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あいう
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#cp要素あり
S✩.*˚
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沙彩
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キャプションをお読みの上、ご覧ください。kr嫌われが起こって、その後の話です。自傷、暴力やいじめのような描写があります。
pnkr
刺傷、出血等のひどいシーンがあります。
あれから数日、クロノアさんとは少し気まずい時間が続いていた。
部屋を訪ねれば、いつものように名前を呼んでくれる。俺が話しかければ返事もしてくれるし、笑ってくれることだってある。それなのに、ふとした瞬間に言葉が途切れることがあった。
たぶん、俺のせいだ。
この前、クロノアさんに自分を責めるのをやめてほしくて強く言い過ぎた。あの時は、どうして伝わらないんだと思っていたけれど、今になって考えれば、俺が口にした言葉は、クロノアさんにとって俺が思っていた以上に重かったのかもしれない。
「もう、自分を責めないでください」
あれはお願いだったはずなのに。
クロノアさんは、もしかしたらそれを、俺が許したこと以外はしてはいけないという意味まで含めて受け取ってしまっているのかもしれない。
そんなことを考えていると、何を話していいのか分からなくなった。
明日こそは、ちゃんと話そう。そう決めて、もう何日も踏み出せずにいる。
夜、いつものように自分の部屋で過ごしていた。静かな家の中で、何となく手元のものを眺めていると、廊下の方から小さな音がした。
何かが擦れたような、かすかな物音だった。
「……ん?」
顔を上げる。
しばらく耳を澄ませてみたけれど、それきり何も聞こえない。
気のせいかと思って、また手元へ視線を戻した。
けれど、少ししてから、今度は遠くで何かが倒れたような音がした。 さっきより大きい音。
「…何だ?」
立ち上がって、廊下へ出る。
静まり返った家の中に、自分の足音だけが響いた。音のした方へ目を向けると、廊下の先は暗い。何かが動く気配もない。
そのまま少し待っていると、今度は遠くから、誰かが走っているような足音が聞こえた。
一度だけ。
それから、急に遠ざかっていく。
「……」
胸の奥がざわついた。
あの方向には、
__クロノアさんの部屋がある。
気づいた瞬間には、もう走り出していた。
廊下を曲がって、さらに奥へ進む。何度も訪れている場所なのに、今は妙に遠く感じる。早くしないといけない。何かあったのかもしれない。
そう思うほど足がもつれそうになる。
クロノアさんの部屋が見えた。
扉の前まで来て、息が止まった。
鍵が壊れている。
正確には、鍵の部分が外側から無理やり壊されていた。一目見ただけで、誰かが力ずくで開けたのだと分かる。
「…っ!!」
頭の中が一瞬で冷たくなったのを感じる。考えるより先に扉へ手をかけて開いた。
その瞬間、鼻を刺すような鉄の匂いがした。
「……え」
部屋の中まで確認する余裕なんてなかった。
目に入ったものを理解するより先に、床に倒れている人影を見つけた。
「クロノアさん!」
駆け寄って、膝をつく。
床に広がった赤が目に入った。服も、髪も、身体の下の床まで血に濡れている。クロノアさんは傷を庇うようにちいさく身体を丸めて、ぐったりと横たわっていた。顔色が、見たことがないほど青白い。
「クロノアさん、聞こえますか!」
呼びかけようと触れた肩が、ひどく冷たく感じる。
「クロノアさん!」
返事がない。
嫌な想像が頭の中を駆け抜ける。
やめてくれ。
お願いだから。
「クロノアさん!!」
もう一度、少し強く身体を揺する。
その時、かすかに瞼が動いた。
「……っ」
息を呑む。
ゆっくりと目が開いた。
けれど、こちらを見ているはずなのに、目が合わない。
焦点がどこにも定まっていない。
「クロノアさん、俺です。ぺいんとです」
声が震える。
「分かりますか?」
クロノアさんの唇が、ほんの少し動いた。
「……ぺい、んと……?」
それだけで胸が詰まる。
生きている。
ちゃんと声が聞こえた。
そう思ったのに、安心するには目の前の血が多すぎた。
クロノアさんは俺の姿を探すように目線を動かした。でも、見えていないのかもしれない。何もないところへ視線を向けたまま、わずかに眉を寄せている。
「ここにいます。大丈夫ですから」
そう言いながら、俺はクロノアさんの身体を支えようとした。
傷口は見えないけど、刺し傷だろうか。でも刃物は見当たらない。圧迫止血をした方が、?それなら身体を仰向けにしないと…、いや、あまり動かさない方がいいのか?
