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III話の続きです。悟君と傑君の距離を縮めて行きたいです…。展開が遅くてすみません!
※嘔吐表現有り。グロテスクな表現もあります。
「伽羅さん?」
遂に、呼び掛けても、何の反応も無くなってしまった。静かな呼吸音だけが聞こえていた。
「……。」
伽羅さんは眠ってしまった様だ。と言うのも、ラム酒はアルコール度数が高いお酒だ。酔眠してしまうのは、無理も無い話だ。
「…まぁ。その内、起きるでしょ。」
俺は、まだ口をつけていなかったジンジャーエールのグラスを、口に運ぶ。甘味はあるが、案外、さっぱりしている。炭酸が抜けて来ていたんだろう。パチパチと、優しく弾ける泡が爽快だ。ゴクゴクと、あっという間にジンジャーエールを飲み干した。空になったグラスを、俺は呆然と眺める。不意に、さっきの会話を思い出した。
変だと思った。「ごめんね。」だなんてもう死んでいる相手に謝罪した所で、その謝罪の意思なんて、空気に溶けてしまうだけなのに。本当に伝えたい相手に届くことなんて無いのに。
何れ、分かるのだろうか。他者を大切に思う心と言うのは。俺には、よく分からない。
「何かなぁ…。」
左胸をグッと握る。この左胸の苦しさも、よく分からない。心臓内科でも、行ったほうがいいだろうか。左胸に、正体不明の苦しさが残った。
担任の居る席に戻ろうと席を立ったが、流石に、伽羅さんを此の儘にはして置けない。
「っと、起こさねェと。」
「伽羅さん?おーい。伽羅さーん。」
(伽羅さん)「………。」
「……起きねェし。」
仕方が無いので、取り敢えず、広い席に運んで、寝かせる事にした。
「とは言え、どうやって椅子から降ろすか…。」
(ヘンテコ前髪野郎)「あ、ここに居たのか。」
「五条君。ご飯食べないのかい?」
どうしようか悩んでいたら、丁度良い所にヘンテコ前髪野郎が現れた。
「おお!良い所に来たな!」
(ヘンテコ前髪野郎)「え、君に笑いかけられるとか不気味…。一体、何だい…?」
「お前、失礼すぎるだろ。」
(ヘンテコ前髪野郎)「君にだけは言われたく無いね。」
「ア”?」
「……あ”ー…。こんな事言ってる場合じゃねェわ。ちょっと手ェ貸せ。」
(ヘンテコ前髪野郎)「人に物を頼む態度じゃ無いだろう……。はぁ…。何を、私に手伝えって?」
「一々うるっせェなぁ……。はぁ”…。伽羅さんが寝ちゃったんだよ。だから、俺達が座ってる席みたいな、広い椅子に寝かしたいんだけど、俺一人じゃ運べねぇから、手伝え。」
(ヘンテコ前髪野郎)「…。」
ヘンテコ前髪野郎は、目を見開いて、驚いた様な顔をする。何も変な事は言って無いと思うんだが…。
「ンだよその顔。」
(ヘンテコ前髪野郎)「ふふ。いや、別に。分かったよ。手伝ってあげるよ。」
何を笑っているのだろうか。本当、変な奴だ。
「まず、伽羅さんを椅子から降ろしたいんだけど、俺が椅子から降ろすから、お前は、伽羅さん支えろよ。」
(ヘンテコ前髪野郎)「あぁ。分かった。」
「おーい。伽羅さん?」
(伽羅さん)「………。」
「…っぱ、寝てるよな…。悪いけど、ちょっと動かすよ。」
俺は、伽羅さんのお腹に手を回して、椅子から動かす。
(ヘンテコ前髪野郎)「よっと…。」
首に、伽羅さんの腕を掛けて、脇腹を支える形で、ヘンテコ前髪野郎と二人で、伽羅さんを寝かせられる広い席へ向かう。
「よいせー…。」
伽羅さんが起きない様に、慎重に寝かせる。
(ヘンテコ前髪野郎)「私は水を持ってくるよ。」
「水?何で。」
(ヘンテコ前髪野郎)「アルコールを分解する成分を、体から出す為だよ。」
「へぇ〜…?なんかよく分かんないけど。」
「お前、詳しくね?酒飲んだ事あんの?」
(ヘンテコ前髪野郎)「ある訳無いだろう。未成年は、飲酒してはいけないからね。」
「いや、お前なら飲んでても不思議じゃ無い。」
(ヘンテコ前髪野郎)「どうしてだい?」
