コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
トン…トン…トン…
狭い部屋に鳴り響く聞き慣れない包丁の音。無意識にリズムを取ってしまうのは手遅れかと思いながら、すっと目を開けるとまだ九月半ばの眩しい太陽光が入ってきた。
「っ?!」
咄嗟に顔を手で覆い隠し、影の方に寝返りを打つ。
「あ、起きたの?朝食の準備もう少しで終わるから待ってね〜」
…あれ、俺今、喋ったっけ…?
まだほとんど働かない頭で必死に今までの事を思い出す。
ある日ドッペルゲンガーに出会って、事故にあって、そして…ここに住むことになって…。
考えれば考える程頭が痛くなってくるのでとりあえず二度寝をしようとしたが、起きて早々陽の光を浴びて全く寝られなかった。
「朝ごはん出来たよ〜」
ベーコンエッグと味噌汁の匂いで今にもヨダレが出そうだった。
とりあえず顔を洗おうと部屋を見渡すと、今までのカップラーメンの空や適当に置いていたトロフィーや賞状が綺麗に整理されていた。床もピカピカで夏の日差しが差し込む窓も透き通っていた。
「…これ、お前がやったの?」
「そうだよ、あまりに汚くて寝れなかったからね。少し綺麗にしといたよ」
部屋が汚いという自覚はあったため言い返す事が出来なかった。
「…ご飯冷めるから早く食べな?」
もう一人の俺に促され、さっと顔を洗って席に着く。
他人に作って貰った飯を食べるのは何年ぶりだろうか。もう三年はまともな食事をしていない気がする。 逆にカップラーメンだけで生きてきたのを褒めて欲しいと思った。
「…いただきます。」
久々に食べる飯は死ぬ程美味しかった。ふっくらとした白米、油味の少ないベーコン、柔らかい大根と人参が入った味噌汁は、優斗の枯れきった胃と心に潤いを与えてくれた。
「なーに泣いてんの?」
そう言われはっとする。気づけば涙が頬を伝って濡れていた。
「そんなに美味しかった?」
「……あぁ。」
「それは良かった。」
チラリとドッペルゲンガーを見ると無精髭を剃り、クマが消え穏やかな眼差しを向ける俺が座っていた。
誰だ、コイツ…。
ドッペルゲンガーと言われても信じきれない程姿が変わっているヤツに対し、俺は前と変わらずダボダボの服を着て全体的にだらけている。
食べ終わって食器を片付けていると、何かを思い出したように奴は声もかけず部屋を出ていった。瞬間、今まで感じた事の無い嫌な予感がした。 奴に次いで俺も慌てて外を出ると、ドアの前には大勢の警察官がいた。
「神谷優斗さんですよね?警察の者です。早速ですが、逮捕させていただきます。」
「…は?いや、ちょ、なんで俺が…
」
突然の警察に何も言わず慌てて出て行ったアイツに混乱した。しかし、瞬時に脳内に答えが出された。
「[男女無差別暴行事件]…。」
「自覚はあるようですね。では、貴方を暴行事件及び殺人罪で逮捕します。」
手を掴まれる瞬間、すぐさま警官たちの間をすり抜け商店街方面に逃げた。
何で俺が逮捕されなきゃなんねぇんだよ!
