テラーノベル
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市場へ戻り、再びセネル国へ戻る為、夜に出航する船に乗り込んだ二人は、充てがわれた船室へ入る。
そこは二段ベッドと小さなテーブルに二人がけのソファーがあるだけのこじんまりとした個室だったのだが、身体を休めるには十分な空間だった。
「エリス、疲れたろう? 少し休むといい」
口数が少なくなったエリスを心配したギルバートはそう声を掛けるも、彼女は立ち尽くしたまま、何も反応を示さない。
「エリス」
そんな彼女にギルバートが再度声を掛けると、
「ギルバートさん、私、もう少しルビナ国へ残りたいです」
泣きそうな表情を浮かべたエリスがまだルビナ国へ残りたいと訴えかけた。
「何を言うんだ?」
「突拍子も無い事言ってるって分かってます。けど、私、このルビナ国がどうなってしまうのかが心配で!」
恐らく、先程のシューベルトとリリナの話を聞いて不安が募っているのだとギルバートは分かっていた。
しかし、仮にエリスがこの国へ残ったところで、アフロディーテたちと接触出来る訳じゃ無いのだから、国の行く末を知る事など出来るはずが無い。
「お前の気持ちは分からないでも無いが、ここに残ったところでどこで情報を得る? それ以前にお前は捜索されている身なんだ。迂闊に城へ近付ける訳が無いだろう? 一旦落ち着くんだ」
何とか諦めさせようと説得を試みるギルバートだが、それでもエリスは納得がいかないのか、首を縦には振らない。
そんな彼女を前にしたギルバートは溜め息を一つ吐くと、
「お前に、話しておきたい事がある――」
話すべきか否か迷っていた、ある重要な話をエリスに伝える覚悟を決めてそう切り出した。
「話しておきたい、事?」
「ああ。まずはそこに座ってくれ」
「……分かり、ました」
話があると深刻そうな表情で言われたエリスはただならぬ予感を感じつつもベッドに腰掛けると、ギルバートはエリスの正面に椅子を持って来て座り、こう前置きをした。
「――これから話す事は、昨日、シューベルトとアフロディーテの二人の会話から読み取ったもので、全てを知る事は出来なかったんだが、そこから俺の憶測した部分もある。恐らくお前にとっては辛い内容になるかもしれないが、聞いて欲しい」
そんな風に言われたエリスは戸惑いの色を浮かべたものの、小さな深呼吸をしてから真っ直ぐギルバートを見据え、
「分かりました、話してください。どんな内容でも、最後まで聞きます」
覚悟を決めて、ギルバートの話を聞く事にした。
「――まず初めに、お前の父親についてだ」
「お父様の?」
「ああ。お前の父――ルビナ国王は流行り病で亡くなったのでは無い」
「……え?」
「……国王は、殺されたんだ。後妻であるアフロディーテと、その恋人関係にある宰相のエルロットによってな」
ギルバートの話は開始から衝撃的なものだった。
まさか、父親であるタリムの死が病では無く、彼を愛していると思っていたアフロディーテの手によって行われたものだったという事に。
「……そんな……っ、どうして……っ」
父親の死の真相を知ったエリスは深く動揺し、怒りと悲しみから身体が震えだしていた。
「エリス、お前の気持ちは分かるが、今は落ち着いてくれ。悪いな、本当は迷ったんだ。この話を聞いた時、お前に話すかどうか。話せば苦しめる事になると分かっていたけれど、やはり知る権利があると思ったから話したんだ」
「……っ」
向かいに座っていたギルバートはエリスの隣に座り直すと、彼女の身体を抱き締めながら落ち着かせるように言い聞かせた。
「……理由については分からないが、俺の憶測としては、元々アフロディーテはエルロットによって後妻になるよう仕組まれたのでは無いかと思っている。お前の母が亡くなったのは流行り病で間違い無いとは思うが、それをきっかけにエルロットは自分と繋がりのある女を王族に引き入れる事で、自分の地位を何とか出来ると考えたのでは無いだろうか」
「…………っ」
エルロットはタリムが一番の信頼を置いていて、とにかく優秀な人材だった。
それは城の者なら誰でも分かっていて、エリス自身もそう思っていた。
ただ、思い返してみればタリムが存命の頃は優しかったエルロットも亡くなった途端に人が変わったかのように冷たくなり、アフロディーテの忠実な下僕のように尽くしていたのも、今となっては二人が元から親密な関係だったからだという事なのだろう。
彼らの私利私欲の為に国王である父親が殺されただけでは無く居場所までも奪われ、更には利益の為に嫁がされた挙句にそれすらも裏があった事を知ったエリスはもはや言葉にならず、込み上げる怒りを抑えるのに必死だった。
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