「見た目がなんか飲んでそう。柄悪い。」
(ヘンテコ前髪野郎)「それ、君が言う?」
「まぁいいや、水持ってくるから待ってて。」
そう言うと、ヘンテコ前髪野郎はくるりと踵を返して、水を取りに行った。
(伽羅さん)「ゔ〜…ッ」
水を取りに行ったヘンテコ前髪野郎が帰って来るのを待ってる間に、伽羅さんが、苦しそうな唸り声を上げた。
「ん?伽羅さん?どした?」
(伽羅さん)「気持ち悪い…。」
「え?」
(伽羅さん)「き”も”ち”わ”る”い”……ッ」
「吐きそ”う”…ッッ」
唐突に、吐き気がすると、伽羅さんが言い出したのだ。
「は?!待って待って!!ちょ…ッッ、え?!」
(伽羅さん)「ゔゔゥ”…ッッ」
「ま、ままま、待て!!待って待って!トイレトイレ!!!」
(伽羅さん)「ゔゔゥ”ゥ”ゔ……ッッ」
その後は、かなり騒がしかった。水を持って帰って来たヘンテコ前髪野郎が、吐いている伽羅さんを見て取り乱して、その騒ぎに釣られて、茶髪のやつと、担任まで、慌てて駆けつけて来た。伽羅さんの状態と、取り乱した俺達を見て、担任まで慌てていた。唯一、茶髪の奴だけ慌てていなかった。茶髪の奴のお陰で、ただ、お酒に酔っただけだと言うことが分かり、その場は落ち着いた。
打ち上げどころでは無くなってしまったので、後日、改めて再度打ち上げをする事になった。初任務、初打ち上げで、早々にハプニング勃発だ。
ー翌日ー
「ふあぁ…。ねみ……。」
俺は、高専の寮で生活をする事にした。今日から、本格的に任務が入って来る。呪術師は、常に人手不足だ。俺は、高専に入る前から、呪霊を祓ってたし。そう言うことも有り、早速任務が入っている。因みに、しっかりと授業もある。数学や、国語の一般科目。呪術に関する座学や、体術等も有る。そこはしっかり学校をしている事に、かなり驚いた。
「あ”ー……怠い…。」
任務だけじゃ無く、授業もしっかりやるなど普通に怠い。それに、やはりあの、ヘンテコ前髪野郎と二人で任務をする事になった。すごく怠い。怠いが、遅刻すれば、面倒臭い事になって、更に怠くなるのは目に見えている。ベットにしがみ付こうとする身体を起こして、顔を洗いに、洗面所までダラダラと歩く。顔を洗って、適当に髪を梳かす。歯を磨いて、制服を着て、机に放置されていた、いちごミルク味の飴を口に入れたら、持ち物を適当に詰め込んだ鞄を持って、部屋を出た。
廊下の窓から、ふわりと太陽の光が入って、心地よく暖かい。窓の外には、今日も緑が広がっていて、何にも無い。高専の周りの木々は、生え放題で、荒れているわけでは無いみたいだ。結構、手入れが行き届いている。さわさわと木々が擦れ合う音がする。今日も、相変わらず高専は穏やかだ。
ガララ
俺は、無言で教室へ入る。この教室を見るのも二回目だ。違和感は感じるが、驚きはしなくなった。これが教室かと、ツッコミたくはなる。
(ヘンテコ前髪野郎)「あ。おはよう。」
「……。」
(ヘンテコ前髪野郎)「無視かい?」
「だって挨拶すんの面倒くせェし。」
(ヘンテコ前髪野郎)「はぁ…。」
「なんだよ。」
(ヘンテコ前髪野郎)「あのねぇ。面倒臭くても挨拶は返す物だろう。」
「本当にお前は、一々うるせェなぁ。」
(ヘンテコ前髪野郎)「一々うるさく言われない様に、気をつければいいだろう。」
「ア”?るっせぇ。」
本当にコイツは、一々うるさい。何で、そこまで干渉して来るのだろうか。遅刻しなくても怠い事になるとはな。
またギスギスした雰囲気になり始めていた。
(強面担任)「おい。お前ら朝っぱらから喧嘩するな。」
喧嘩になりそうな一歩手前で、担任からの制止が入る。
(強面担任)「もう聞いていると思うが、これからは、お前ら二人で任務に当たってもらう。」
「…。」
(ヘンテコ前髪野郎)「…。」
ヘンテコ前髪野郎の方に視線を向けると、彼方も、俺の方に視線を向けていた。ヘンテコ前髪野郎は、コイツとやるのか…。とでも言いたげな顔だ。こっちもお前となんかごめんだよ。と言う念を込めて、ヘンテコ前髪野郎を見つめる。
