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⚠︎︎夢
◽ホスト、なってみない?
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私の家には、もう誰もいない。
正確に言えば、待っててくれるのはテレビの中の男だけ。
毎日、同じ時間に同じセリフを言い、同じ顔で笑う。
そして、同じ様に死ぬ。
変わらない展開。変わらない結末。
それでも、どうしようもなく息が詰まりそうな夜、私はあの店に足を運ぶ。
カラン、とドアが開く。
「……また来たのか、ジユ」
淡々とした低い声が、入り口からいちばん近いカウンターから届いた。
見上げれば、柔らかい光の下でナムギュがグラスを拭いていた。
「へえ、今日も出迎えてくれるんだ」
ジユは軽く肩をすくめて笑った。
その声に疲れも酔いも滲ませず、どこかしら他人行儀なまま、席に腰かける。
「出迎えてるわけじゃない。……目立つから」
「ふーん? それって褒めてる?」
「どうだろうな。悪目立ちかも」
そんな会話を交わしながらも、ナムギュは手馴れた動きでジユのグラスを満たす。
「今日も一本?」
「んー、任せる。どうせ味なんか覚えてないし」
「……物騒だな、相変わらず」
「ナムギュって、口の利き方ほんと可愛くないよね」
「はは、そう言うジユも、毎回似たようなことしか言わないけど」
ジユはグラスに唇をつけ、ふっと目を細めた。
不思議なことに、このやり取りも、何度目かわからなくなっていた。
「ジユ、おまえホストやってみろよ。”女ホスト”ってやつ」
不意に後ろから聞こえた声に、振り返ると、サノスがいた。
派手な笑みを浮かべ、ソファにもたれている。
「は?なんであんたに言われなきゃいけないの」
「いや、似合うな〜って思ってさ。
オレのセニョリータが、ナムスの隣に立ってたら、映えるだろ?」
「……気軽にセニョリータ呼びしないで」
ジユはサノスを睨むでもなく、まっすぐにそう言った。
サノスは肩をすくめて笑ったまま、ナムギュの顔を覗く。
「なあ、ナムス。おまえもそー思わね?」
「ナムギュです……いや、まあ。似合うのは、確か、ですけど」
「ん?」
ジユがナムギュを見る。
「……本気で言われると、なんか照れるね」
「……照れてるようには見えないけど」
ナムギュは目を逸らしつつ、そう返す。
その言葉だけが、ジユの胸の奥にだけ、ちゃんと届いた。