信じられないくらい甘くて嬉しい言葉をかけられて、どうしようもなく胸が高鳴って、体まで熱くなる。
日本とニューヨークはあまりに遠く離れてるのに、声だけは……すぐ側にあった。
こんなに近くにあなたを感じられて、すごくドキドキしてるのに、手を伸ばしても触れることはできない。
「雫のこと応援してる。俺も今の仕事、必ず成功させるから。だから、一緒に頑張ろう」
「あっ、はい、頑張ります。私も祐誠さんを応援させて下さい」
私は、ただパン教室の先生になるだけ。
あなたは……きっと、何億、何十億というお金を動かすお仕事。
仕事のレベルが違い過ぎる。
なのに、一緒になんて……
申し訳ない気持ちになるけど、でも、あなたのその優しい思いに心が安らぐ。
それと同時に、祐誠さんの励ましで、私はまたほんの少しだけ強くなれた。
「じゃあまた。雫、ゆっくり休んで」
「祐誠さんも、体に気をつけて。無理しすぎないで下さいね」
「雫に言われたら、まるで奥さんに注意されてるみたいだな。守らないと叱られるから……気をつけるよ」
そう言って笑う祐誠さん。
「奥さん」なんて、そんなワードを出されたらキュンとしてしまう。
「おやすみ……雫」
頭の中から「奥さん」という言葉が消えないまま、祐誠さんとの時間が終わろうとしていた。
「あ……は、はい。おやすみ……なさい、祐誠さん」
しどろもどろな「おやすみ」の挨拶をして、私は電話を切った。
心臓の鼓動がなかなか治まらない。
改めて布団にもぐっても、しばらく寝付くことができずにいた。
枕に顔を埋めて思った。
3人からの電話……
祐誠さんも、慧君も、希良君も、本当に優しくて。
確かに、祐誠さんからは告白されたわけじゃない。
私をどう思ってるのか、本当の気持ちはわからない。
でも、こんなにも大切に扱ってくれて、その言葉や行動は私を幸せな気持ちにさせた。
私は、みんなに支えられてる。
そう思ったら、何だか自然に、勝手に……涙が溢れた。
泣いてる場合じゃない、早く眠らなきゃ。
明日は『杏』での仕事なんだから。
なぜこんなにも涙が出るのかわからない。
枕が濡れてしまうよ、いいかげん泣き止まないと。
私は、ため息をつき、ゆっくりと起き上がって洗面台に向かった。
大きな鏡に映る自分の顔。
涙の跡がついてぐちゃぐちゃだ。
目も真っ赤で……
こんなの誰にも見せられないよ。
その顔を冷たい水でバシャバシャ洗ってから、もう一度鏡を見た。
「うん、明日から、また頑張ろう」
目の前にいるもう1人の自分に向かって、私は決意を込めてうなづいた。
身も心も、引き締まった思いがした。
絶対にイベントを成功させるって、心からそう思えた。
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