(強面担任)「何だその顔は。」
(ヘンテコ前髪野郎・五条)「「やー、別に。」」
(強面担任)「任務の説明に移るぞ。」
「今回、お前達には工事現場に行ってもらう。」
「安全管理がしっかりしていなくて事故死が多発していたそうだ。だが、現場責任者が、死人がこんなにも出るのは幽霊の仕業だと言ったらしく、其処の工事は、途中で放棄された。だが、近々、そこの近くに店を建てる事になっている。だから、今日は其の工事現場の視察に向かって欲しい。」
(ヘンテコ前髪野郎)「なるほど。」
(強面担任)「事故死が多発していたのは、現場責任者の、安全管理がしっかりしていなかったのが原因だ。だが、死人が出ている場所だからな。呪霊がいたら、即祓え。何も無ければそれでいい。呪霊の姿が確認出来なくても、何か、違和感があれば報告しろ。以上だ。」
(ヘンテコ前髪野郎)「分かりました。」
「ん、りょーかい。」
(強面担任)「補助監督は、高専の近くで待っている。」
(ヘンテコ前髪野郎)「分かりました。では、失礼します。」
ヘンテコ前髪野郎に続き、俺も教室を出る。
高専を出ると、すぐ近くに、補助監督の乗った車が待機していた。
(ヘンテコ前髪野郎)「彼処の車だね。」
「ん。」
車に近づくと、近づいて来た俺達に気づいた補助監督が、車から出て来る。
(ヘンテコ前髪野郎)「こんにちは。」
(補助監督)「こんにちは。今回は、私が同行させて頂きます。」
(ヘンテコ前髪野郎)「よろしくお願いします。」
ヘンテコ前髪野郎は、丁寧に会釈をして挨拶をする。補助監督も会釈を返す。
(補助監督)「今回の任務の説明はもう受けていると存じますが、私からも御説明させて頂きます。」
補助監督からの説明は、担任からの説明と、同じ内容だ。二度も言われなくても、分かっている。
(補助監督)「危ないと思ったら、直ぐに、其の場から逃げて下さい。」
(ヘンテコ前髪)「分かりました。」
(補助監督)「それでは、車にお乗り下さい。現場に向かいます。」
補助監督の運転する車に乗って、現場に向かう。
(補助監督)「此処です。」
補助監督が、車を止めた。
(ヘンテコ前髪野郎)「此処ですか。」
(補助監督)「はい。此処が、今回の視察現場の工事現場です。」
車から降りると、まぁまぁの規模の工事現場が有った。ガバガバの安全管理をする様な阿呆に、何故、現場責任者など任せたのか、不思議だ。放置されてから、かなりの時間が経っているのだろう。工事現場は荒れていた。工事現場の周りを覆っているブルーシートは、劣化して破れている。足場らしき所は、もう錆びていて、全体的に茶色くなっていた。
(補助監督)「それでは、帳を下ろします。」
俺達が、工事現場の中へ足を踏み入れると、補助監督がそう言った。
(補助監督)「何度も言いますが、危ないと思ったら、直ぐに逃げて下さい。」
(ヘンテコ前髪野郎)「はい。」
(補助監督)「ご武運を。」
「闇より出て闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え。」
真っ黒な幕が、工事現場の全体を覆い始める。
工事現場を見た時から分かっていたが、此処には、居る。それも、かなりの数だ。だが、低級の呪霊ばかりの様だ。そこまで警戒する必要は無いだろう。
(ヘンテコ前髪野郎)「んー、居るね。」
「あぁ。」
「まぁまぁ居るみたいだけど、全部雑魚だし、大丈夫だろ。」
(ヘンテコ前髪野郎)「油断は禁物だよ。塵も積もれば山となるって言うし。」
グア”ッッ!
右横の、鉄骨の影から、呪霊が俺を目掛けて飛びかかって来た。
だが、蒼で捻り潰せば終わりだ。大体、攻撃は当たらないしな。
グシャァァ”ッッ
捻り潰され、もはや形すらも分からなくなった肉片が、地面にベシャッと音を立てて落ちる。
「ハッ。塵は、所詮積もっても塵だろ。」