テラーノベル
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太智がいなくなった。最初は、どこかにいると思っていた。
「太ちゃん?」
楽屋を覗く…いない。廊下にも、休憩スペースにもいない。電話をかけても出ない。
「……どこ行ったんやろ」
胸の奥が、嫌な感じにざわつく。
そういえば、最近の太ちゃんは少しおかしかった。いつもより元気がない。笑っていても、どこかぼんやりしている。
「太ちゃん、眠いん?」
そう聞いたときも、
「うん……なんか最近ずっと眠いねん」
って、力なく笑っていた。疲れてるんやと思ってた。でも、今になって思い返せば、他にも気になることがあった。
勇ちゃんは最近、毎回のように太ちゃんへ飲み物を渡していた。
「はい、太智」
「ありがとー」
太ちゃんは何も疑わず受け取って。飲んだあと、決まって少し眠そうになっていた。
仁ちゃんとはこの前、言い争っていた。
「そんなこと言うなら、縛るぞ」
柔も、
「そんなこと言うと、閉じ込めちゃうよ」
って笑ってた。
……全部、冗談やと思ってた。
「太ちゃん……」
俺はもう一度電話をかけるが出ない。携帯をポケットに戻すと何かが触れた。
「……ん?」
取り出したのは小さな鍵だ。見覚えがない。なのに、その鍵を見たら頭の奥が、ずきっと痛んだ。
「……っ」
目を閉じる。古いアパート。白いドア。鍵穴。
「……なんや、これ」
気づけば俺は歩き出していた。どこへ向かっているのか分からない。それでも足は止まらなかった。やがて、見覚えのないアパートの前に立っていた。
「……ここ、どこやっけ」
なぜか、201号室の鍵穴へ差し込む。カチャと鍵が回る。ドアの向こうは薄暗かった。
「……誰かおるん?」
返事はない。けれど、奥から小さな声がした。
「……ぅ」
部屋の奥へ走ると、そこに太ちゃんがいた。
「太ちゃん!」
頬は青白く、目の下には濃い影。両手は背中で縛られている。
「……っ、舜太」
その声を聞いた瞬間、胸が締めつけられた。
「助けて」
「太ちゃん……!」
すぐに駆け寄り、縄をほどく。
「何があったん?」
「分からへん……頭、痛い」
「なんで縛られてるん?」
「僕……どうしたんやっけ」
「大丈夫やで。俺が助けるから」
俺は必死に縄を解き、ようやくほどける。その瞬間、太智が立ち上がり玄関へ走り出した。
「太ちゃん!?」
けれど、途中で勇斗が飛び出す。
「どっこいくのー?」
明るい声。太智の顔から血の気が引く。
「……勇斗」
「太智、逃げちゃだめじゃん」
舜太の頭の中で繋がる。
飲み物。眠気。頭痛。縛られた手。
「……勇ちゃん」
「ん?」
「太ちゃんに、何飲ませてたん?」
「薬。眠くなるやつ」
あまりにも普通に答える。
「太智、最近ずっと逃げようとしてたから」
笑顔のまま答える勇斗に、背中が冷たくなる。
「……だから、最近ずっと眠そうやったん」
「うん」
助けなきゃ。そう思って太智の手を取った。
「太ちゃん、行こ。俺が連れて帰るから」
玄関へ向かう。ドアノブに手を伸ばす。あと少し。外へ出ればいい。
「舜太」
背後から仁人の声がした。
「何してるのよ、キミは」
「……太ちゃんを帰す」
柔太朗も部屋の奥から出てくる。
「来んといて……」
「舜は、俺ら以外に太ちゃん取られて良いの?」
太智が服を掴む。
「…舜太……お願い」
涙の溜まった目。
「帰らせて」
帰らせてあげたい。そう思ったはずだった。しかし、ドアの向こうへ太智が消えてしまう未来を想像した瞬間、手がドアノブから離れた。
カチャン。
鍵をかける。
「……なんで」
太智の声が震える。
「……太ちゃん、」
一歩近づく。
「ずっと一緒におろうな♡」
「……違う」
太智が後ずさる。
「舜太、違うやろ!……俺、助けてって言ったやん!」
「うん」
「帰りたいって」
