テラーノベル
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ニュース番組から流れる『未知の特殊能力を持つ怪盗団』という報道は、アジトの作戦室を氷のような静寂で満たしていた。
画面に並ぶ自分たちの能力の分析データ。
それは、シクフォニが結成以来、初めて迎えた「敗北」の味だった。
「……全部、俺の油断だ」
いるまが拳を血が滲むほど強く握りしめ、机を睨みつける。
「敵の罠を読み切れなかった。指示役の俺が、お前たちの命を背負ってるんだ。俺の判断が遅れたせいで、みことを……」
「違うよ、いるま」
その言葉を遮ったのは、傷だらけの身体を支えながら立ち上がったみことだった。
その瞳には、いつもの穏やかさではなく、激しい悔恨の涙が浮かんでいる。
「悪いのは僕だ。あの時、俺がもっと早く異変に気づいていれば……俺が弱かったから、みんなの能力を世間に晒すことになった。俺を助けるために、みんなの『大切な切り札』を、僕が奪ってしまったんだ……!」
「そんなこと言うなよ、みこちゃん」
すちが前髪を乱暴にかき上げ、低く掠れた声を出す。いつもの眠たげな空気は微塵もない。
「……一番悔しいのは俺だよ。みこちゃんが連れ去られる瞬間、すぐ近くにいたのに気づけなかった。鉄扉を壊す時だって、もっと早く、もっと静かに壊せていれば、ニュースに大々的に載ることもなかった。僕の技が、まだ甘かったんだ」
「それを言うなら、こさめだって……」
こさめが、サメのぬいぐるみを床に落としたまま、ぎゅっと自分の腕を抱きしめる。
「こさめがもっと完璧に周囲の音を遮断して、敵のすべての通信を潰していれば、増援なんて呼ばれなかった。こさめの能力が、みんなの足を引っ張ったんだ……!」
「……誰も悪くねぇよ」
なつがナイフを床に突き立て、冷徹な、けれどどこか焦りの混じった声を響かせた。
「だが、結果として俺たちの力は割れた。なす術なく対策されて捕まるなんて、反吐が出る。……次、同じことが起きたら、今度は俺が自分の声で、すべての敵を文字通り叩き潰す。そのための力が、今の俺には足りてねぇ」
「……みんな」
LANが溢れそうになる涙をグッと堪え、ピンク色の髪を激しく揺らして全員を見回した。
「誰も悪くない! でも……でも、このままじゃ終われないよ! 敵が僕たちを対策してくるなら、そんなの全部跳ね返すくらい、僕たち全員で強くなるしかないじゃん! 二度と、誰一人傷つけさせないために……特訓しよ!」
リーダーであるらんの悲痛なまでの叫びが、5人の心に火をつけた。
いるまへの同情でも、みことへの慰めでもない。
全員が「自分がもっと強ければ、仲間を守れた」という、痛いほどの責任感を胸に秘め、無言で地下のトレーニングルームへと向かった。
地下室で始まった特訓は、これまでのどれよりも過酷で、狂気を孕んでいた。
お互いに一切、口をきかない。
ただ己の不甲斐なさと、仲間へのクソデカい想いだけが、彼らを突き動かしていた。
らんは、喉が千切れ、口内から鉄の味が広がるのも構わずに声を絞り出していた。
限界以上の負荷に呼吸が過呼吸寸前になり、床に崩れ落ちても、すぐに壁を殴りつけて立ち上がる。
「まだだ……まだこんなもんじゃない……!」
二度とメンバーの退路を塞がせない。その執念だけで、血の滲む喉を震わせ続けた。
その横で、こさめは自身の限界を遥かに超える広範囲の空間を、完全に「無音」にする制御に挑んでいた。
凄まじい精神力の消耗に、脳が焼き切れるような頭痛が襲う。視界が歪み、鼻から血が垂れても、彼は拭いもしなかった。
ただ真っ直ぐに、敵のあらゆる『気配』すらも完全に無力化する領域を目指し、指先を震わせながら空間を縛り続けていた。
