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🐙︎🌟︎ × 🎲
配信終わりの、ちょっとしたご飯会。
テーブルには適当に買ってきた飲み物とおつまみが並んでいて、星導はソファに座りながら、隣の葛葉を眺めていた。
葛葉は手元の缶を開けると、何の疑いもなく口をつけた。
ごく、ごく。
「……ん、なんかこれ、うまいな」
「…………え?」
星導の動きが止まった。
葛葉が飲んでいる缶。
それは、星導が買ってきたアルコール飲料だった。
しかも、度数はそこそこ高い。
「葛葉さん!!」
「なに」
「それ、酒ですよ!!」
「…………は?」
葛葉が缶を見た。
ラベルを見る。
もう一度、星導を見る。
「……は? いや、これジュースじゃねえの?」
「いやいやいや、どう見ても酒でしょ!」
「だって色がジュースじゃん!」
「色で判断しないでくださいって!」
星導は慌てて缶を受け取った。
「え、待って。どんくらい飲みました?」
「……三口くらい?」
「三口!?」
「いや、そんな騒ぐことか? 俺、別に酔わねえし」
葛葉はふん、と鼻を鳴らした。
その顔には、いつもの余裕がある。
星導は嫌な予感がした。
葛葉は、酒に弱い。
本人は頑なに認めないが、以前ほんの少し飲んだだけで顔が真っ赤になり、眠そうな目で意味不明なことを言い始めたのを、星導は知っている。
そして今。
「……葛葉さん」
「だから、なに?」
「顔、赤くないですか?」
「赤くねえし」
「いや、赤いですよ!!」
「うっせ」
葛葉は星導の肩を軽く小突いた。
その仕草が、いつもより少しだけふにゃふにゃしていた。
星導は思わず息を止めた。
あ、これ、やばいやつだ。
「……しょーくん」
「…………はい!?」
数分後。
葛葉が、星導の袖を引っ張っていた。
「しょーくん、これ食べていい?」
「え、あ、どうぞ……?」
「ん」
葛葉はおつまみをひとつ摘まんで口に入れた。
もぐもぐ。
それから、星導の肩にこてんと頭を預けた。
「…………」
星導の脳内が、真っ白になった。
「……葛葉さん?」
「んー?」
「え、ちょ、何して……?」
「ねむい」
「ねむい!?」
「うん」
葛葉は目を細めた。
普段なら絶対にこんなことをしない。
誰かに甘えるどころか、ちょっと距離を詰めただけで「近いんだけど」とか言ってくるタイプだ。
それなのに。
「……しょーくん、あったかい」
「…………ッ」
星導は口元を両手で覆った。
やばい、無理、何これ。
普段あんなに生意気で、気だるげで、何を考えているかわからない顔してるくせに。
今、めちゃくちゃ素直に甘えてきている。
しかも、声がちょっととろけている。
「……葛葉さん、ちょっと離れましょうか」
「やだ」
「…………」
「ここがいい」
葛葉は星導の服をきゅっと掴んだ。
「…ッ、ん゛ん゛ん゛ッ!!」
星導は声にならない悲鳴を上げた。
「え、待って待って待って! 何!? 今日どうしたんすか!? 可愛すぎない!?」
「……うるさ」
「うるさじゃないんですよ!!」
「……声でけえ」
「すみませんだけど!!」
即座に声量を落とす星導。
葛葉は満足そうに目を閉じた。
「……ん、いい子」
「…………は?」
星導の心臓が、限界を迎えた。
「いい子!? 今、俺、いい子って言われました!?」
「……うん」
「…………〜ッ!!」
星導はソファの背もたれに顔を埋めた。
無理だ、これは無理。
自分の好きな相手が、普段は絶対に見せない顔で甘えてくる。
しかも本人は、たぶん何もわかっていない。
「……葛葉さん、お願いだから自覚持ってください……」
「なにを?」
「その破壊力を……」
「……ばかじゃねえの」
そう言って、葛葉は小さく笑った。
星導は、とうとうソファの上で崩れ落ちた。
「…………好き」
ぽろっと本音が漏れた。
「……ん?」
「いや、何でもないです…」
「……ふーん」
葛葉は顔を上げた。
ぼんやりした目で星導を見つめる。
そして、少しだけ首を傾げた。
「……しょーくん、俺のこと好きなの?」
「…………」
終わった。
星導の人生が、終わった。
「…………えーっと」
星導は必死に平静を装った。
「まあ、好きですよ、葛葉さんのこと」
「……ふーん」
「……え、それだけ?」
「なにが?」
「いや、普通もっと……こう……」
葛葉はじっと星導を見た。
それから、ゆっくりと口を開いた。
「……俺も、しょーくん好き」
「…………」
星導は動かなくなった。
「…………え?」