「うん」
「じゃあ、なんで……」
答えられない。ただ、もうドアを開ける気にはなれなかった。太智は薬のせいで足元がおぼつかず、壁に背中をつけたまま座り込む。
「……怖い」
その言葉に胸が痛む。それでも、舜太は太智を抱き上げた。
「……やめて」
「ベッド行こ」
「嫌…や…」
弱い抵抗。腕の中で震える太智を抱きながら、舜太は気づいてしまった。
――俺、もう助ける側じゃない。
太智を逃がしたくない。その事実を認めた瞬間、何かが切れた。
「もう逃げんでええから」
太智は何も答えなかった。ただ、怯えた目で舜太を見ていた。勇斗も飲み物を持ってきた。
「はい、太智」
「……いらん」
「喉乾いてるでしょ」
「いらない……!」
勇斗は太智の顎に手を添え、水を口元へ押し当てた。
「飲んで」
「やめてや!」
太智が顔を背ける。それでも勇斗は太智の鼻を摘み、酸素を取り込もうと開いてしまう口に無理やり飲ませる。
「んぶっ、ゴホッ、ごほっ」
「ほら、飲んで」
「げほッ、嫌やぁ!!」
太智の声が響く。
「それのせいで頭おかしなる!!」
涙が一気に溢れる。
「もう飲みたない!!!!」
身体を震わせ、子どもみたいに泣き声を上げる。
「うぇぇぇん、嫌やぁ……っ、もう嫌……!」
勇斗はそれでも静かに言う。
「大丈夫。すぐ落ち着くから」
「嫌やぁ……!」
太智は泣きながら首を振るが、だんだん視界が霞んでいき、そのまま眠ってしまった。
*
どれくらい眠っていたのか、太智には分からなかった。
「……ん……」
重い瞼を開ける。ぼんやりとした視界の中に、勇斗がいた。
「太智、起きた?」
その瞬間、身体が強張った。
「……っ」
反射的に後ずさろうとするが、手足に力が入らない。頭もぼんやりして、何をされたのか、どうして怖いのかさえ上手く思い出せない。勇斗がゆっくり手を伸ばす。
「大丈夫だよ」
「……来んといて……」
太智は怯えた目で勇斗を見る。勇斗はただ、少し寂しそうに笑う。その顔を見ると、今度は自分が悪いことをしたような気がした。
「はやと……っ」
かすれた声で呼ぶ。
「ん?」
「家、帰りたい……っ」
勇斗は困ったように笑った。
「ここが家でしょ?」
ぱしん、と頬に手が当たる。身体がびくっと震え、涙が落ちる。
「ごめん、俺も痛くしたくないけど……太智に、いい加減わかってほしくて」
頬を撫でられる。
「どこがおうちだっけ?」
「……うぅ……」
「ここって言って?」
勇斗の手が上がる。身体が勝手に跳ねた。
「っ、ここ……!」
「ここですっ……!」
「うん。ちゃんと言えてえらいね」
頬にキスをされ、大きな身体でだきしめられる。勇斗に抱きしめられた瞬間、鼻腔をくすぐったのは、以前から好きだった勇斗の香水の匂いだった。
叩かれたばかりなのに、その馴染み深い香りに包まれると、太智は安心してしまった。
「……はやと……♡」
甘えるように名前を呼ぶ。
勇斗は嬉しそうに髪を撫でた。
「うん。ここにいるよ」
太智は目を閉じた。抱きしめたまま、太智の身体を確かめるように体幹を撫でる。
「……太智、細くなっちゃったね」
「……?」
「なんか食べよ。俺、作ってくるから」
急に嬉しそうになって、勇斗はキッチンへ向かっていく。
「いっぱい食べてもらわなきゃ」
入れ替わるように仁人がベッドの脇に座った。頬に手が添えられる。
「太智」
「……じん、と……」
優しく顔を覗き込む。そして、ゆっくりキスをする。太智は目を閉じた。さっきまでの恐怖が、今はもう遠い。唇が離れると、太智はぼんやり仁人を見つめた。そして、名残惜しそうに舌を小さく出す。
「……」
仁人が固まった。
「……っ、さすがに可愛すぎるな」
もう一度、そっとキスをする。そのまま頭を撫でる。
「太智可愛い。だいすき」
「……仁人……」
「ん?」
太智が少しだけ身体を寄せる。仁人が嬉しそうに笑ったところで、