混乱でどうしていいか分からなくなりそうになっているその時、クロノアさんの包帯に覆われた右手が動いた。
先日の火傷をした手。
まだ外していなかった包帯は、今は血を吸って真っ赤になっている。
クロノアさんは何も見えないまま、手探りでこちらへ手を伸ばしていた。
「……ぺいんと……」
「はい」
その手を取る。
指先が触れた瞬間、クロノアさんの身体からほんの少しだけ力が抜けた。
それでも、まだ何かを確かめるように俺の手を探っている。
「誰にやられたんですか。何があったんですか?」
聞いても、答えは返ってこない。
クロノアさんは俺の手を確認できたのか、弱く指先を絡めた。
それから、ほんの少しだけ息を吐く。
「……おねがい」
「何ですか?」
「…いま、…だけ、だから……」
掠れた声だった。
何を言おうとしているのか分からない。
「……ゆるして」
「…え?」
血に塗れた手が、俺の手を包む。
自分から触れることすら、きっとこの人にとっては許されないことだったのかもしれない。血をつけることも、触れることも。
それでも今だけは、と。
そんなふうに頼んでいるように聞こえた。
俺が何か答えるより先に、クロノアさんは俺の手を胸元へ抱き寄せた。
大切なものを確かめるように。
少しでも抵抗したら振り解けてしまいそうなほど、弱い力で。
そして。
「………だいすき」
ほとんど吐息のような声だった。
涙と一緒に溢れてしまったような、聞き逃してしまいそうなくらい小さい声。だけ ど確かに聞こえた。
クロノアさんはそれ以上何も言わなかった。俺の手を抱えたまま、ただほんの少しだけ表情を緩めた。
まるで、最後に欲しかったものを見つけたみたいに。
「クロノアさん………?」
名前を呼ぶと指先がほんの少し動いた。 返事の代わりなのかもしれない。 俺はその手を握り返した。
「今から病院に行きますから」
「…うん……」
「救急車、呼びます」
「……だいじょうぶ、」
「大丈夫じゃないでしょ…?!」
自分でも分かるくらい声が上擦った。
血が多すぎる。
どう見ても大丈夫なんかじゃない。
なのにクロノアさんは、俺の手を抱えたまま静かにしている。まるで、これでいいと思っているみたいだった。
そんなわけない。
そんなふうに思わせたくない。
「すぐ来ますから。絶対、助かりますからね」
言いながらスマホを取り出す。
指が震えて、うまく操作できない。
落ち着け。
救急に連絡するだけだ。
それなのに何度も指が滑る。
「……っ、早く……」
ようやく繋がった。
場所を伝えて、状況を伝える自分の声が何を言っているのか分からないくらい、頭の中がぐちゃぐちゃだった。
出血が多いこと。
まだ意識があること。
刺されたような傷があること。
必要なことを言っているはずなのに、頭の中には床に広がった血ばかりが浮かんでいた。
電話を切る。
「クロノアさん?」
返事がない。
「クロノアさん、もうすぐ来ますからね」
クロノアさんは目を閉じたまま、俺の手を握っていた。
「聞こえてますか?」
「………ん…」
かすかな返事。
「ちゃんと助けが来ますから、だから…っ」
その先の言葉が出てこない。
何を言えばいい。
死なないでください、なんて、この人には言えない。
きっとクロノアさんには、それすら俺の願いではなく呪いになってしまう。
だから、ただただ手を握る。
「ここにいますから」
「……う、…ん…」
その返事だけが、妙に穏やかだった。
やがて遠くからサイレンの音が聞こえ始める。
その音を聞いた瞬間、張り詰めていたものが少しだけ緩んだ。
もうすぐ来る。
きっと間に合う。
そう思いたかった。
けれど、腕の中にある身体はあまりにも軽く、クロノアさんの指先は、少しずつ冷たくなっていた。
俺は救急隊が来るまで、その手を離さなかった。
病院へ運ばれてから、どれくらい経ったのか分からない。
処置が終わったと聞かされても、頭の中はずっとあの部屋に置き去りになったままだった。
血の広がった床。
青白い顔。
それから、あの小さな声。
だいすき。
何度思い返しても、胸の奥が重くなる。
病室へ入ると、クロノアさんはベッドに横になっていた。
