あたしは、この世界が本当に大好きなんだ。
本当に優しくて、いつもあたしのことを気にかけてくれる家族がいる。
そして、どんな時でも先導にたって導いてくれる『座長』がいて
ちょっと毒舌だけど、本当は誰よりも皆のことを気にかけてくれている『歌姫』がいる。
だけど、それよりも、お客さんだけでなくあたし達キャストも笑顔になれるような演出を考えてくれるとっても繊細で寂しがり屋な最愛の『錬金術師』があたしは、大好きなんだ。
だから、いつかは皆が自分の夢を叶えてしまったらバラバラになっちゃうけど、その時までは今のままで楽しく過ごしたい…と思っていた。
でも、現実はとても残酷だった。
ワンダーランズ・ショウタイムの公演が終わって、皆、帰路についた時『歌姫』こと草薙寧々ちゃんから電話がきて
「類が……類が!!」ってずっと叫んでた。
少し状況がわからなくて寧々ちゃんに
類くんに何かあったの!? って聞こうとしたら
唐突に司くんの声が聞こえて
「えむ…類が……轢き逃げされて、、全身、とくに頭を強く打って出血が酷かったらしくてな…今緊急手術しているんだ。」
そう、司くんに言われた瞬間 『カチッ』ってあたしの中で時が止まったような音がした。
類くんが……轢き逃げされた?
どうして?
なんで?なンデ?ナンデ?なんデ?ナンデ?
どうして類くんだったの?
『ガタッ』って手をすり抜けてスマホが床に落ちた音がしたけど、それよりも類くんのことで頭がいっぱいになってたから、そんな雑音を気にすることが出来なかった。
その後、司くんに類くんがいる病院を教えてもらって急いで行った。
着ぐるみさんやお兄ちゃん達にも言わないで、ただひたすらに走った。
そうじゃないと 二度と類くんに会えない気がしたから。
だから、もしかしたら今頃 家ではあたしが居ないって騒いでるかもしれないけどそれについては後で謝ろうと…頭の片隅で思いながら夜の街を駆け抜けた。
そして、電話がかかってきた10分後くらいに病院についたから、周りの人達に迷惑がかからない程度に急いで司くん達と合流した。
寧々ちゃんは、両目を赤く腫らしながら類くんの無事を願っていた。
司くんも、類くんの無事を願いながら、右目から涙を零していた。
あたしは、そんな二人を見て
「ずっと類くんの傍に居てくれてありがとう」って言いながら二人のことを抱きしめた。
そうすると、寧々ちゃんは肩に顔を埋めながら泣き始め、司くんは握りこぶしをつくった状態でうつむきながら声を殺し静かに泣いていた。
そんなことをしてる間に手術は終わったようで
手術室から出てきた先生に急いで類くんの容態を聞くと
「出来る限りの手は尽くしました。ですが……」
と、まるで苦虫を噛み潰したような表情で言っていた。
その言葉は、最愛の人の人生という舞台の幕が閉じられた…と理解するに充分な言葉だった。
もしかしたら…という一番嫌な結末で終わるなんて。
でも、そんな悲しみの中、たった一つだけ方法が浮かんだ。
類くんはもう居ない
でも、幕が閉じたのは今だよ
そういえば、類くんって寂しがり屋だよね
一人で居ることがあまりなかったもんね
類くん、向こうに行ったら独りぼっちになっちゃうよね
なら、あたしが………………
そんなことを思っているうちに、いつの間にか病院の外へと駆け出していた。
後ろから寧々ちゃんと司くん、看護師さん達の声が聞こえたけど聞こえないふりをしてただ走った。
司くんと寧々ちゃんが
「えむ!?」「えむ!!」なんて言ってるけど
今、聞きたいのは二人の声じゃない………そう叫んで耳を塞いだ。
そんなことをしているうちにようやく外に出ていたことに気がついた。
なんだか、近くから
「キャー!!」とか「救急車を呼んでくれ!!」って聞こえてきた。
何か事故があったのかな?…って思いながら人の声がする方に行ってみた。
そこには、泣いている司くんと寧々ちゃんがいて
「どうしたの?」って声をかけようとしたけど
二人の視線の先にあるものを見てあたしは、驚いた。
二人が見ていたものは
トラックに轢かれて血まみれの状態で横たわっているあたしだったから。
そして、その隣に『亡くなったはずの類くん』が悲しそうな笑顔を浮かべ
「ごめんね….えむくん」 と呟いていた。