「仁人ー!ケチャップもうないー?」
キッチンから勇斗の声。
「今行く」
名残惜しそうに太智の髪を撫でて、仁人もキッチンへ向かった。今度は柔太朗と舜太がベッドに乗ってくる。柔太朗は濡らした温かいタオルを持ち、頬にそっと当てた。
「熱くない?」
太智は小さく首を振る。
「よかった」
涙の跡を拭っていく。
「……きれいにしようね」
その声は、昔と同じ優しさだった。舜太も隣から太智の髪を撫でる。
「太ちゃん、何食べたいん?」
「……」
「お風呂もあとで入ろな。ゆっくりでええから」
「入りたいけど……なんでか力入らんねん……」
太智は自分の手を見る。開いて、閉じて、また開く。指先までうまく動かない。柔太朗がその手を両手で包む。
「一緒に入って、洗ってあげるよ」
「お風呂まで俺が運んだるしな」
「……ありがと」
久しぶりに、太智が笑った。ほんの小さな笑顔。二人は顔を見合わせる。柔太朗が嬉しそうに目を細めた。
「太ちゃんのこと、大好きだからね」
手を握ったまま続ける。
「なんでも言って。なんでも頼って」
「俺も大好き!」
舜太が身を寄せる。
「太ちゃんは、俺らのこと好き?」
太智は二人を見つめた。少し考えて。
「……すきやで」
「やったぁ!」
二人が同時に太智へ飛びついた。
「わっ……」
押し潰さないように抱きしめられながら、太智も二人の背中へ腕を回す。
温かい。知っている匂い。知っている声。大好きだった人たち。太智はぼんやり考える。
――俺、なんで逃げようとしたんやっけ。
どうして怖かったんだろう。どうして帰りたかったんだろう。考えても、頭の中には何も浮かばない。
「おーい、ご飯できたぞー!」
キッチンから勇斗の明るい声が響いた。
「ほら、行こ」
舜太が太智を抱き上げる。柔太朗は「お風呂も準備しとくね」と先に部屋を出ていった。
「お腹すいた?」
「……すいた」
「いっぱい食べよな」
リビングへ行くと、勇斗と仁人が料理を並べていた。
「太智の好きそうやつ、いっぱい作ったぞー♡」
「さぁ、みんな座って。熱いうちに食べよ」
五人で食卓を囲む。勇斗が取り分けてくれる。仁人が食べさせてくれる。柔太朗が「熱いから気をつけて」と笑う。舜太は隣に座って、何度も太智の肩に触れる。
「おいしい?」
「……うん」
「よかった」
みんなが嬉しそうに笑う。
「太ちゃん、かわいい」「大好き」「太智が一番大事」「ずっと一緒におろうな」
その言葉を聞きながら、太智も少しずつ笑う。
「……みんな……」
口を開く。何かを言おうとして。少しだけ考えて。
そして――
「……だいすき……」
四人が一瞬だけ黙った。勇斗の口角がゆっくり上がる。仁人が目を細める。柔太朗は嬉しそうに微笑み、舜太も静かに笑った。
「うん」
勇斗が太智の頭を撫でる。
「俺らも大好き」
太智はもう、逃げたいとは思わなかった。ここが家。ここにいる四人が大好き。そう思いながら、太智は目の前の四人を見つめ、もう一度小さく笑った。
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ストックホルム症候群みたいな話。
17話の🤍💙の天使のやつが、まさか一番最初に♡1000いきそうで!ありがとうございます🙇♀️ どのペアが需要があるのかわからなかったので。次、🤍💙書いてみようかなぁ…!私もこのペアほわほわですきです。
やってみるく最終回まだ見れてないです、最近これのためにU-NEXT入ったばかりなので寂しいー!見返します。
コメント
6件
やばいやばいやばいやばい好きすぎます受けが泣きじゃくるやつほんとに大好きなんです私😃😃😃😭😭🤩🤩もう神です
えええやばい、すきすぎる…あったかいように見えてみんなやってることやばいっていう…年齢順にこういうことしようって思っていったのかな〜って考えたりして。。。