腕には点滴が繋がっていて、顔色はまだ悪い。けれど、今度はちゃんと胸が上下している。それを確認してから、ようやく少しだけ息ができた気がした。
「クロノアさん」
呼びかけると、瞼がゆっくり持ち上がった。
「……ん」
「気分、どうですか」
「……大丈夫」
掠れた声だった。
「傷、痛みますか?」
「……だいじょうぶ」
「そうですか……」
椅子を引いて、ベッドの横に座る。
聞きたいことはいくらでもあった。
誰に襲われたのか。
何をされたのか。
どうしてあんな状態になっていたのか。
けれど、目の前のクロノアさんは疲れ切っている。今は無理に聞くべきじゃない。
そう思って黙っていると、しばらくしてクロノアさんの方から小さく声がした。
「……ぺいんと」
「はい」
「……ごめん」
「何がですか?」
少し間が空いた。
「……うまく、できなかった」
胸の奥がざわつく。
「何をですか?」
クロノアさんは答えなかった。
ただ、視線を伏せる。
やがて、消えそうな声が落ちた。
「…ちゃんと、死んであげられなかった」
頭の中が真っ白になった。
「……は?」
自分でも驚くほど低い声が出た。
どういう意味ですか?死んであげられなかった?なんでそんな…まさか、
「……まさか」
声が震えた。
「俺が殺そうとしたって、思ってるんですか」
クロノアさんは、俺の反応を見て何か気づいたように、視線を落として、指先をシーツの上で小さく動かした。
その仕草が、肯定のように見えた。
「俺が…、?」
違う。
俺はそんなことをしていない。
でも、この人にとっては、俺がそんなことをしてもおかしくなかったんだ。
俺たちに何度も責められて、何もかもを自分が悪いと考えるようになって、それでも俺の言葉だけを大事にしていた。
だから俺が殺すと言えば、それすら受け入れてしまう。
そういうところまで、俺たちはこの人を追い詰めていた。
「…ごめ…、俺、勘違いしてた」
クロノアさんが小さく言った。
「……ごめんね」
「クロノアさん……」
「俺……」
そこで言葉が止まる。
目元が歪んだ。
一度、何かを堪えるように唇を噛んで、それでも耐えられなかったように涙が一粒落ちた。
「………自惚れてた…」
「…え?」
「ぺいんとが……」
一度息を吸って、それでも声が震える。
「……殺してくれるんだって……」
胸が苦しくなる。
クロノアさんは、はは、と小さく笑った。
とても笑えるような話じゃないのに。
「……思っちゃった、」
その笑い方が、ひどく惨めに見えた。
自分が間違えたことを恥じている。
俺に殺してもらえると期待した自分を、恥じている、?
「…、おれなんかにそんなこと…、してくれるのかって、」
涙がまた落ちる。
「……嬉しかったんだ……」
何も言えなかった。
あんな状態だったのに。
死にかけていたのに。
俺に殺されることを、嬉しいと思っていた。
その事実が、胸の奥をぐちゃぐちゃにする。
どうして。
どうして、そこまで思わせてしまったんだ。
「……ごめんね」
クロノアさんがまた謝る。
「嫌な思い、させて…」
そのあと、しばらく何も言わなかった。
何かを言おうとしているのは分かる。唇が何度も動くのに、声にならない。
「……俺……」
掠れた声が落ちた。
そこで止まる。
クロノアさんは目を伏せた。
「おれ、……」
また言おうとして、喉を詰まらせる。
何を言おうとしているのか、俺には分からない。
ただ、言葉にできないことそのものが苦しいみたいに、眉間が歪んでいく。
「……っ」
一度、息を吸った。
その息が震えた。
「……ごめ……」
最後まで言えない。
涙がまた一粒落ちる。
クロノアさんはそれを見て、今度は慌てたように手を顔へ持っていった。
「……っ」
口元を塞ぐ。
泣き声を押し殺そうとしているのだと、すぐに分かった。
けれど、手で塞いでも嗚咽は止まらない。
指の隙間から、苦しそうな息が漏れる。
「……ん、……っ」
肩が震えた。
それでも必死に堪えている。
まるで、泣くことまで俺に許してもらわなければいけないみたいに。
「クロノアさん……」
呼びかけると、首が小さく横に振られた。
来ないでほしいのかと思った。
でも、違う。
