い目を合わせる。

すると鹿島が

「んん~まぁ、怜ちゃんはぁ〜そうね。初めて会ってから1週間くらいで好きになった」

「それ長いの短いの?」

「オレとしては相当短い」

「まぁ鹿島意外と友達少ないもんな」

「うるせぇわ!」

とめちゃくちゃ優しく撫でるように僕の頭を叩く素振りをする。

「やっぱりお2人は相当仲良いですね!見ててこっちがニヤけちゃうくらい」

と妃馬さんは笑顔とは少し違うがほんとに嬉しそうな幸せそうな顔をしていた。

「まぁ、オレらみたいなもんが人を幸せに出来るなら万々歳です」

と僕は微笑みながら妃馬さんに返す。

「な」

と鹿島のほうを見る。

「まぁね?」

と鹿島は戯けた表情で言う。僕は紅茶ハイの入ったグラスに口をつけ、1口口に流し込む。

その1口飲んだグラスから口を離さず、もう1口連続で口に流し込む。

アルコール独特の苦味が舌に、香りが鼻に残る。

少し会話のない時間があると妃馬さんのいろんな表情、声などが

頭のどこかに浮かんでいる気がした。

お皿とお皿がぶつかる音。お皿と箸がぶつかる音。同じサークル仲間の話し声。

グラスとグラスがぶつかる乾杯の音。

そんな中にも僕の頭のどこかには妃馬さんがいる気がして目の前にいる妃馬さんを見る。

1口くらい飲んだアスピスサワーのグラス。

サラダを食べたであろうお皿には少しの野菜の欠片と

おそらくシーザードレッシングをかけたのであろう

白いドレッシングが黒いお皿に残っている。

その奥の妃馬さんは姫冬ちゃんと話している。

すぐそこで話しているからきっと僕の耳にも届いているはずだし

実際妃馬さんの声も姫冬ちゃんの声もちゃんと耳に届いているが

内容は右から左。もしくは左から右。つまりは内容は頭に入ってこない。

姫冬ちゃんと話す楽しそうな妃馬さんの横顔を見ていた。すると真右から鹿島が

「やっぱり怜ちゃん、妃馬さん好きになったんじゃない?」

と僕は現実にいたつもりだし実際現実にいたが

鹿島の声で現実に引っ張り戻された感覚になった。

「はっ?いや全然!?いや全然って言ったら失礼だけど。

つか会ってまだ30分かそこらだろ?「好き」ってそんな簡単じゃないから!」

と言い訳を少し早口でまるでマンガやアニメのツンデレな女の子が言うような理屈を並べた。

「お!「深いこと」言うね?まぁ捉え様によっては「めんどくさいこと」だけど」

「うるせぇ」

先程とは立場が反転したような会話になった。

「でもたしかに合コンで「好き」とはあんまならんかもな。

単純に見た目で「可愛い~」とか「きれー」とか「えっろ!」とはなるけど」

「そうなん?知らんけど」

と鹿島とそんな会話をしている最中も

僕の頭のどこかには妃馬さんの存在が大きくあった。そんな気がした。

猫舌ということ。

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