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以前にupした「君は僕の愛だけ気付かない」(赤→青)の続編というか
青さんside編です
いつ頃からだろうか。
横顔に、彼の視線を感じるようになったのは。
例えば、誰かと話している時。
例えば、ギターの練習をしている時。
例えば、……例えば、挙げていけばキリが無いほど。
デビューした頃?
バンドを組んだ頃?
それとも、
……それとももっと前、
同じ教室の中にいたのに、
まだまともに言葉も交わしていなかった、
あの頃から?
彼に嫌われてると思ってた。
まだまだ俺が、俺たちが、
あどけなかったあの頃から。
時折、まるで何か眩しいものでも見るみたいに、
彼は目を細めて俺を見ていた。
けれどその視線が持つ意味なんて、その頃の俺は、考えたこともなかった。
ただ、彼と音を奏でたくて。
それが楽しくて仕方なくて。
天賦の才を持つ彼に置いていかれないよう必死で、泡みたいに簡単に消えちゃいそうな夢を夢中で追いかけていた、あの幼くて、愛しい日々。
……もしかしたら……、と。
考え始めたのは。
自分がようやく、「大人」になってから。
もしかしたら。
その視線には、友情、メンバー愛、以上の何か、
それが何か……は、分からないけど……。
(……いや)
違うな。
それはきっと、違う。
分からないんじゃなくて。
その視線に込められた彼の想いに、
向き合うだけの覚悟が、
自分には無いだけなのかもしれない。
知るのが怖いような。
大事な、心地よい場所を、失ってしまいそうで。
この奇跡みたいな関係が壊れてしまいそうで。
それに、もしその想いを知ったとしても。
自分が、彼の想いに応えられないのなら。
「気付かないふり」をし続けた方がいい、ような気がして。
……でも最近。
ふと、思ってしまうことがある。
もし、
自分が、
彼の想いに、
「応えられる」としたら?
俺を見つめる眼差しも、
触れてくる手も、
愛をうたう歌声も。
ひどく寂しがり屋なところも、
甘えん坊なところも、
強気なくせに臆病なところも、
集中して仕事してる時の怖いほどの表情も、
イタズラ好きで、
かまって欲しがりなところも。
全部、いとしい、と。
可愛くて愛しくて仕方ないと。
そう思っている自分に、
俺が気付き始めてしまったとしたら?
実際のところ、俺が怖いのは。
俺が恐ろしいのは、この関係性が壊れるとか、
きっとそんなことじゃない。
自分の中の気持ちに、向き合うこと。
自分でさえ知らなかった感情に、向き合うこと。
それが一番怖くて。
その覚悟が無いから。
きっと俺は今日も、物分かりのいい、ノリのいい、大事なメンバーで親友、の顔をして。
曖昧に笑うんだよ。
彼の気持ちにも自分の気持ちにも、気付かない、ふりをしたままで。
「あー、ムズいーーーっ」
思わず叫んだ瞬間、レコーディングスタジオの扉を開けて、元貴が入ってきた。
「お?やってるね。どう?苦しんでる?」
カバンを置きながら、何やら嬉しそうにニヤニヤしている。
「もー意味分かんないのよ。ムズすぎて」
「いけるでしょうよ。若井さんなら、ねぇ?」
「くっそー…」
元貴にいけるでしょ、と言われてしまったら、やるしかないワケで。
でも出来ない自分が悔しくて、レコーディングスタジオの椅子に座り、何度も何度も、同じ指の動きを繰り返す。
元貴はその間、涼ちゃんや他の楽器の音を確認したり、スタッフと色々話し合って調整している。
「どんな感じ?」
様子を見に来た元貴と、「こう?」「そうじゃない」と話しているうちに、元貴が黙って俺の後ろに立った。
そして、俺の手からそっとピックを取り上げる。
(……あ)
ヤバい。
背中に、元貴の体温を感じた。
痛いほど。
熱くて、……元貴のあまい、香水のにおいもして。
クラクラする。
集中しなきゃ。
教えてくれてるんだから。
これは、仕事なんだから。
「…オッケー!分かった!出来たー!」
相変わらず。
彼は気付かない。
ありがと元貴!と笑う俺が、どれだけ必死で、
「気付かないふり」をしているかを。
「…うん、良かった」
そう笑う彼の笑顔に、
俺の胸がどれほど、痛んでいるかを。
彼は気付かない。
昨日も、今日も、明日もそのずっと先も、
きっと、気付かない。
そんな彼のことが、
本当は、
……世界で一番、大好きだと。
俺はいつからか。
気付いてしまって、いる。
end.
あれだけ食い入るように
穴があきそうなほど
赤さんに見つめられたらね?
そりゃ気付いちゃうよね?というお話です