たぶん、見ないでほしいのだ。
こんな自分を。
「…ごめ……」
手のひらで口を塞いだまま、声にならない謝罪が漏れる。
「もう、いいですから」
そう言うと、クロノアさんの目が大きく揺れた。
それから、ますます涙が溢れた。
「………っ、ぅ……」
「クロノアさん」
「ごめ、ん…」
今度は手を外して、必死に言おうとする。
「……ごめん、ごめんね……」
声が震える。
「俺…っ」
そこでまた詰まった。
言えないんだ、きっと。
言えば、俺に全部聞かせることになるから。
どうして泣いているのかを、クロノアさんが抱えている、「自惚れてた」と自称する程の罪悪感を。
クロノアさんは何度も首を振った。
「…ごめ……」
涙が止まらない。
「……ごめんなさい…」
普段なら俺に敬語なんて使わない人なのに、その言葉だけが妙に他人行儀だった。
まるで、俺に許しを乞う資格すらないと思っているみたいだった。
「謝らなくていいです」
「……だめ、……」
小さな声。
「何がですか」
答えは返ってこない。
クロノアさんはただ泣いている。
泣き声を聞かせたくないのか、また口元を手で覆う。
でも、その手も震えている。
「……っ、ぅ……っ…」
押さえ込んだ手の奥から、嗚咽が漏れる。
そのたびに胸が大きく上下した。
そして、不意にその手が胸元へ落ちた。
「……っ」
指先が、包帯の上から傷口を探る。
「クロノアさん?」
俺が声をかけても止まらない。
処置したばかりの傷を、包帯越しにぎゅっと押さえ込む。
「痛いですよ」
慌てて手を伸ばす。
けれど、クロノアさんはそれにも気づいていないようだった。
力が入っている。
白い包帯が押し潰される。
「クロノアさん、そこ押さえちゃだめです」
俺が手を取って離そうとすると、クロノアさんの指がびくっと震えた。
その瞬間、ようやく自分が何をしていたのか気づいたように、目を見開く。
「……あ、っ…」
見下ろした先にある包帯を見て、それから俺を見る。
顔がさらに歪んだ。
「ごめ、っ…」
また謝る。
「違います、今のは――」
「…ごめん……」
「クロノアさん、聞いてください」
「……ごめん…っ、ごめん……」
もう、俺の声が届いているのかも分からない。
謝る言葉だけが止まらない。
そのうち、また泣き声が大きくなった。
「っ、ぅあ…っ」
初めて聞くような声だった。
子どもみたいに、という言葉では足りない。
何かが壊れてしまったみたいに、喉の奥から勝手に声が溢れている。
クロノアさん自身もそれを止めようとしている。
手で口を塞ぐ。
けれど、今度は両手で押さえても止まらない。
「……っ、ん……!」
肩が大きく震える。
涙が頬を濡らし、枕へ落ちていく。
「クロノアさん、もういいですから」
俺がそう言うと、首を横に振る。
「よく、ない……」
「そんなこと――」
「……っ、よくない、!」
声が裏返った。
そのまま、また泣き出す。
「……ごめ…っ、ごめんなさい……」
「クロノアさん」
「…俺…っ、おれ、」
必死に言葉を探している。
でも、何も出てこない。
唇が震える。
息が乱れる。
それでも謝ろうとする。
「ごめ…」
もう、何度目か分からない。
その姿を見ているうちに、俺まで息が苦しくなってきた。
クロノアさんは、何かとても取り返しのつかないことをしてしまったと思っている。
それが何なのか、俺には全部は分からない。
この人の中ではきっと、もう謝れば済む程度のことではなくなっている。
だから、何度謝っても終わらない。
謝っても謝っても足りない。
どうすればいいのか分からない。
その行き場のない絶望が、そのまま涙になって溢れているように見えた。
「…っ、は……」
呼吸が変わった。
泣き声に混じっていた息が、急に細かくなる。
「クロノアさん?」
「……っ、は…っ」
一度吸った直後、また息を吸う。
吐けていない。
胸が大きく上下する。
「ゆっくり、息してください」
声をかける。
でも、クロノアさんは聞こえていないのか、必死に空気を探している。
「……は、……っ、は……」
短い呼吸が何度も続く。
「クロノアさん、俺を見てください」
目が合わない。
涙で濡れた瞳が揺れている。
