音を立てて崩れる漆喰の壁。燃え盛る火に逃げ惑う人々。
「あぁ、神様…どうか、どうか…」
今の国の体制に、不満を感じた者たちが起こしたクーデターは、多くの人を巻き込み、傷つけ、結局は国を滅ぼすことになる。
しかし、それを知らぬ当事者達は神に祈り、救いを求める。
彼女も、その1人だ。
教会という神聖な場で働く彼女も、今の悲惨な状況下ではスラムにいる狡い大人たちと変わらない。誰だって殺される立場なのだ。
遠くで聞こえる罵声と悲鳴。鈍器が肉を裂く音。
隠れて震える彼女の手を握るのは、孤児の子供。まだ読み書きもできない、幼い子だった。
「見つけたぞ!!!悪しき神の遣いだ!!!!」
物置の扉が開かれて、叫ばれる。幼い子を背中に隠し、どうにかしてこの場から逃げようと考える。
「まずはそこのガキからだ。」
そういう大人は抵抗する彼女を突き飛ばしてその小さい首を掴む。じたばたと暴れることに腹がたったのか、手に持つ剣で心臓を貫く。ぐたりと下がる手足とぽたぽたと落ちていく血液は床に血溜まりを作っていく。
「あ…あぁ…」
目の前のことを淡々と見せつけられ、彼女は思う。
神なんて存在しないのだ、と。
人間が望むものを付箋のように貼り付けていった偶像に過ぎない。都合のいい道具に仕立てあげたのは穢らわしい者たち。そう思ってしまえば、あとは簡単で。彼女は、そっと、立ち上がった。
あれからどのくらいの時が経ったのか。気づけば辺りはなにかが焼け焦げた臭いと、血の匂い。彼女は黒く澱んだ目のまま、幼い命の抜け殻を抱きしめる。2人で並んで横に寝転ぶ。
彼女は、静かに、動かなくなった。
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