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体を硬らせるピアーニャ。
しかしアリエッタは、ピアーニャを抱擁し、頭を優しく撫で始めた。
(よしよし、いいこいいこ。もうイタズラしちゃだめだぞ)
「なっ……もしかして、ゆるしてくれるのか?」
アリエッタの心の言葉とピアーニャの生の言葉では会話は成り立つが、内容はかなりかけ離れている。
そもそもアリエッタは、何の話をしているのかも分かっていないのだ。ただ謝って落ち込んでいる小さい子を、慰めようと行動しているだけである。
「うぅ……やっぱりアリエッタちゃんはとっても良い子です」
「そうですね……それだけに今回の事が悔やまれます」
言葉が分からないという事に慣れていないリリとロンデルは、当然のように勘違いして感銘を受けている。
数日で慣れてきているミューゼとパフィだけが、この状況に疑問を持っていた。
「ねぇパフィ……もしかしてとは思うけど」
「私もなんとなく妙な予感がしてるのよ……」
(今の僕にだって出来る事はあるからね! まずは小さい事からコツコツだ!)
やる気が出たアリエッタは……そのままピアーニャを抱っこして、ミューゼ達の対面のソファにピョンと座った。そして膝の上のピアーニャを、撫で始めた。
(おっと、撫でるだけかと思ったのに、まぁアリエッタより小さいもんね)
(思った通りなのよ……)
アリエッタの行動を理解した2人は困り笑顔に、他の3人は目が点になっていた。
「…………え? なんで?」
(この子の事は任せて! 2人はそっちの偉い人と話してて!)
今抱いている人物が一番偉いなどとは、知る由も無く、知る事も出来ないアリエッタは、自信満々な顔でミューゼ達を見て、子守を始めた。
抱っこされて、撫でられて、手をヨイヨイと上下に動かされている最年長者のピアーニャは、自分の置かれている状況が理解出来ない。
振り解いて降りる事も出来るが、相手は子供、力で抑えるのは問題、言葉は通じない、何も危害は加えられていない、そして巻き込んだ罪悪感…と、いろんな考えが頭に浮かび、動く事を躊躇ってしまう。
(よしよし、ちゃんと大人しく出来て、いい子だねー)
「……ど、どうしたらいい?」
困り果てたピアーニャは、とりあえずパフィに助けを求めた。2人一緒の時は、大抵年上のパフィに話が振られる。
聴かれたパフィは少し考え……
「そのまま頑張ってください」
良い笑顔で答えた。
「うぉい!? おまえたちセットクできんのか!?」
「無理ですよ、通じないのに」
「私達としては羨ましいのよ」
ピアーニャは最後の希望とばかりに、ロンデルを見た。
目が合ったロンデルは、一筋の汗を流した後、しれっとパフィ達の方に向き直る。
「えー、謝罪の理由としては以上です」
「まて! たすけてくれぇ!」
「逃がして巻き込んでしまったのは事実なので、シーカー同士であろうとも謝るべきですから」
「まぁそういう事なら、謝罪は受け取っておくのよ」
3人はピアーニャをアリエッタの生贄にする方針に決めた。
なお、リリは暖かい目で小さい子2人を眺めている。
(あぁ、だめだめ可愛すぎる。抱っこされる総長とかヤバイでしょ。アリエッタちゃんのお陰で、もう子供にしか見えないよ)
(なんだか妹が出来たみたいだな~。どうやって名前教えてもらおうかな)
リリに見守られながら、もう仲良くなる気満々のアリエッタ。ずっと頭を撫でている。
「うぅ……わち、オトナなんだぞ?」
そんな説得力の無い言葉も、アリエッタには全く通じない。
アリエッタに大人である事を伝えるには、言葉以外で伝えるしかないのだ。どう頑張っても不可能である。
子供同士のじゃれ合い?をよそに、ロンデルは話を進めていった。
「お二人の治療費は、当然本部持ちです。戦闘によって壊れた物も、本部が弁償します」
「ありがたいのよ」
「大怪我だったからね。借金まみれになったらどうしようかと思った」
「こちらのミスで巻き込んだのに、そのまま放置なんてしませんよ。組員としての仕事もあるでしょう?」
真面目な話をする3人を、アリエッタの膝の上から恨めしそうに眺めるピアーニャ。
そんな幼女を宥めるべく、リリが動いた。
「はい、アリエッタちゃんとピアーニャちゃんにジュースのおかわりよ」
「おいっ!?」
「はいっ」
2人とも元気に返事をした。アリエッタは返事の仕方を覚えたばかりで嬉しいのだ。
もちろんピアーニャは、そんなわけないが。
(キミもよく出来ましたねー。偉いなぁ)
返事が出来た幼女を笑顔で撫でる新米おねえちゃん…という構図に、間近で見ているリリの心は癒され、穏やかに……ならなかった。
(ふおおおお!! 何この可愛い生き物達! 私もうここで転げ回りたい! もしやこれが母性? 私の中に眠る欲望!)