まさかとは思ったが、やっぱりアイツ、ドッペルゲンガーがやらかしたのか?だとしたら俺が逮捕されるのも納得だ。
後ろから警察が猛スピードで追いかけてくる。
「誰かそいつを捕まえろー!」
人々が振り向き捕まえようとしてくる手を避けながら走る。パニックになっているからか、自然と疲れは感じなかった。
「危ない!!」
警察が叫ぶ。キキーッという耳障りな音が聞こえ、目の前が真っ暗になった。
「うわぁっ…!?」
「ん、大丈夫?めっちゃうなされてたけど…」
気づけばベットの上で、そばには奴が座ってテレビのニュースを見ていた。汗はびっしょりで息切れもしていた。悪い夢でも見ていたようだ。
「夢、か…」
安堵の息を吐き、また横になる。何となくニュースを見てみる。
『……○×商店街付近の道路で男性が引かれる事故が起きました。トラックで飲酒運転をしていた、容疑者…………は…』
気分が悪くなるだけだと思い消そうと電源ボタンに指をかける。
『被害者の男性、「神谷優斗」さんは、トラックとの衝突時に…』
「あっはは、すっごい偶然。こんな事もあるんだねぇ。」
奴の言葉に素直にそうだなとは言えなかった。
商店街、トラック、事故現場、同姓同名…本当に偶然だとは思えなかった。
「夕飯何する?」
「…要らない…」
そっか、とだけ言い奴は横になる。するとすぐ寝息が聞こえてきた。
時刻は夜十一時、昼飯を食べて寝たのが二時ぐらいだから八時間も寝ていたらしい。
だがコイツは買い物に行ったり掃除をしたり飯を作ったり…正直感謝しかない。
体を起こし、奴の顔を見る。自分の顔なのに見ていると安心するのはもう駄目だろうか。
寝よう、なんだか疲れた。
目を閉じ眠りにつく。するとまた夢を見た。
真っ白で窓も扉もなく、幅五十メートルはあるだろうか。先の見えないだだっ広い廊下で、奥の方から人が歩いてくる。病院の服を着て点滴を持ちながらフラフラとしている。
「……ろせ…」
「え?」
「アイツを殺せ…」
ガサガサとした低い声で語りかけてくる。
殺せ…?アイツを?
何を言っているんだと聞こうとすると、目の前のやつは突然うずくまり、呻き出した。
「お、おい!大丈夫かよ!?」
肩に手を置いた瞬間、寒気がした。なぜならそいつの体は死人のように冷たかったからだ。よく見ると点滴の袋に入っている液体も色がおかしく、ゴミのようなものも入っている。そして…
「あに、き…?」
そいつは確実に兄だった。証拠はない、しかし本能がそう言っている。
「殺せ、アイツを、ドッペルゲンガーを…」
そう言い激しく咳き込み始めた。返事をする余裕もなく苦しそうに心臓を押さえるが、あまりの激しさに吐血してしまった。
汚れ一つない白い床に赤黒い血がベッタリと付く。
「おい、マジで大丈夫かよ!しっかりしろ!」
「…いいか、ら…はやく殺れ…じゃ、ないと、お前も、俺も…」
止まらない吐血と咳に怖くなり、後退りをすると人にぶつかった。こんな所にまた人がいるのかと思う。
「あ、すみま…」
言葉を失った。今いる場所のように頭の中も真っ白になった。なぜなら今自分の目の前にいる人は、『自分』だったからだ。
「ネぇ、おれヲ、コロすノ?」
死にかけている兄が言っていた言葉を思い返す。
『殺せ…ドッペルゲンガーを…』
「お前は…」
その瞬間、突然意識が途切れた。 はっと目を覚まし、現実に戻る。ベッドの下を見ると奴はいなかった。
時刻は午前三時、俺は何も考えず部屋を出た。考えている暇は無かった、ただ確信している事は、兄にも俺にも大きな危険が迫っている事。
流石に隣町まで走る訳にも行かず、数ヶ月ぶりに車を運転する。猛スピードで高速道路に向かうも、事故があった為近いルートは走れず遠回りになってしまった。
ドッペルゲンガーは瞬間移動も出来んのか?
ドッペルゲンガーは突如人の前に現れる事が多いらしい。なら瞬間移動が出来るのも納得…か?