「好き」
「…………え?」
「何回言わせんの」
葛葉は少し不機嫌そうに眉を寄せた。
「……好きって言ってんじゃん」
星導は両手で顔を覆った。
「…………っ、待って」
「なに」
「いや、ちょっと待って。今の、もう一回
言ってもらっていいですか?」
「やだ」
「なんで!?」
「……恥ずい」
「…………〜ッ!!」
星導はソファの上で膝を抱えた。
可愛い、可愛すぎる。
いつもの葛葉なら絶対に言わない。
絶対に認めない。
なのに、今は恥ずかしがりながらも、自分のことを好きだと言ってくれた。
これが酔った勢いだとしても。
明日になったら忘れてしまうとしても。
今この瞬間だけは、星導にとって宝物だった。
「……葛葉さん」
「ん~?」
「……俺、今めちゃくちゃ幸せなんですけど」
「……そりゃよかったな」
「いや、葛葉さんのおかげなんですけど!?」
「……うるせえなあ」
葛葉は笑いながら、星導の頬を指先でつついた。
「……しょーくん、顔赤い」
「誰のせいだと思ってんすか……!」
「……俺?」
「そうですよ!!」
「……へへ」
葛葉が、笑った。ふにゃっと。
普段の不敵な笑みとも、配信で見せる笑顔とも違う。
ただ、安心しきったみたいな顔で。
星導は、とうとう耐えきれなくなった。
「……あーもう、ほんと無理……」
「……なにが?」
「可愛い、好き、大好き。どうしよう」
「……ん~?」
「いや、聞いてないですね!?」
葛葉は星導の肩に頭を預け直した。
「……しょーくん」
「はい……」
「……帰んないで」
星導の呼吸が止まった。
「…………え?」
「……もうちょっと、ここいて」
葛葉は目を閉じたまま、ぽつりと言った。
「……ひとり、やだ」
星導は、胸の奥をぎゅっと掴まれたような気がした。
可愛い、もちろん可愛い。
けれど、それだけじゃない。
いつも強がって、誰かに頼ることをあまりしない葛葉が、今、自分を必要としてくれている。
それが嬉しくて。
どうしようもなく、愛おしかった。
「……いますよ」
星導は、できるだけ優しく答えた。
「どこにも行かないです」
「……ん」
「だから、安心して寝てください」
葛葉は小さく頷いた。
そして、星導の袖を握ったまま、うとうとし始めた。
「……しょーくん」
「はい」
「……すき」
「…………」
星導は天井を見上げた。
「……神様、ありがとうございます」
翌朝。
「…………は?」
葛葉は、ソファの上で目を覚ました。
頭が重い。
口の中が乾いている。
そして、目の前には。
床に座ったまま、幸せそうな顔で眠っている星導がいた。
「…………何?」
葛葉は数秒間、固まった。
「……え、何でこいついんの?」
その声で、星導が目を覚ました。
「あ、おはようございます、葛葉さん」
「……おはよ。いや、じゃなくて。何でいんの?」
「え、覚えてないんですか?」
「……何を?」
星導は、口元を押さえた。
やばい、面白すぎる。
いや、笑っちゃ駄目だ。
葛葉は今、完全に何も覚えていない顔をしている。
「……昨日、葛葉さんが間違えてお酒飲んじゃって」
「……は?」
「そしたら、めちゃくちゃ甘えん坊になっちゃって」
「…………は?」
「俺の肩に頭乗せて、あったかいって言って、いい子って言ってほしいみたいな感じになって……」
「待て待て待て待て」
葛葉が顔を真っ赤にした。
「はぁッ!? 俺そんなこと言ったの!?」
「言いました」
「嘘だろ!?」
「本当です」
「……ッ、いや、待って。どこまで覚えてんの?」
「全部」
「…………」
葛葉は両手で顔を覆った。
「……死ぬ」
「死なないでくださいよ!」
「いやマジで無理。俺、何した? 他に何した?」
星導は少しだけ黙った。
それから、にやっと笑った。
「……俺のこと、好きって言ってくれました」
「…………は?」
「好きって」
「…………」
「しかも、二回」
「…………ッ!!」
葛葉は勢いよくクッションを掴み、星導に投げつけた。
「忘れろ!!!!」
「いや無理です!! 絶対無理!!」
「忘れろって言ってんだろ!!」
「だって葛葉さんが俺のこと好きって!!」
「酔ってたんだよ!!」
「じゃあ、しらふでも言ってください
よ!!」
「言うかボケ!!」
星導は笑いながら、クッションを抱きしめた。
葛葉は顔を真っ赤にして、ソファの端に逃げる。
「……マジで最悪……」
「えー、俺は最高の夜でしたけど」
「お前なぁッ……!」
「いや、ほんと。人生で一番幸せだったかもしれない」
その言葉に、葛葉がぴたりと止まった。
