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4.「冷静な感情の裏に」 ルークはデビルズパレスのある国の隣国に生まれた。彼の家系は貴族であり、高い地位と有能な父、美しい母に双子の兄と四人で、恵まれた土地と民の仕事に感謝しながら、その幸せを噛み締めて暮らしていた。
「はぁっ!!やぁっ!!」
庭に元気な声が響いている。ルークと双子の兄であるレオが剣術の指導を受けているのだ。
「うわぁっ?!」
ルークはレオからの一撃にバランスを崩して倒されてしまった。
「兄さん、強いよ……。」
ぶつぶつと文句を言うルークを見てレオは呆れた。
「あのなぁ、ルーク。お前は優しすぎるんだよ。家族と言えどこの模擬戦は敵同士なんだぜ?迷わずに打ち込めよ。」
レオがそう言ってルークを助け起こした。レオは口は悪いが、活発で行動力と決断力があった。その一方でルークは元々人見知りがあり、優しく温和な性格だった。だから模擬戦でも相手のことを考えてしまい、最大の攻撃を打ち込むチャンスを逃してしまうのだ。しかし、その点で女性から人気があり、婚約者もすぐに決まった。婚約者の名前はティアリー・アドラー。アドラー家はルークの父の同僚の一家であり、二人は婚約以前からお互いを『ティナ』『ルー』と愛称で呼び合うほど仲が良かった。ちなみに、ルークの父親は王宮騎士団に所属しており代々王に仕えてきた名誉ある一族だ。
「ねぇ、ルー。私、貴方の結婚相手で良かったわ。小さい頃から貴方のことは知ってるけど貴方ほど頼りがいのある殿方なんて居ないもの。」
二人きりで丘に登ってピクニックをしていた時、突然ティアリーがルークに話しかけた。青い空の日だった。照りつける太陽から逃げるため木陰に並んで座る二人の間を、やさしい風が通り抜けた。
「俺もだよ。ティナ。君はそうじゃないって言うかもしれないけど君程優しくて愛らしい人は居ないし、ティナよりそばに居たいって思う令嬢なんて居ないよ。」
ルークがそういうとティアリーは照れくさそうに微笑んだ。
「俺は、君より先に死なないよ。死ぬまで君を守る。約束するよ。」
「ええ、約束しましょ笑」
ルークはこの先もティアリーと穏やかに過ごし、人生を終わらせるものと思っていた。
しかし、其れは間もなく打ち砕かれることを知る由もなかった。
あるパーティの帰りルークは自分の家の前が騒がしい事に気がついた。
(何があったんだろう。)
馬車を降りてちかづくと家の中から憲兵が出て来た所だった。ルークはその憲兵達を見て驚いた。なぜならその憲兵達は王宮の紋章が着いたマントを羽織っていたからだ。相当の事件でなければ王宮の憲兵団が動くことは無いのは、国民なら誰もが知る事実だった。
「父上……何があったのですか?」
「……実はな、家が謀反の疑いを掛けられたんだ。」
父の返答を聞いてルークは驚いた。先述したとおり、ランドール家は代々王に仕えてきた栄誉ある一族だ。普通に考えれ誰でもば裏切っても得は無いないことが分かる。しかし現実というものは実に無情だ。しばらく経ってからランドール家に届いた文書は残酷なものだった。なんと謀反の証拠が見つかったというのだ。また、アドラー家も加担した疑いがあるとして、現在一家全員連行され、拷問を受けているというのだ。そしてとうとう父親も連行されて行った。後日、さらに大きな知らせがランドール家に届いた。
「……なん、だって……??アドラー家が、処刑?待ってください、どういうことなんですか母上。」
ルークは震える声で聞き返した。手紙を受け取った母曰く、アドラー家からも謀反を企てていたという証拠が見つかり、一家共々処刑が決まったのだ。王宮は、アドラー家が処刑になればランドール家も企みを白状すると判断したようだ。
「そんな、嘘だ……。」
ルークは信じられない思いと混乱で呆然と立ち尽くした。
「ルーク、絶対処刑は見に行くんじゃねえぞ。」
レオがそう言ってくれたが、婚約者が処刑されるという事実に大人しくしていられなかったルークはレオや母に黙って処刑を見に行った。頭ではあの文書が王宮からのものであることを理解していたし、本物であるということも分かっていた。だが、信じきれなかったのだ。いや信じたくないという方が正しかった。どこかで、あの文書はイタズラなんだと思いたがっていたのだ。しかし、処刑広場で括り付けられていたのは間違いなくアドラー家だった。皆、元の面影はほとんどないに等しかった。原型のない顔や赤黒く腫れ上がった足首、血まみれの腕、ボロボロの服が酷い拷問であったことを物語っている。その姿を見てルークが力なく座り込んだ時、処刑執行人達が松明を持って出てきた。火あぶりの刑らしい。それをみたティアリーは悲痛な叫びを上げた。
「嫌……嫌よ!まだ死にたくない!!ルーク!!助けて!!お願い!!」
ルークは恐ろしさで動けなくなっていた。そうこうしているうちにアドラー家のもの達に火が着けられた。
「あ、あ、ああああぁ……!!」
苦痛そうな声が響き渡っている。オレンジ色の炎が体をつつみ、徐々に大きくなる。そして人体の焼ける匂いが広がりはじめ、いつ間にか苦痛そうな声は聞こえなくなっていた。その時、レオが探しに来た頃までルークは覚えている。それから数日間の記憶はない。ただただ、男の号哭が聞こえていたこと、自分の喉が痛かったことだけ覚えている。今思えば聞こえた号哭は自分なのだろうとルークは思う。