コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
II話の続きです!
※今回も未成年の飲酒表現注意です。良い子も悪い子も、大人な事は大人になってからです!
誤字脱字、おかしな文章があれば教えて下さると嬉しいです!
案内された席に座る。トイレに行きたい時や、取りに行きたい物が出来た時に、早く席を離れられると楽だから、通路が隣の位置に座る。
(通路)→俺→ヘンテコ前髪野郎→茶髪の奴
と言う感じの並びで座っている。因みに、担任は向かい側の席だ。
(伽羅さん)「さぁ!どのお肉が食べたいですか?」
(茶髪の奴)「日本酒下さーい。あ、辛口の日本酒で。」
(強面担任・五条)「だから……やめろって言ってるだろ…。」
(ヘンテコ前髪野郎)「家入さん…。未成年で飲酒してはいけないんだよ…。流石に知ってるよね…?」
(茶髪の奴)「知ってる知ってる。」
「この日本酒お願いします。」
知ってると言いつつ、茶髪の奴はメニュー表にある日本酒を指差して注文を続ける。
「フンッ」
俺は、無言でメニュー表を奪い取る。
(茶髪の奴)「あ、ちょっと。返してよ〜まだ注文してるのに。」
俺が奪い取ったメニュー表を取り返そうと、茶髪の奴は手を伸ばしてくる。俺は、取られない様に、メニュー表を持っている手を上に伸ばす。
「はぁ…。ダメだって言ってんだろ。飲むな。」
(茶髪の奴)「えー。酒を楽しみに来たのに。」
「さっきからやめろって言ってるけどな…?」
すると、茶髪の奴は俺の手にあるメニュー表に手を伸ばすのは諦め他のメニュー表に手を伸ばした。だが、そんな事もあろうかと事前に回収済みだ。すると今度は、茶髪の奴は別の席のメニュー表を取ろうとする。それもいち早く察知し、既に、近くの席のメニュー表は全て回収していた。メニュー表を巡り、俺達は激しい攻防を繰り広げていた。
(伽羅さん)「えっと、取り敢えず、おすすめのお肉を持ってきたわ!」
(強面担任・ヘンテコ前髪野郎)「ありがとうございます。」
(伽羅さん)「これ、網ね。」
「網は焦げちゃったら言ってね!すぐ変えの網を持ってくるから。」
「それでは、ごゆっくり!」
(強面担任)「それじゃあ、もう焼き始めるぞ。」
(ヘンテコ前髪野郎)「私が焼きますよ。」
(強面担任)「いや、いい。これはお前達の為の打ち上げなんだから。」
(ヘンテコ前髪野郎)「良いんですか?ありがとうございます。」
(茶髪の奴)「先生ー。酒が飲みたいんですけど。」
(強面担任)「はぁ…ダメだとさっきから言ってるだろ。」
担任にも止められ、茶髪の奴はようやく諦めた様だ。俺は、他の席から回収したメニュー表を返しに行こうと席を立つ。
(伽羅さん)「沢山のメニュー表を持ってるけど、どうしたの?」
メニュー表を、元の席に返しながら歩いていると、伽羅さんに声を掛けられた。
「あー、酒を飲もうとする馬鹿のせいだよ。」
(伽羅さん)「あらあら、馬鹿なんて言っちゃダメよ。」
そこで会話が途切れた。静まり返り、どんどん気まずくなって行く。
「…じゃあメニュー表、戻してこないとなんで。」
踵を返して、その場から離れる。
(伽羅さん)「あ、ちょっと待って!」
「あの…少し、お話ししない?」
「…良いけど。」
そう言うと「ありがとう。」と伽羅さんは微笑んで言った。伽羅さんに着いて行くと、カウンターが有り、なんだか洋風で、お洒落な雰囲気が漂う空間があった。焼肉屋さんには、本来、カウンターは無いだろうが、内装が全てお洒落で、カウンターがある事にも、不思議と違和感を感じない。先程の所よりも、少し大人びた雰囲気にはなっている。
(伽羅さん)「そこに座って待っててね!ちょっと、飲み物とってくるから。」
少しだけ話そうと言っていたが、なんだか長話になりそうな気配だ。と言っても、話す事なんてあまり思い浮かばないのだが、一体何を話すのだろうか。
(伽羅さん)「ごめんね!お待たせしました。」
目の前に、グラスに注がれたジンジャーエールが差し出される。
(伽羅さん)「ジンジャーエールで大丈夫?」
「うん。大丈夫。」
(伽羅さん)「なら良かった。」
「それで、少し話すって言ってたけど。」
会話が、また途切れる前に話題を切り出す。