「大丈夫ですから」
その言葉に、クロノアさんはまた首を振った。
「……っ、だめ……」
「何がだめなんですか」
答えられない。
答えるために息を吸おうとして、また嗚咽が込み上げる。
「……っ、ぅ……!」
息を吸う。
吸って。
また吸う。
うまく吐けない。
「クロノアさん、息を吐いてください、ゆっくり、ゆっくりでいいですから」
俺の手を握っている指が、強く縮こまった。
「……っ、は……」
「そうです。吐いてください」
「……ぅ……っ」
うまくいかない。
泣き声が邪魔をして、息がどんどん浅くなる。
クロノアさんはとうとう両手で口元を塞いだ。
「……んっ……!」
「だめです!っクロノアさん、手、外してください」
首を振る。
泣き声を聞かれたくないのだろう。
「大丈夫ですから」
それでも首を振る。
「……っ、ん……」
押し殺した嗚咽が手の中で震える。
その身体が大きく揺れた拍子に、腕につながっていた点滴の管がぴんと張った。
「……あ」
引っ張られた管が、ベッド脇のスタンドを揺らす。
次の瞬間、スタンドが倒れた。
点滴の管がさらに引かれ、接続部が外れる。
「……っ!」
クロノアさんがびくっと身体を震わせる。
床に倒れたスタンドが大きな音を立てて、 その直後 廊下から足音が響いた。
「どうしました!」
看護師が駆け込んでくる。
「呼吸が、!」
「分かりました。少し離れてください」
看護師がすぐにベッドへ駆け寄る。
「大丈夫ですよ。ゆっくり息をしましょう」
クロノアさんはまだ泣いていた。
「……っ、は……」
「大丈夫。ゆっくり吐きましょう」
看護師の声に合わせようとしているのか、必死に息を吐く。
でも、途中で嗚咽が混ざる。
「……っ、ぅ……」
「そうです。少しずつでいいですよ」
俺は少し下がって、 それでもクロノアさんから目を離せなかった。
涙でぐしゃぐしゃになった顔。
乱れた呼吸。
震える手。
その全部が、さっき聞いた言葉と繋がっているように思えた。
殺してくれると思った。
嬉しかった。
ごめん。
その言葉を、クロノアさんは最後まで俺に説明しなかった。
説明できないのだろう。
きっと、自分の中にあるものを言葉にして俺に渡すことすら、許せないのだ。
だから謝る。
何度も。
何度でも。
それでも足りないと思っている。
俺がどれだけ許そうとしても、それだけでは届かないところまで、自分を責めてしまっている。
やがて、処置を受けたクロノアさんの呼吸がほんの少しずつ落ち着いていく。
けれど、涙は止まらなかった。
看護師が処置を続ける横で、俺はただ立っていた。
何もできない。
声をかけることすら、今は正しいのか分からない。
それでも、離れることだけはできなかった。
少しして、クロノアさんの手がシーツの上へ落ちた。
その指先が、何かを探すようにシーツをかく。
俺はそっとその手を握った。
クロノアさんの指がほんの少しだけ動いた。
握り返そうとしたのかもしれないけれど、 力はほとんどなかった。
それでも離さなかった。
「……ここにいますから」
クロノアさんの瞼が震える。
「大丈夫です。俺、ここにいます」
返事はなかった。
また一筋涙が落ちた。
俺は手を握ったまま、隣にいた。
あのとき、もっと早く気づいていたら。
もっと違う言葉をかけていたら。
そんな後悔が、何度も頭の中を巡る。
けれど今は、それを考えている場合じゃない。
そばににいる。
今はそれだけしかできなかった。
それでも今は、それでだけでもいいと思いたかった。
コメント
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いや……今回のエピソード、胸が痛すぎるわ。 クロノアさんの「♡♡♡てくれると思った」「嬉しかった」、あれほんと心臓止まるかと思った。自分を責めるだけじゃ足りなくて、死ぬことすら“許し”として受け止めちゃうの……辛すぎる。 ぺいんとが離さず握った手と、あの「ここにいますから」の言葉が、いくつもの謝罪を越えて届いてほしいって切に思ったよ。 誰かを“生かしたい”と思う気持ちが、これほど切実なんだなって伝わってきたエピソードやった。