興奮して、歪んだ解釈を始める美人受付嬢リリ。
そんなまったく噛み合わない3人の横では、順調に話が進んでいた。
「では、アリエッタさんへの謝罪の気持ちと、あの生物を止めてくれた報酬として、これくらいで」
「わ、こんなに?」
「私達がやったんじゃないのよ?」
「ええ、ですからあの子の生活費として、管理してあげてください。気になる事も多いですし、我々も協力しますよ」
ロンデルが言う気になる事とは、アリエッタの力の事である。
本人に聞く事が出来ない以上、監視する者が必要と考えたピアーニャとロンデルは、パフィ達を保護観察役にする事と、それを可能にする程度は支援するべきと考えた。
「なるほどなのよ。たしかにアリエッタのあの力は気になるのよ」
偉い人が協力してくれるという時点で、パフィはその理由まで察知していた。
「アリエッタさんには特に申し訳ない。この事は、ここにいる我々5人しか知りませんので、何かありましたら受付のリリに申し付けてください」
「今後もよろしくお願いしますっ」
話を聞いていたリリは、テンション高く応えた。ヨダレを垂らしながら。
「よろしくなのよ。リリなら安心なのよ」
「ある意味不安だけどねー」
もう既に2人の中では、リリは「頼りになる残念な美人受付嬢」という地位に落ち着いている。
アリエッタが関わるとおかしくなっているが、仕事面では非の打ち所が無く、実は男性シーカーからの人気も高いのだ。
それで何故彼氏が出来ないのか……それには彼女自身の多忙さと、シーカー達との接点はカウンター越しという事。なによりも『高嶺の花』扱いされていて、声をかけてくる男性が少ないという悲しい環境が、リージョンシーカーという組織に存在していた。
「さて、用件は終わりましたが、お二人はこれから何かご予定はございますか?」
「いえ、特にないですよ」
「でしたら6人で食事に参りましょう」
特に反対する理由も無かった為、パフィは快く頷いた。
一緒にロンデルが贔屓にしているニーニルのレストランへ行くのだが……
「な、なぁ。どうやったら、はなれてくれるのだ?」
「アリエッタが嬉しそうなので、諦めてください」
ピアーニャはアリエッタに手を繋がれて、困った顔で大人達を見上げ、そしてあしらわれた。
もうどこからどう見ても、小さな姉妹にしか見えない。
(今からどこに行くか知らないけど、この子は僕が守るよ!)
「ふふふ、あ、そーだ」
アリエッタのやる気を感じ、ミューゼはある事を思い出した。
そしてピアーニャを指差して、
「ピアーニャ」
「ぴあー…や?」
「ぴ・あー・にゃ」
「ぴ…あーにやー」(むむ…ちょっと難しいな)
「惜しい、ピアー・ニャ!」
「ぴあー…にゃ」
「よしよし」
ミューゼが撫でると、次は自信を持って、
「ぴあーにゃ!」
「よくできましたー♪」
ピアーニャの名前を教えてもらったアリエッタは大喜び。
少しの間、何度も名前を呼びながら、ピアーニャの頭を撫で回した。
「うう……なんでわちがこんなアツカイを……」
その問いには、敢えて全員答えなかった。そのかわり、
「それでは参りましょうか。ピアーニャちゃんはアリエッタさんを離さないように、ついてきてください」
「ロンデルおまえっ!」
「2人が迷子にならないように、あたしがアリエッタの片手を繋ぐね」
「先を越された! じゃあ私はピアーニャちゃんと繋ぎます」
「おまえら、わちをコドモあつかいするなっ」
この状況で、子供扱いしないのは無理である。
結局4人並ぶと邪魔なので、大人達は小さな子2人を見守りながら、ゆっくりと歩いてレストランへと向かう。
当然ニーニル支部ではピアーニャが総長だという事は全員知っていた為、驚いた後に笑いを堪える人が多数発生。ピアーニャが睨みつけて仕事へと逃げていくという事が何度かあった。
しかし後日、そんな事は些細な事とばかりに、とんでもなく可愛い幼い姉妹がリージョンシーカーの施設から手を繋いで出てきたと、町のあちこちで話題になってしまうのだった。