流石にド深夜の高速道路は空いていた。ちょこちょこ他の車も見かけたが、構わずアクセル全開で駆け抜けた。
「待ってろクソ兄貴…」
そうこうしていると兄の住んでいる隣町のマンションまで来た。エレベーターは最上階の三十階まで上げられており、待つ暇はなく階段をダッシュで上がった。
兄の住む部屋は二十八階だが、三階を上りきった所で体が悲鳴をあげ息切れと目眩が激しかった。
ここで引けば自分が逃げれる時間は十分にある…だが…。
ゆっくりと兄の事を思い出す。子供の頃はよく喧嘩し、親に怒られ一緒に逃げたりした。何もかも嫌になり思い切って家出し、土砂降りの中傘をさして一生懸命一人で探してくれた時もあった。何かあれば一番に褒めてくれた。音ゲーを始めたのも兄が一緒にやろうと声をかけてくれたからだった。嫌な奴だったけど、同時に尊敬できる人でもあった。
どうして今までこの事を忘れていたのだろう。改めて兄への有り難さを感じた。
『ドッペルゲンガー…じゃないと、俺もお前も…』
アイツが何をするかも、俺と兄がどうなるかも分からない。ただ一つ、俺らの命が危険に晒されている事だけは分かった。
意を決して階段を上る。 特別体が丈夫な訳ではなかった、なんなら弱い方だった為、死にかけ状態にあった。
息継ぎをする暇もなく激しく咳き込みながらも十四階まで来ると、奴の背中が見えた。
「っやろぉ…!」
突然の優斗の声にびっくりした奴は、急いで階段を上っていく。負けじと追いかけるも早すぎて追いつけない。
ドッペルゲンガーには体力って概念ねぇのか?
意識が朦朧とする中、二十五階で必死に追いつき服を掴む。強く引っ張りすぎた反動で後ろに思いっきり転げ落ちてしまった。ほぼ離しかけている意識の中、駆け寄ってくる人がいた。兄だった。
「おま、何やってんだよ!なんでここまで…」
逃げろと言いたかったが、息切れが激しく喋れない。
「と、とりあえず部屋に…」
兄が振り向くとそこにはもう一人の俺がいた。驚愕し声を出せない瞬間を狙い、兄の後頭部が鉄パイプで思いっきり殴られる。
胸の辺りに覆い被さるように兄が倒れ、服には真っ赤な血が染み込んでいく。
あぁ、終わりだ。何もかも…。
全てを悟り、どうとでもなれと掴んでいた意識を手放した。
目が覚めると、自分の部屋だった。隣に人はいたが奴とは違う気配に、聞き慣れたタップ音が鳴り響いている。
「…っ、あー、なんだよこのノーツ…」
目を開け横を見るとメロレイをしている兄の姿があった。
「兄貴!?」
「あ、起きた?てかここのフリックめっちゃ抜けんだけどどうやっ…」
気がつけばベットから落ち、兄に抱きついていた。夜の涼しい風が入る薄暗い部屋の中で、小さく声を漏らしながら泣いていた。
「…はぁ、何してんだよ。」
親に泣きつく子供をあやす様に、苦笑しながらも背中をさすってくれた。
今まで兄の前で泣く事はあったが、誰かに抱きつく事は無く、初めて人の温かみを感じた。
「…いつまで抱きついてんだよ?いい歳して全く…」
はっとしすぐに離れる。
二十三にもなって泣きながら人に抱きついた事に、今更ながら凄く恥ずかしくなった。だが兄を見ると笑っていた。