星導は、少しだけ真面目な顔になった。
「……でも、昨日の葛葉さんが言ったことを、無理に本当だって決めつけるつもりはないですよ」
「……」
「酔ってたし。覚えてないなら、なおさら」
星導は穏やかに笑った。
「だから、しらふの葛葉さんがどう思ってるのかは、ちゃんと聞きたいです」
葛葉は黙り込んだ。
恥ずかしい、死ぬほど恥ずかしい。
けれど、星導がふざけているだけではないことはわかった。
あんなに嬉しそうな顔をしていたのに、今は自分の答えを待ってくれている。
ずるい。
本当に、ずるい男だ。
「……ッ、あ~……」
葛葉は髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。
「……好きだよ」
「…………え?」
「だから! 好きだっつってんだろ!」
星導の目が、見開かれた。
「……え、今、しらふ?」
「当たり前だろ!!」
「……え、マジ?」
「二回言わせんな!!」
星導は両手で顔を覆った。
「…………ッ、やば」
「……何だよ」
「いや、待って。しらふの葛葉さんから好きって言われるの、想像以上に破壊力が……」
「……もう知らねえ!」
葛葉が立ち上がろうとする。
その手を、星導がそっと掴んだ。
「……葛葉さん」
「……何」
「ありがとうございます」
いつもより、ずっと真剣な声だった。
「俺も、葛葉さんのことが好きです。酔って甘えてくる葛葉さんも可愛かったけど、今みたいに照れながら言ってくれる葛葉さんも、すごい好き」
葛葉は顔を逸らした。
「……うるせえ」
「はい」
「……あと」
「はい?」
「……昨日、帰んなかったのは……ありがとな」
星導は、一瞬だけ驚いて。
それから、ふわっと笑った。
「……どういたしまして」
葛葉は星導の手を握り返した。
ほんの少しだけ。
でも、確かに。
星導はその手を見て、また悶絶しそうになった。
「……ッ、あ~、ほんと好き……」
「だから、声に出すなって!」
「無理です!!」
「うっぜえ!!」
そう言いながらも、葛葉は手を離さなかった。
それから数日後。
星導は、葛葉と一緒にコンビニへ向かっていた。
「……なあ、星導」
「はい?」
「……あのさ」
葛葉は気まずそうに視線を逸らした。
「……この前のこと、あんま他のやつに言うなよ」
「もちろんですよ。俺と葛葉さんだけの秘密ですから」
「……ん」
少しだけ、安心したような顔。
星導はその横顔を見て、また胸がいっぱいになった。
「……でも、ひとつだけお願いしてもいいですか?」
「……何」
「今度、酔ってないときにも、俺に甘えてほしいです」
葛葉が足を止めた。
「…………は?」
「いや、だって昨日みたいに甘えてくれたら、俺、めちゃくちゃ嬉しいんで」
「……ばっかじゃねえの」
「はい、馬鹿でいいです」
「……重いんだよ、お前」
「葛葉さん限定で~す」
「……最悪」
葛葉はそう言って、歩き出した。
けれど、数歩進んだところで、立ち止まる。
そして、星導の服の袖をちょんと引いた。
「……星導」
「……はい?」
「……手」
星導は、一瞬で固まった。
葛葉は顔を真っ赤にしながら、ぶっきらぼうに言う。
「……繋ぎてえんだけど。悪いかよ」
星導は、数秒間、何も言えなかった。
それから。
「…………~ッ、好き!!」
「うるせぇッ!!」
星導は笑いながら、葛葉の手を握った。
葛葉もまた、少しだけ指を絡めてくる。
それだけで、星導はもう幸せだった。
酔っていたときの葛葉も、しらふの葛葉も。
強がるところも、照れるところも。
全部、好きだ。
「……葛葉さん」
「……何だよ」
「今日も可愛いですね」
「……ぶっ飛ばすぞ」
「はい、好きです」
「会話になってねえだろ!!」
二人の声が、夕方の道に響いた。
そして星導は、繋いだ手をそっと握り直す。
もう二度と、あの夜の葛葉を忘れられそうになかった。
いや。
正直に言えば、忘れる気なんて最初からなかった。
りくえすとありがとう~ !
コメント
1件
すかりさん、第2話読了しました〜!もうもうもう、尊すぎて心臓が持たないです……!酒を間違えて飲んだ葛葉さんの豹変、普段のツンツンとのギャップがたまらなかったです。「しょーくん、あったかい」「帰んないで」には胸がぎゅっとなりました。そして翌朝の「忘れろ!!」からの「好き」の流れ、最高でした!!酔った勢いでも、しらふで言われても、どっちも本心なんだろうなって伝わってきて。手を繋ぐシーンも含めて、本当に素敵なお話でした。ありがとうございます〜!