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それはある日の放課後。
帰ろうと席を立つと、教室前方のドア付近で声が上がった。
「雫! 今ちょっといいかな?」
鞄を肩にかけて立ち上がった一ノ瀬に声をかける須藤。
須藤の声が響き渡り、教室がシンと静まり返る。
「なに?」
いつも通りぶっきらぼうに一ノ瀬が答える。
「実は今から彩花たちと勉強会することになったんだけど、雫もどうかな? ほら、中間テストも近いだろ? だからみんなで対策しようってさ!」
なるほど、一対一ではなくハーレムメンバーを使った作戦か。
現に参加メンバーだろう花野井や瀬那、葉月たちは心配そうに、そしてどこか不満そうに二人のことを見ている。
だが、相手はあの一ノ瀬。
「申し訳ないけど断らせてもらうわ。じゃ」
やはり断り、須藤を振り切って帰ろうとする。
「ちょっと待って!」
しかし、今日の須藤は引かなかった。
「……やっぱりさ、閉ざしちゃうのはよくないと思うんだ」
「え?」
「学校ってみんなで生きるものだろ? それに社会に出ても一人で生きていくなんてできない。……わかるよ、雫の気持ち。誰かと仲よくするなんて難しいし、怖いよね。仲良くできなかったらって考えたらさ」
果たして須藤にそんな経験があるのだろうか。
人望も厚く、みんなから好かれる須藤にそんな苦悩があるとは思えない。
「でも大丈夫さ。怖がらなくていい。彩花も宮子も弥生も、みんな優しくて素敵な子たちだ! 絶対に雫と仲良くできるよ!」
「北斗……」
「須藤くん……」
うるうると須藤に尊敬のまなざしを向ける花野井と瀬那。
須藤は爽やかな笑みを浮かべつつ、自信満々に続ける。
「それに俺もいる。俺は絶対に雫を嫌いになったりしないし、雫の過去にどんなことがあろうが、寄り添い続けるって誓うよ。だからさ――俺を、信じてくれないかな?」
さながら映画のワンシーンのように須藤は雄弁に語った。
誰にも心を開けない少女が、少年の手を取り救われるような、そんな物語。
「須藤くんカッコいい……」
「やっぱり須藤は本物のイケメンだな」
「いい奴すぎるよ、あいつ……!」
「素敵……!」
教室のあちこちから称賛の声が上がる。
しかし、俺にはとてもじゃないが周りと同じ気持ちにはなれなかった。
きっと今までの俺だったら漠然とすごいなと思うだけだった。
でも少しだけ一ノ瀬とかかわり、周りよりも少しだけ一ノ瀬を知っている。
「怖がらないでいいよ。ほら、こっちにおいで?」
きっと普通の女の子なら涙を浮かべながら須藤の手を取っただろう。
しかし、一ノ瀬は違った。やはり違った。
「お断りするわ。だって私、あなたの言うような悲劇のヒロインじゃないもの」
空気が凍り付く。
誰もが予想していなかった言葉で、須藤も同じだった。
「というか、この際だからはっきり言わせてもらうわ。しつこく話しかけるのやめてもらえる? わからなかった? 私、あなたのこと避けてるつもりだったんだけど」
さらに突き放すような言葉を重ねる一ノ瀬。
「あ、あはははっ。わかったわかった。大丈夫だよ、俺は……」
「そういうのじゃないから」
一ノ瀬がぴしゃりと言ってのける。
そして呆れたようにため息をつき、遂に言うのだった。
「というか私、言いたくなかったのだけど――あなたのこと嫌いなのよ。嘘臭くて信用できないわ」
ショックを受けたように固まる須藤。
そして一ノ瀬の言葉を聞いた誰もが息をのんだ。
「そういうことだから。ご厚意だけは受け取っておくわ。見当違いだけど」
何も気にする様子もなく、颯爽と教室から出ていく。
残された須藤は、ハッと我に返り取り繕うように苦笑を浮かべていた。
俺も逃げるように教室を出る。
――嘘臭くて信用できないわ
一ノ瀬の言葉がそれからもどこか引っ掛かっていた。
♦ ♦ ♦
※須藤北斗視点
「ばいばい! 北斗くん!」
「須藤くんまたね~!」
「じゃあね、北斗」
「うん! また明日~!」
三人に手を振り、背を向けて歩き出す。
顔に入っていた力を解くと、一気に脱力した。
「……はぁ~。だりぃな」
おっといけない。まだここは外だ。誰が見てるかわからない。
俺はあの須藤北斗だ。
学園では俺のことを知らない奴はいないし、もはや俺の顔は地域レベルに広まってるまである。
「……クックックッ」
自分の立ち位置に思わず笑みがこぼれる。
おいおい待てよ。俺ってすごすぎるだろ!
歩けば女の子が黄色い歓声を上げて、俺に好意のまなざしを向けてくる。
おまけに? 今日も学園の美少女四天王のうちの三人と一緒に帰ったし?
ヤバいだろ俺モテすぎだろ!
……まぁ、当然と言えば当然だ。だって俺だぞ? 須藤北斗だぞ? 女に関して困ることなんてありえない。
あいつら三人、間違いなく俺のことが好きだろうな。
これまで出会ってきた中で間違いなくトップクラスの容姿。
それに全員スタイル抜群。宮子は抜群にエロいし、きっと技術もとんでもないはずだ。
彩花もあの爆乳に太もも。初心な感じもまたいい。
俺が好きなだけ弄んで、教育してやるのもいいな。
弥生のあの天然な感じも最高だ。
あれは強引に行くのが間違いなくそそる。
それに体も……申し分ないな。
いつが食べごろかな。
あわよくば三人同時に行きたいところだし……いつも通り策を練るしかなさそうだ。
その時のことを想像して思わずニヤける。
しかし、手放しに喜べる状況じゃなかった。
そうだ、あいつだ。
「雫……」
あいつのせいで、完全に俺の計画が台無しだ。
美少女四天王を全員落とす。
しかも雫は四天王の中でも抜きんでたオーラがある。あれは一生に一度出会えるか出会えないかのレベルの美少女。
だから狙ってたのに……なんで俺に見向きもしねぇんだ。
しまいには……。
――というか私、言いたくなかったのだけど――あなたのこと嫌いなのよ。嘘臭くて信用できないわ
思い出すだけでイライラしてくる。
俺だぞ? 須藤北斗だぞ?
なのになんでオチないどころか嫌いとか言われなきゃいけねぇんだ!
それにあんなクソ陰キャとは話しやがって……!
「九条良介……クソッ!!!」
フラストレーションがたまってくる。
……このままじゃいけない。
「…………発散しとくか」
「んっ! あぁんっ! 北斗! ちょっ……あっ!」
女を支配しながら、快楽に溺れる。
俺にされるがままの女はとろけるような顔で喘いでいた。
その顔と甘い声でさらに興奮し、ストレスも乗せて女にぶつける。
「クソッ! クソがッ!!!」
「あああぁんっ! 北斗っ!!!」
絶対に許してたまるか。
俺が、俺様が敗北したままで終われるか。
「……でもまぁ、嫌われた状態から崩すのも悪くねぇか。いつも好感触スタートだしな」
「ほ、北斗……? どうしたの?」
「なんでもねぇよっ!!!」
「ああんっ!!!」
俺にできないことなんてない。
それも女を落とすことに関してはこれまで百発百中。
雫も簡単に落としてやる。その後はこの女以上に……クックックッ。
今に見てろ、雫……!
「アハハハハハハハッ!!!!」