「な、何笑ってんだよ!」
「いや、あの頑固なお前が泣きついてくるのがかわ…面白くてつい…」
「っクソ兄貴!」
思わず兄の胸ぐらを掴む。怒っている自分とは逆にとても幸せそうに笑う兄に、こっちまで気が抜けて安心した。
そういえば、子供の時もこんな笑ってたっけ…。
兄は常にヘラヘラと笑っているが、心の底から笑っているのを見るのは何十年ぶりだろうか。
「いやぁ、はは…悪い悪い。とりあえずお前も涙拭けよ?イケメン顔が台無しだ。」
ムスッとしながら涙を拭いていてもまた溢れそうになる。
兄が、生きている。今目の前で笑っている。でも何故ここに…。
「てか、なんでお前がここにいるんだよ…」
「なんでって、最近お前の様子がおかしいから痺れ切らして面倒見に来てやったんだぞ?」
そう言われるも、優斗は最近部屋で寝たっきりで全く外に出ていなければ、誰とも連絡を取っていない。
しかしそこまで考えた後、すぐに答えは出た。奴だ。
様子がおかしいと言う事について詳しく話を聞くと、突然家に来たと思ったらいつの間にか姿を消していたり、買い物先でチラチラ見かけたり、夜道でよくすれ違ったりと接近してくるも話す事はないらしい。
信じてもらえると確信した訳ではないが、この際笑われてもいいからと今までの事を全て兄に話した。
しかし、兄は真面目に聞いてくれた。今の俺の様子と街中で会う俺の様子に異変を感じていたらしい。
「…なるほど、ドッペルゲンガーか…こいつぁまた大胆な事しやがるな。元々ドッペルゲンガーってのは本人と関係のある場所にしか存在せず、本人以外の人間とは喋らないんだ。そしてドアの開け閉めもでき、忽然と姿を消す事もある…幻覚、超常現象として扱われているが、今の状況を見るに、かなりヤバいな。」
確かに奴が自分以外と喋っている所は見た事がない。それにドアの開け閉めも、なんなら料理も片付けも出来る。
「…でもドッペルゲンガーって、人を殺す事が出来るんだろ?」
「当たり前だ。でも現状、俺もお前も被害はない。ドッペルゲンガーは数名いる場合もある、な何か作戦を練っているか、それとも…」
兄がそこまで言った瞬間、玄関のドアが開く音がした。
見るとそこにはまた俺がいた。目に光はなく、口は半開きで手には既に血に濡れた包丁を持っている。 本能が逃げろと信号を出している。しかし、このボロマンションの二階の部屋から逃げれる所は、今奴が入ってきた玄関しかない。唯一出られるのは…。
「優斗、窓は…」
「出られない事は、ない…やっても最悪骨折だな」
奴を振り切ってゴリ押しするか、窓から飛び降りるか…どちらにせよ怪我は免れないだろう。
「いっぺん、わからせた方がよさそうだな」「でも、兄貴が怪我したら…」
「だーいじょーぶ、俺の事何だと思ってんだ?」
確かに兄は昔柔道をやっていた為喧嘩はめっぽう強かったが、刃物を持った力知らずの奴に勝てるかは分からない。
兄は目を瞑り構える。しかし兄も奴もいつまで経っても動かない。
何かタイミング、タイミングが分かれば…。
過呼吸気味になり、目眩がしてくる。
「落ち着け、落ち着いて相手の音を聞け。」
音、テンポ、リズム…リズム?