(伽羅さん)「うん。悟君ってさ、もう一緒に任務に行く相棒とかって決まってたりするのかな。」
「まだ、だけど、多分あの変な前髪の奴になると思う。」
(伽羅さん)「そっかぁ。」
「伽羅さんも居たの?相棒とか。」
(伽羅さん)「うん。…居た。」
「呪術師してたのなんて、もうずっと前だけどね。」
「…あのさ。聞けたらで良いんだけど、何で呪術師辞めたの?」
彼方からこの話題を出してきたのだ。聞いても良いだろう。
(伽羅さん)「相棒がさ、死んじゃって。」
「……。」
こう言う話は、何度も聞いてきた。五条家に居た時も、呪霊を祓い始めた時も、高専に入る時も、呪術師なんて、誰が、何時死ぬか分からない。常に死と隣り合わせだ。それを理解した上で、呪術師をやっていると、呪術師の誰もが言う。死は覚悟の上でやっていると。それでも、実際に呪霊や、仲間の死を目の当たりにして、呪術師を辞めていった人間は何人も居る。
「ごめん。」
(伽羅さん)「謝らなくって良いよ。この話を切り出したのは私なんだから。」
そう言われても、気にしてしまう物だ。呪術師を辞めるに至る程、大事な人だったんだろう。
「……。」
(伽羅さん)「良い子だったんだ。呪霊に襲われて、怖い思いした人の事とかめちゃくちゃ気にかけて、精一杯励まそうとして。襲われた人の為に本気で怒る子だった。」
「うん。」
伽羅さんは、何時の間にかラム酒の入ったグラスを手に持っていた。グラスを傾けながら、伽羅さんは話し続ける。
(伽羅さん)「優しいけど、強い子で。安心して背中任せられるの。」
「すげぇ信頼してたんだね。」
そう言った途端、伽羅さんの表情が、暗い翳りを纏った。
(伽羅さん)「……うん。そうだね、信頼してた。信頼してたからこそ、気づかなかったの。あの子なら、大丈夫だと思ってた。強いから、大丈夫だって思ってた。…でもね、そんな事無かった。…大丈夫じゃ無かった…。」
「でも、私は、あの子が死んじゃうまで、あの子が無理してる事に気づけなかった。何時も、大丈夫な様に振舞ってたんだって、後から気づいて…。」
早くも、お酒が回って来ているのだろう。段々と声量が落ちて行く。俯きながら、伽羅さんは続ける。
(伽羅さん)「気づいた時には、遅かった。もう取り返しなんてつかなかった。……あの子が頼れなくなる程、私は…あの子に頼ってたんだね…。」
「こんなの、信頼じゃ無い…。」
強くても、呪術師を辞めて行く人がいる。結局、どれだけ強くても真面だとダメなんだ。イカれている人間しか残らない。どれだけ防災訓練をしても、それは所詮、訓練だ。実際に災害が起きたら、パニックになるだろう。それと同じ事だ。実際に災害が起きても、パニックにならないで、冷静に動ける奴が生き残れるように。呪術師だって、実際に呪霊と戦っても冷静でいられる奴、実際に死体を目の当たりにしても、取り乱さない奴、実際に仲間が目の前で死んでも、戦うことができる奴、そう言うイカれている人間しか残らない。真面では居られないし、真面な儘、続けられる場所じゃ無い。
仲間を、此処まで大事だと思える人だ。きっと、呪術師には向いてなかったんだろう。相棒が死んだ事で、自分を責めてしまう人だ。呪術師をするには、優し過ぎたんだ。
(伽羅さん)「私のせいで、あの子は……。」
「殺したのは呪霊だよ。」
(伽羅さん)「それでも、私は。あの子が弱音を吐け無い原因だった……。」
「相棒なんかじゃ無い…。ただ、私が、あの子に一方的に依存してた。」
「私の自分勝手な考えで、あの子を苦しめてた。」
「……ずっと、ずっと…無理させてたよね。私ばっかり、何時も助けてもらって。」
伽羅さんは、グラスの中のラム酒に視線を落として、此処には居ない誰かに、小さな声で話しかける。
(伽羅さん)「気づくの遅すぎだよね…。もう、取り返しのつけようが無い。」
ぽつり、ぽつりと、止めど無く、後悔の言葉が零れる。持ち上げていたグラスを、机の上に置く。グラスを持っている手は、力が入っていない。段々と体勢が前のめりになり、グラスに触れていない左手に頭を乗せ、伽羅さんは、カウンターに打っ伏してしまった。
「…伽羅さん?」
(伽羅さん)「………んね……ゃ……。」
「ん?」
(伽羅さん)「ご…めん…ね………ちゃ…ん……。」
俺の呼び掛けに返って来たのは、もう居ない相棒へ向けた、届く事の無い、謝罪の言葉だった。