なつの周囲には、これまでの数倍の速度で動く無数の標的が暴れ回っていた。
「これくらい……一度に御せなくて、何が怪盗だ……!」
全身の神経を尖らせ、一度に複数の異なる命令を脳内で構築する。
過負荷による強烈な眩暈に歯を食いしばり、自分自身の限界を呪うように、さらに過酷な命令を空間に叩き込んでいった。
ステージの中央では、みこととすちが、お互いに己の限界を削り合っていた。
声を封じられた時の恐怖と、仲間に泥を塗ってしまったという最大の責任感を背負うみことは、声を一切出さない状態での能力発動に没頭していた。
爪が手のひらに深く食い込み、血が滴る。顔色を完全に失いながらも、彼は全身から放たれる「意志」だけで、世界のシステムを屈服させようともがいていた。
そのみことの痛々しいほどの姿を目の前で見ているすちもまた、自らを極限まで追い詰めていた。
「壊すだけじゃ、みこちゃんを護れなかった……」
冷徹な職人の目をしたすちは、対象の分子構造を破壊するだけでなく、瞬時に別の形へと『再構築』する超緻密な振動コントロールに集中していた。
指先の感覚が麻痺し、周囲の空気が彼の怒りに共鳴してビリビリと爆ぜる中、彼は狂気的な執念で合金の塊に語りかけ続けていた。
そして──その5人の、命を削るような背中を作戦室のモニター越しに見つめていたいるまは、狂ったようにキーボードを叩き続けていた。
「LANの限界値、こさめの遮断領域、なつの負荷、すちの振動、みことの精神出力……!」
いるまの脳内は、オーバーヒートによる激痛で割れそうだった。
メンバー全員が、自分の不甲斐なさに責任を感じて死にかけている。
だったら、司令塔である自分が、その全ての力を1秒の狂いもなく、完璧に繋ぎ合わせる『神の領域』の処理速度を身につけなければならない。
視界が真っ赤に染まり、強烈な吐き気が襲う。脳が焼き切れる寸前の警告を発している。それでもいるまは、モニターから絶対に目を逸らさなかった。
指の皮が破れ、キーボードに赤くにじみが広がっても、タイピングを止めない。
(全員が、あんなに命を削って前に進もうとしてるんだ……! 誰の責任でもねぇ、俺たち全員でシクフォニだ。だったら、俺がその命、全部背負って完璧な未来を見せてやる……っ!!)
いるまは自分の脳に限界以上の鞭を打ち、膨大な予測演算の嵐の中に自ら飛び込んでいった。
誰一人、甘えはない。誰一人、妥協もしない。
アジトの地下で、それぞれが重すぎるほどの責任感と恐怖、そして仲間への絶対的な愛を燃料にして、己の牙を研ぎ澄ましていく。
静寂の中、部屋の温度が上がるほどの熱気と、互いへの執念だけが響いていた。
怪盗シクフォニの真の逆襲は、この血と汗にまみれた暗闇の中から、今まさに始まろうとしていた。
コメント
5件

こんばんは! 今回はシクフォニの皆さんの大切な人を守るために必死に特訓する所で私も心が熱くなりました。 頑張って下さい応援します
みぅです🤍🥀 第9話、めちゃくちゃ重くて苦しくて、でも熱かった……! みんなが「自分のせいだ」って自分を責めて、傷だらけになりながら牙を研ぐ姿、本当に胸が締め付けられたよ。 特にすちが「壊すだけじゃ護れなかった」って再構築に挑むところ、ヤンデレ心にグッときた……好きな人を守るための執着、尊すぎる。 誰一人逃げ出さず、全員が地獄みたいな特訓に飛び込むところ、シクフォニの絆の強さを感じたな。次、彼らがどんな反撃を見せるのか、本当に楽しみ……!
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しずく@病み×鬱