途端兄の考えている事が分かった。さすが兄弟と言った所か。
深呼吸をして目を瞑り、神経を研ぎ澄ます。
風を切り奴が動いた。狙いは兄、素早く息の乱れもない。しかし一つドッペルゲンガーでも誤魔化せない事があった。
トッ…トッ…トッ…
リズム良く流れる心臓の音。
トッ…トトッ…
それを合図に奴の包丁が振り下ろされた。
「兄貴!」
「わかってらぁ!」
兄は素早く反応し振りかざされた包丁を避け、みぞおちを膝で蹴りあげた。包丁を落とす。もちろん奴は倒れ、苦しそうに腹を押えて息をしている。改めて自分と同じ姿という感覚を持ち、気分が悪くなってくる。
「さっすがプロ音ゲーマー、んな事も出来んのな。」
兄が奴の前にしゃがみながら言う。
「周りが静か過ぎんのと生まれつき耳が良すぎるってだけだ。てかソイツどーすんの?」
やはりドッペルゲンガーなだけあって同じように体が弱いのか、気絶寸前まで来ていた。話を聞くか、このまま拘束しておくか。
「まぁとりあえず気絶させとけ、起きたら話を聞こうじゃないか。」
確かにこのまま警察に行っても絶対信じてもらえない。なんなら暴行事件の事で事情聴取されそうだ。
一安心とため息を吐き、ベットの側面に寄りかかる。
兄が立ち奴に背中を向けると突然起き上がるとそのまま落ちていた包丁を掴み、優斗と駿斗に向かって投げた。
二人は持ち前の反射神経で避けるも、優斗だけ反応が遅れ頬をかする。切り傷から血がぽたぽたと垂れ、思いっきり投げられた包丁はカツンッと壁に深く刺さる。
なんつー腕力だ…。
二人共呆気に囚われていると奴はフラフラしながら玄関に逃げた。
「おまっ、待て!」
兄が叫ぶも、待てと言われて素直に待つ程馬鹿では無い。そのままガタンと外に出ていかれてしまった。
「…追いかけてくる」
兄がそう言うと走り去っていこうとする。
「ま、待って!」
焦って手を掴み呼び止める。
「んだよ、今追いかけなきゃ次こそ殺されるぞ!」
「…っ、だけど…」
無言で睨まれ言葉が出なくなる。本気になった兄は誰よりも、どんな事よりも怖かった。本当は行って欲しくなかった、今この場から離れられたら自分がどうにかなってしまいそうだった。それぐらい精神が追い詰められていたのだろうか。
だが、言葉に出す事は出来ない。恥ずかしさもあったが、今にも涙が出そうだったからだ。
「…お前はいつもそうだ」
「えっ…」
「四年前の例のメロレイ大会もそうだったろ。相手選手に手ぇ出して、瀕死状態まで追いやったくせに俺は悪くねぇだのなんだの…」
図星をつかれて何も言えず、掴んでいた手を離す。今まで出さないようにしていた記憶が引き出しから飛び出してくる。
あの大会の日、精神状態が限界まで追いやられた優斗は意味もなく相手選手に手を出してしまった。本当は分かっていた、八つ当たりをしたって何も変わらないという事も、自分の犯した罪がどれだけ重たいかも全て分かっていた。相手は死にかけ、なのに自分は悪くない、アイツが悪いと戯言を撒き散らすばかり。 それを生で見ていた兄は舞台へ乱入し優斗を全力で止めた。
「これ、何か分かる?」
左肩を出し薄茶色になった傷跡を見せる。言わずもがなそれは優斗が付けてしまった傷だった。
舞台上で押さえつけられ抵抗する時に思いっきり引っ掻いてしまったのだ。
「あの時はすっげぇ痛かったよ。皮膚がえぐれて血が止まんねぇしさ。」
「でも…」
「それに何?ごめんの一つもないってふざけてんの?」
「いや、でもあれは…」
「悪ぃけど、俺そんな奴とはもう居たくねぇ。自分もコントロール出来ないやつといたら次は何されるかわかんねぇし。」
「…。」
「それとさぁ、もう辞めろよそういうの。音ゲー界の頂点だとかプロだとか、たかがゲーム如きで。」
そこまで言った時、今まで抑えていた感情が爆発した。
気がつけば兄を押し倒し、首を力強く締めていた。 逃れようと必死にもがく。酸素を求め無理やり呼吸をする。それが何とも滑稽で笑いが込み上げてきた。
「お前が、お前が悪いんだ…お前が俺の邪魔をしなければ、俺は絶対負けていなかった!」
兄は返事も出来ずもがき続ける。咳き込み、涙が出ている。
「ざまぁだよ、こんなこと言わなけりゃ今も生きてたはずなのになぁ…は、はは…」
しばらくすると兄は動かなくなってしまった。ぐったりと手足を投げ出し返事をしなくなった兄を眺める。
もう、何も考えたくない…。
体力も精神も限界が来た優斗はそのまま兄のすぐ側に横になり、目を閉じた。意識が飛ぶ寸前声が聞こえた。
「また、救えなかった。」